王女の目的
「さて王女様、どこか行きたいところはございますか?」
アリシアの問いかけに王女は寂しそうな顔をした後、少し迷った後口を開いた。
「その前に、一つだけお願いがあるんです。今日は私のことを王女ではなく、ただの女の子として扱ってくれませんか? もちろん、サラも」
「ですが、シャルロット様……」
「お願いします! サラも、お願い! 今日だけでいいから」
シャルロット王女は拝むようにしてオレ達を見る。オレ達は構わないが、確認のためサラの方を見ると、どうしたものか悩んだ末、今日だけよ? と渋々了承した。
「ホント? ありがとう! サラならそう言ってくれると思ってたわ!」
「貴方は一度言い出したら聞かないから。たまには大人しく私たちの言うことも聞いてくれたら嬉しいのだけど」
「あ、そうか。王女扱いじゃなくなったら小言が増えるんだった。失敗したかな」
「あら、今からでも前言撤回する?」
「そんなことしませんよーだ。……やっぱりサラとはこの距離感がよかったな」
「……仕方ないでしょう? 今日だけで我慢なさい」
「はーい」
目の前のまるで友人のような気兼ねないやり取りに驚いていると、それに気が付いたサラが笑いながら教えてくれた。
「私の家族は代々王家に仕えていて、私は王女が生まれた時から傍にいたんです。子供の頃は常に一緒で、まるで本当の姉妹みたいねってよく言われてました」
「それがいつの間にか王女と侍女になっちゃって。私は昔のままがいいって言ってるのに、嫌んなっちゃう」
「何言ってるの! 今でもちゃんとあなたのマシンガントークに付き合ってあげてるでしょう? 侍女はそんな仕事しないわよ?」
「あはは、感謝してます。たぶんサラは私のことで知らない事なんてないんじゃないかな?」
二人は本当に仲が良いようで、お互いのことが大好きなんだと感じた。情報入手や盗撮のしやすさで言ったらサラが一番怪しいのだが、今の会話を聞く限り彼女が王女が怖がるようなことをするとは思えない。それにあとの二人にもスケジュールの把握や盗撮くらいなら簡単にできるだろう。
「じゃあ改めて、シャルロットはどこに行きたい?」
アリシアの友人に対するような問いに、王女はとても嬉しそうな顔をした。
「あのね……」
「こっちこっち、その花屋の裏よ」
王女が楽しそうに先を歩いている。王女に観光案内を任されたオレ達は今、王女に案内されて歩いている。理由は簡単、王女の行きたい場所というのが、一年前にエディと行った場所だったからだ。
「確かこの辺だったと思うわ。あっちから男の人たちが歩いてきたの」
「あなたよくこんな薄暗いところを一人で歩いてたわね」
サラが呆れるのももっともだ。綺麗なドレスを着た女の子が一人、周りを気にしながらこんなところに入って行ったなど、そういう人種からすれば格好のカモだろう。
「その時はそこまで気が回らなかったのよ。反省はしてるわ。けど、その時エディが颯爽と現れて助けてくれたの! まるで王子様みたいだったわ!」
まあ実際王子様なんだよな。そういえば、王女の言うエディの正体のことはシェリーとアリシアにはちゃんと話してあるのだろうか?
「シャルロットは本当にエディのことが大好きね」
その言葉には棘があり、王女は首を傾げている。
「どうしたの、サラ? 私何か変なこと言った?」
「あのね……。手紙の事、忘れたの? 恩人ならいいけど、ストーカーとの恋を応援するわけないでしょ?」
サラの言葉に、王女が勢いよく反論する。
「だから! エディがそんなことする訳ないでしょ? 彼はいい人だったわ!」
「どうかしら? 一年前のことだって、本当は絡んできた男たちとグルで自作自演の可能性だって考えられるわ」
「もう! その日の事は何度も話したでしょ! ずっと優しかったもの!」
王女の言葉に、サラはより一層不満そうだ。サラの中ではストーカーはエディだと確定しているらしい。確かにサラはエディを王女の話でしか知らないし、彼女の言うような可能性も考えられるだろう。王女の方は微塵も疑ってないようだが、何も知らずに聞いていればサラの反応の方が正しいように思う。まあ、エドワードのことを知っているこちらからすれば王女の言っていることにも納得出来るのだが。確かになんか安心感があるんだよな、と、間違っても王女と遭遇しないようにとギルバートに自宅謹慎を言い渡されていた彼のことを思い浮かべた。
「いいわ。あの日はいろんな人に話しかけられたから、その人たちと話せばサラだって思い直してくれるはずよ。さあ、次に行きましょう!」
サラを連れてきたのは、エディへの疑いを晴らすためだったようだ。それはいいが、困ったことに王女はエドワードに惚れているらしい。探せと言われたらどうしようか。そこまで考えてモヤモヤしだした気持ちに首を傾げながら、王女の後に続いて次の目的地に向かった。