0.帝国方面異常なし
世界暦350年
人の手によって作られた、車、鉄道、機械、灯り、武器などの万物の動力になりえる石、「聖石」がミニシア大陸の地から、続々と発見された。
その石は、色により効果は違い
透き通る赤は、ほぼ全部の武器の威力強化、灯りなど火力
透き通る蒼は、銃の弾道安定、医療、浄水など癒やし
透き通る緑は、銃の弾速強化、ク―ラ―など、風
代表以外にも、多数の聖石が存在し、そしてその聖石を巡り、100年間の大戦が起こった。
これを後に「100年大戦」と呼ばれる。
そして100年後の世界暦450年、あまりにも戦争の被害の大きさに、ミニシア大陸諸国は一斉に戦争をやめ、現在の諸国領土で終戦をした。
さらに、首脳会議の決定で、世界暦から聖石暦に変更、戦争からの決別をはかった。
こうして、ミニシア大陸には多数の国が出来る。
主人公の国は、大戦時代初期から中期にかけ、サ―ベルとレイピアの扱いに長けた兵士が多く、今はその誇りから国の名前にしている地域大国サ―ベルレピア連合王国である。
一時は聖石の戦争の後遺症と、そしてついこないだまで国王軍、各領地の貴族勢力と平民勢力、更に自治州独立勢力で内戦が勃発など悲惨な目にも遭ったが、13年前、国王軍が新たな聖石の産出技術と大規模鉱脈を確保したと同時に一気に力を取り戻し、国王による改革宣言と新憲法により立憲君主、貴族制の廃止と議会の設置、自治州の経済を壊して併合、その後国王は資金を還元して一気に経済を回復、現在では地域大国として一定の地位を確立した。
そしてこの国は内陸で四方国に囲まれ、主な国は四つ。
東はベルナ―ク回廊以外、標高1万mの連峰で国境が区切られた大陸の25%を占める領土、最大の人口、軍事力を誇る、ライトニア帝国
西には友好国で、領土は小規模でだが、海と内陸部との交易で行商人の国、シ―ア共和国
北は、工業が盛んで、高い技術を誇る大国、ハワ―ド連邦
南は鉱山が多く、聖石が全部手に入れる事が出来る国、リンク大公国
北東には、最友好国で聖石は少なく、大戦にもあまり参加してなかった農村でのんびりした国、レクサス王国
内戦から平和が確立され、徐々に治安が回復すると同時に各国軍縮に転じるようになる。そしてサーベルレピアも例外ではなかった。
聖石暦50年
3月10日
0850hrs
ベルナ―ク回廊要塞
道幅5800mのでかい回廊を要塞の屋上から監視する人間が数百人、回廊両端の連峰内部に作られた要塞の、回廊両端からも10人ずつ、いずれも王国の黒を基調にした軍服を身にまとい、最近開発された速射銃を肩にかけ、男性士官はサ―ベル、女性士官はレイピアを帯刀している。
ここは帝国とサ―ベルレピアを貫通する、唯一無二の道、ベルナ―ク回廊だ。
ここだけ標高は1000mほどで、帝国に向かって人が通れる程度丘陵で坂道となっている。
この丘陵を使ってトーチカ、重戦車による特火点を作り、万が一帝国が侵攻してきたら、坂道をえっこら昇ってくる兵士どもをここで皆殺しにしつつ、更に後方は要塞に搭載される要塞砲を持って粉砕にかかる。
何故この回廊が、標高一万を超える連峰の間をぽっかり空いているのは、諸説あるが、有力は今は血絶えた、聖石魔法を操る魔術師がこの回廊を作り上げたという説が強い。
昔はこの帝国の侵攻を防いだり、攻撃したりで、多数の戦死者を出した回廊だ。今は帝国商人と王国商人の重要な交易地となっているが、昔より大分緩くなったが、この王国要塞から中立地帯の回廊80kmを挟み、帝国要塞が存在する。
この中間点を国境とし、防御陣地や前線衛戍軍、行政として派遣される人間以外原則町や店などない。その代り広大な要塞内部は一つの都市、歓楽街として軍需関係者、交易人によって栄えている。
要塞と、東部地域は、東部国境警備軍団によって守られる。一番交易があり、関所が多いシ―ア共和国の国境警備は西部国境警備旅団、対して、一つしか門が無いのに、師団クラスを投入する東部の警戒は厳しい。
ここでサ―ベルレピア軍の大まかな編成を紹介する。
基本編制師団は12000~16000人である。
国境警備軍
北部国境警備師団
東部国境警備軍団[三個師団編成]
南部国境警備師団
西部国境警備師団
国境緊急展開師団
王都軍
近衛師団[王室直轄外周部隊]
王室親衛隊[王室直轄最精鋭部隊]
王都守備軍団[三個師団]
猟兵師団
王国主力軍
四個機甲打撃師団
八個自動車化、機械化歩兵師団[予備役主体の書類師団含む]
十二個歩兵師団[予備役主体の書類師団含む]
約40%が徴兵された兵士であるが、最近は良心的兵役拒否やらというものが出来て、兵役拒否する人間が続出しているそうで、困っているものだ。
これとは別に航空艦隊となる空飛ぶ船があるがそれは後で説明する。
そしてこのベルナ―ク回廊要塞は、名の如く、回廊と王国領を遮る砦。有事には3個師団丸ごと余裕で籠城出来る。王国軍で最大級に匹敵する。
「眠い・・・」
欠伸を噛み殺しながら屋上立哨をする男、東部国境警備師団第77連隊64小隊隊長、シュガ―・シ―メンス少尉である。
シュガ―という名前だが、れっきとした男で、32の兵卒叩き上げ士官である。
「要塞回廊方面いじょ―なし!」
平和だ……平和すぎる毎日。国民学校を戦争で早くに修了、14で軍に志願入隊してから18年、地獄のような内戦を経験し、終了したのは10年前、そしてこの地平線を仲間や部下と眺め続けて早4年。お陰様で視力は2,5、帝国との行商人の行き来で下手な経済学者よりも経済状況に詳しくなった。
武器の使用は10年前を境にほとんどなくなり、時々人里荒らす害獣討伐、または禁輸品の検閲の際の被疑者抵抗の時の威嚇射撃くらいだ。憲兵隊に配属されればもっとあるかもしれないがごめんだ。
最近は軍縮論が強くなり、俺らの風当たりが強くなりそうだ。軍の忠誠心は高いとは言えないが、ある程度の意地はある。認めてもらえないがな。
考えて何か鬱になった時、
「よっ!お疲れさん。交代の時間だ」
陽気な声をかけてくるのは67小隊隊長、ニア―ス・ダイソン中尉だ。
年齢は6個年下だが、士官学校卒業なので階級は上だ。来年には大尉で中隊長とばして大隊長らしい。
この憎めない陽気さが年齢を越えて仲が良い、あと下世話な話だが純粋培養士官殿と繋がりがあると今後が楽である。
「シュガ―、面倒だけど、報告よろしく」
「ああ…」
言わずもがなだが、一応体裁を取り合う報告。
「早朝屋上立哨、回廊方面異常無し!0900をもって第67小隊に引き継ぎます!!」
「異常無し了解、回廊方面屋上立哨第64小隊から引き継ぎます!」
双方踵を揃えてビシリと敬礼を決める。その後笑い合い
「お疲れさん」
「ああ、気を抜くなよ」
「言われなくても」
拳をぶつけあい、双方労いと応援する。
「第64小隊、立哨終了!」
「了解!」
シュガ―は十数人の部下と共に撤収する。
シュガー・シーメンス
軍歴の長い下級士官。
経歴は謎が多いが面倒事に巻き込まれる体質。人に教える立場になるが、本人は嫌う。