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一年前の足跡

 服屋、食堂、動植物公園、マーケット。観光というより、まるっきりデートのようなコースを王女とエドワードは訪れたらしい。最初の服屋の店員は最近入ったばかりの子らしく一年前のことは覚えていなかったが、昼食を食べたという小さな食堂はエドワードの行きつけらしく、店の奥さんは一年前のこともよく覚えていた。噂好きのよくしゃべる女性だったが、常連だという彼の個人情報については知らないと言って何も語らなかった。しかしオレが名乗った時に一瞬驚いたような顔をした後何か言いたげにニヤニヤしていたことから、彼女はエドワードのことをよく知っているのだろう。彼のことを知っている人たちは、決まってオレに対してそういう反応をするのだ。ここにもあの冗談で言われたプロポーズの噂が広がっているのだろう。エドワードがきちんと誤解を解いてくれればいいのにと思うが、彼は気にもしていないのか全く否定している様子はない。そのためオレが否定するのだが、何故か彼らは一様に呆れたような顔や同情するような顔をするのが不思議でならない。

 昼食をとりながら王女とお店の奥さんが一年前のことを楽しそうに話してくれたため、サラのエドワードに対する警戒心は最初よりは和らいだようだが、信用するには至らなかったようだ。これはもう本人に会って直接話さない限り信用してはくれないだろう。

 食堂から動植物公園に移動した後、ずっと気になっていることを確かめることにした。

「ちょっとトイレ行ってくるから、先に行っててくれ」

「りょーかい。一人で平気?」

「おー」

 同じように気づいた様子のシェリーに見送られ、オレは一人その場を離れた。


 名前に植物園と付くだけあってここは様々な植物が植えてあり、道も複雑で、連絡手段なしにはぐれたら合流するのが大変そうだと思う。そのため対象を必死で追いかける彼の背後をとるのは意外と簡単だった。

「何してるのかな? そこの怪しいオニーサン」

 肩を叩き声をかけると、こちらの存在に全く気付いていなかった彼、フェリクスは面白いくらいに驚いて飛び上がった。

「っっっ!!! び……っくりしたぁ!! 脅かさないでくれよ」

「ストーカーが何を偉そうに」

「ストーカーじゃない、護衛だ」

 フェリクスは胸を張って答えたが、やっていることは誰がどう見てもストーカーだ。通報される前に声をかけてあげたのだから感謝してほしい。

「全く。王女に見つかるのもまずいだろうが、『エディ』に見られたらどうするんだ?」

 それとも本当にお前がそのストーカーなのか? と冗談半分にカマをかけてみると、ひでー、そんな訳ねーだろ、と拗ねたように返事をした後、急に真面目な顔をして話し出した。

「なぁ、あんたもストーカーの話聞いてるんだよな? だったら気づいてるんだろ? ストーカーは外部の人間なんかじゃねーよ」

「……オニーサンは王女にどこまで聞いてるの?」

 突然核心をついてきたフェリクスに、動揺を隠しながら逆に探りを入れる。

「どこまでって……そもそも、シャルロット様の部屋の前に落ちてたその手紙をシャルロット様に渡したのが俺だよ。差出人も何も書いてなかったけど部屋の前に落ちてたから、見覚えありますかって。わかんなかったみたいでその場で手紙を開けたんだけど、その時に落ちた写真が見えたんだよ。そこでおかしいことに気が付いて、慌てて手紙もシャルロット様が読む前に回収しようとしたんだけど間に合わなくて……。城の中にあったものだから油断した……っても言い訳にしかならねーけど、怖がらせちまったことは後悔してるよ」

 そういうと彼は俯いていた顔を上げて素早く視線を走らせ、遠くの方で笑う王女を見つけて、見失わなかったことにほっと息を吐いた。

「あんなところに手紙を置くのは外部の人間、まして同じ国でもない人間になんて不可能だ」

 王女から視線を外さずに彼は言った。

「オレはサラを疑ってる」

 フェリクスの言動からそうであろうことはわかったが、まさかはっきりと言い切られるとは思わなかった。

「なぜ?」

「あいつのシャルロット様に対する執着は異常だ。シャルロット様が人、特に男と話してると不機嫌そうにしてるし、俺なんか仲がいいから特に毎回すごい目で見られるぜ。まぁうまく隠してるみたいだから知ってる奴は少ないけどな。シャルロット様も気づいてないみたいだし。まぁだからといってサラがストーカーだっていう証拠はないんだけどな」

 そう言って彼はため息をついた。なるほど。エディへのあの態度は、ストーカーに好意を寄せる王女への心配ではなく、単純な嫉妬だったってところか。

「オレにそんなこと話してよかったのか? オニーサンはオレ達を信用してないのかと思ってたんだけど」

「ジスラン様が信頼しているあんたんとこの王子が頼んだ相手だからな。最初から疑うなんて選択肢すら持っちゃいねーよ」

「会った瞬間のことをもう忘れたのか?」

 信頼した上でのあの態度だというのだろうか。

「信頼と腕っぷしは別物だろ? それにほんとに強いんだったら一度手合わせ願いたいなって思ってたら、想像以上に可愛い女の子だったもんだからついつい、な。悪かったよ」

 イラっとした。しかし軽い男のようではあるが、最初に思った印象とはずいぶん違うのかもしれない。

「まぁいきなり俺を信用してくれ、は難しいだろーからさ、それはまだいいや。ただ、サラの事も疑ってくれると嬉しいな」

「……あんたは王女の事どう思ってるんだ?」

「可愛い妹のようなもんだよ」

 嘘だ。

 聞かれると分かっていたのだろう、間髪入れず答えた言葉はどこまでも軽かったが、王女を見つめるその視線はとても妹に対するものではなく、もっと甘さを含んだもののように見えた。隠す気がないのかと思ったが、どうやら無意識のようだ。忠告してやろうかと思ったが、余計なお世話かと考え直し、一つため息をつくことで彼へのアドバイスを飲み込み、了解、とだけ返しておいた。

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