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1.面倒事は常に近くに

回廊要塞を詳しく知る者はこの中にいない、もちろん4年目になるシュガーでもだ。

要塞自体、面積、容積共に非常に大きく、中堅都市以上の広さに地上最大6階、地下は4階である。

また、敵の攻略防止の為に外郭から非常に複雑な迷路があり、案内板が無ければ味方も遭難する。事実、配属された兵士に恒例の歓迎として要塞内でオリエンテーリングを実施させるが、地図、コンパス携帯でも生還率10%以下という点でお察しである。いう自分も漏れずである。

それにこの要塞はあと数年で無用なものになる可能性もあるからだ。

理由は簡単、兵器が洗練されより効率よく破壊されるようになったからである。

空を見上げれば聖石により発展した戦闘機、そして空中を浮遊、高度維持出来る空中艦隊が出来たからだ。それは皮肉にも要塞をガンガン作っていた我が国が内戦を経て開発に成功したのだ。

開発されたのは空中巡洋艦「ベラヌス」、全長70m、重戦車10両分の破壊力と、一点に向けてコンクリートを破壊、内部で炸裂するバンカーバスターなる爆弾の開発。これらが現在主役の政府軍が内戦中に実戦で投入されて見事に強固な防御陣を砕いたのだ。

現在は約15mの護衛駆逐艇から140mほどの重巡洋艦まで揃い、戦闘機を発出させるものも開発されている。最大の帝国に至っては全長200mを越える戦艦やら陸上を動く要塞などが作られているなど噂される。

これがきっかけで内戦終了後に恒久要塞の見直しが始まり、ベルヌークもその対象になった。現在は防御陣地を破壊する手法から応用していかに破壊されないかに重きを置き山脈の天然要塞とわ合わせて当分は機能しそうだが、維持費も馬鹿にならず、精兵化という名の下の軍縮に急激な成長を見せ、更に空の覇権争いで山脈を悠々越える空中艦隊が出来れば一気に無用なものになるだろう。


さて、そんな無駄話は置いといて、今目の前にある状況を整理したい。

「新人教育・・・ですか?」

立哨を終えたらこちらに呼び出されて今に至るが、現在上級指揮官にあたる大佐殿が不思議な事を述べて下さってやがります。

「そうだ。こちらに陸軍大学を修了した人間を二人預かることになった。将来の中央候補だ」

大佐殿はいかにも面倒だといわんばかりでいう。確かにこの人は戦場でそこそこの活躍はしたが、将来中央で参謀職に就ける陸軍大学の受験資格を得られず歩兵の大佐どまりとつまらない結果になったからだろう。

更に理由は続く

「我が国は伝統として大学卒業者にはあえて前線の国境警備師団での研修をしている・・・の名の下で後方などで安全に研修をしていただいているが、今回来る人間は少し毛色が違うみたいだ」

国家国防の最前線を中央のエリートが肌で感じて、「国を守る」という暗黙の使命を胸に刻む。

口上はご立派だが、高等な学校を卒業した上で栄誉と見栄で軍に入隊したエリートと、国民学校出て軍に居場所を見出す兵隊、それがどんな軋轢を生むか。

特に陸軍大学で将来有望な方々はその差別の傾向が強い。割り切れる下士官や居場所の為に従う兵士はまだいい、最近増えたやる気のない徴集兵たちはそれに反発し自由を謳い、最近は危惧される戦力低下も起きている。

他にも廃止されてるはずの貴族や騎士の優遇や内戦でのし上がった新興財閥の圧力や何度も言うが軍縮での兵士の肩身の狭さなどなど・・・

渡された書類にシュガーは目を通す。卒業した人数は31名、そして配属されるのは内2名・・・。

「本当のエリート様でありませんか」

「ああ、エリートだ。面倒なほどにな」

片方は女性だが28で少佐、先祖は伯爵家で現在も領地とされた州の知事を務める一大政治家。もう片方は庶民であるが国費で全ての教育課程をクリアした30の大尉。どちらも若く、そして異例の速さで陸軍大学を抜けている。

「閣下のご意向もあり、若年者は現場の指揮官と交流を持たせた方がいいとな・・・最良の下級士官と下士官を付けての教育、あまりないことだがやってもらいたい」

閣下というのは最上級の東部国境警備軍団軍団長のセルリ中将閣下のことだろう。

「はっ・・・しかし」

叩き上げには重いものではと言おうとしたが、大佐殿は目で圧してくる。軍歴30年オーバーは伊達ではない。

「シュガー君」

「はっ」

大佐殿はゆっくり立ち上がり笑顔で言う

「世のなかにはな、考査というものがあるんだ。特に平時中はね。それにもう少尉で定年を迎えるのは嫌だろう?」

もう推薦してるから俺の顔を汚すなら容赦はしないぞということですかな?大佐殿の考査下がるなら自分のほんの少しの中尉昇進の可能性も握り潰すと?マジかこの面倒大佐殿

口にはしないが表情で察したらしく「物わかりの良い部下を持って嬉しいよ」と抜かしてくださる。

「まあ、事実この要塞の中でも軍歴長く、上に従順な人間はそうそういないからね。これで評価良ければ中尉も考えれれるよ」

大佐殿はそういうが、そんな言葉が東の自治州出身の部下が言ってたな、「検討しますは逃げ口上」てな。

内戦やその後のなんやかんやで少尉になった自分であるために出世欲は薄いと思っていたが、中尉という言葉を聞くとどうしても疼いてしまう。平民の悲しい性かな。


「まあ、やる気になったところで下士官も紹介しておこう。はいりたまえ」

面倒事が解消されてウキウキの大佐殿はそのまま下士官を呼ぶ。既にこちらは決まっていたのか。

「失礼します」

扉が開かれたと共に入ってきたのは・・・

「・・・テルシーか?」

「お久しぶりです。シュガー助教殿」

目の前に立つ人物、それは8年前、当時下士官準備兵長でありシュガーが鍛えた元教え子にして現女性鬼軍曹、テルシー・ユンカー軍曹であった・・・。

「君は付き合いの深い人物なのだろう。連携にかかる時間は減ったな。今後は君の持つ小隊の下士官として彼女を配置、小隊全体で少佐たちを支援しろよ?」

「お願いいたします」

満足そうに言うが大佐殿に頭を下げる軍曹・・・しかしこの軍曹、少々問題がある・・・。いきなり難題にぶち当たり意気消沈するシュガー

しかし、それ以上に問題児が入ってくるなんて、当の本人は知る由もなかった・・・。


テルシー・ユンカー

28の軍曹。15の時に軍に入隊。助教のシュガーに色々叩き込まれ女性ながら精兵。精悍な表情で同性にモテる。平和でもストイックというか肩の力が抜けない面倒な性格。


面倒大佐殿

名前はまだない。もうすぐ定年だが、准将の栄誉昇進を狙って発言する、が面倒は部下に押し付ける。だから歩兵大佐なんだ。

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