エディ
「あ、ノエルちゃん、ギル、おかえり」
「お疲れー」
「あれ? エドがいる」
明日からの予定について話そうとギルバートと自宅に帰ると、オレの可愛い弟であるレオンと、先ほどまで一緒にいたブラコン王子の可愛い弟であるエドワードがいた。
エドワードは王族であるが、正妃の子供でない等の諸々の事情によりその存在は公にされてはおらず、一般人として生活している。まぁ、あの兄たちが所かまわず弟自慢をするせいで、彼らと親しい人は大体知っているが。所謂公然の秘密というやつだ。彼とは職場が一緒で、最近はバディとなることも多い。明るくて仕事も出来る良い奴なのだがどうもフェミニストらしく、以前オレにプロポーズのようなことを言ってきたため、それ以来城に何度も呼び出されるはめになってしまった。彼にとっては軽い冗談のつもりだったのだろうが、ブラコンは本気にする、ということをもう少し理解してほしい。
国民生活支援センター。それは善良な住民の悩みを聞いて、可能な限り解決の手助けをするという施設である。ただしそれは表の仕事であり、裏では一般市民の手に負えない危険な依頼を、国家公認という名目の下に合法的に解決している。職員の中でも裏の仕事を請け負うものはごく一部で、オレ達はその一部に所属している。今回の依頼もその一環ということだった。
「今日城に呼ばれてたから気になって。兄さん達なんだって?」
「さすが情報が早い」
彼も裏の仕事は行っていたのだが、諸事情によりオレとバディを組むまでは実戦ではなく比較的安全な情報収集をメインとして行っていたらしい。オレは残念ながらコンピューター関係はさっぱりなので、素直にすごいと思う。
「丁度よかった。一つ貴方に確認しておきたいことがあったんですよ」
ギルバートが良い笑顔でエドワードを見て言った。
「貴方、シャルロット王女にストーカーなんてしてませんよね?」
一瞬、部屋の時間が止まった。ギル、他に言い方があるだろう、と思ったが、彼の性格から考えて十中八九わざとだろう。と、いうか。
「え? 王女の言うエディって、ホントにエドのことだったのか?」
オレがギルバートに確認すると、エディ、の時点でエドワードが大きく反応した。兄たちはそう呼んでいるが、やはり嫌なんだろうな。そして一拍遅れてギルバートの問いかけを理解したらしく、するわけないだろ!! と盛大に否定した。レオンはどうやらギルバートの言葉をまともに受け止めてしまったらしく、エドワードを疑いの眼差しで見ている。素直で大変に可愛らしいが、そんなになんでも信じていつか悪い人に騙されてしまわないか、姉として非常に心配だ。
「つまり、そのシャルロットのストーカーがオレに罪を着せようとしている、と」
「そういうことみたいですね」
ギルバートがざっくりと説明すると、エドワードは苦い顔でそう結論付けた。
「ホントにエドじゃないんだろーな?」
「そんな訳ないだろ! ノエルに誤解されるようなこと言うなよ!」
まだ疑っている様子のレオンにそう吠えてから慌てたようにオレの方を見てきたので、思わず笑ってしまった。
「そんな心配しなくても誤解なんかする訳ないだろ? まだそんな長い付き合いでもねーけど、エドがそんなことする奴じゃないってちゃんとわかってるから」
そう言葉にすると、エドワードはとても嬉しそうに、そっか、と呟いた。
「レオンも、ギルの言葉は冗談だから。ギルもレオンの前でそういう不安にさせること言うなよな。レオンはそういう不誠実な男が大嫌いなんだから」
「レオンが嫌いなのはお姉ちゃんを狙う男だよ」
「え?」
「何でもないです」
エドワードが何か呟いたが、何でもないというのだから大したことではないのだろう。その隣でレオンが笑っているので、どうやら誤解はとけたようだ。
「誤解もとけたようで何よりです。さあ、仕事の話を始めましょうか」
元凶であるギルバートがそう言うと、部外者であるレオンはまた後でね、と素直に部屋を出ていき、エドワードは何とも言えない顔でギルバートを見ていたが、結局何も言えず盛大にため息をついて項垂れた。