怒れない男 2
Y次郎はそれなりに名の知れた国立大学を出た後、東京の総合商社に入社したため上京。特に不自由のない上々の社会人一年目を過ごしていた。
初めは戸惑うこともあったが、若さのエネルギーと適応力ですっかり都会人となっていた。Y次郎は真面目な若者だったので入社から半年も経てば、仕事にも慣れ、同期ともまるで昔からの親友のような関係になっていた。
Y次郎の特殊能力が目覚めたのは入社から二年目を迎えたある日のことである。
その日Y次郎は入社一年目の新人 Tに書類の整理をやらせ、自らは印刷機械のリースの取り引きに出かけていた。
商談は見事成功し、鼻歌を歌いながらオフィスに帰ってくると、顔面を真っ赤に沸騰させた上司と書類整理を任せた新人が今にも泣き出しそうな顔で同時にY次郎に向きなおった。
「K部長、例のB印刷の商談を取り付けて参りました」
「そうか、良かった!ただY次郎君、こちらの件がまったく芳しくないのだよ」
「申し訳ございません、私のミスです」
「ミスです、で済む問題でもないだろ!」
Y次郎がTに任せていた書類整理。そのうちの一つ、お菓子工場で使われている機械の部品を予定より多くTが発注してしまったのだ。
もちろんTが上司に厳しく叱責されたが、同時にY次郎も重要な書類を扱う時はなるべく他の商談に行くな、と強く注意された。
その日のY次郎は商談を取り纏めたのにも関わらず、馬鹿馬鹿しい後輩のミスのせいで癇癪を抱えながら帰宅した。