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恋せよ乙女、しのぶれど  作者: eyebox
第一話 紅葉の誓い
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ただ眼鏡をかけることで素晴らしい威力を発することに対する感動が人より強いだけだ

「・・・そんなわけなんだが広海、どうすればいい?」


 教室。昼休みの今は昼食を広げたりお喋りに余念のない生徒たちで騒がしい。

 瑶子自身も購買で買ってきたクリームパンを机の上に広げている。


「瑶子の誕生日って、」


「九月九日だ。あと四か月」 

 

 今日は五月七日である。


 定永広海さだながひろみ。瑶子の唯一の―――というわけでもないが、一番親しくしている、頼りになる友人だ。この友人に相談すれば、大抵の問題は片付く。そんなわけで、時代遅れな十六までに婚約しなくては問題について話していたのだ。


「別に不可能ではないと思うわ」


 肩にかかるウェーブした髪。耳の後ろの髪を編んで後ろでまとめ、年齢に似合わない落ち着きと上品さを演出している。たれた目と長い下まつ毛が印象的だ。


「そうだよなー、やっぱそんなのは無理だよな。大体十六で結婚相手を決めるなんて無謀にも程がある。十七で運命の人に出会ったらどうするんだ」


「運命を信じてるなんて可愛いわね瑶子。たった十六で相手を決めなければいけないのも愚かだと言わざるを得ないわ。けど私、不可能ではないといったのよ」


 暢気そうにじゅるる~と音をたてて紙パックのフルーツ牛乳をすする広海。


 なんで真面目にそんなことを言うんだ、広海らしくもない。広海の信条は 「現実を正しく把握すべし」、じゃなかったか?


「・・・本気か広海?」


「普通の女子高校生なら無理でしょうね。でも瑶子なら話は別」


 飲み終わった紙パックを丁寧に畳んでいく。冗談を言っているようでもない。広海はしごく冷静だった。


「だってつい一昨日だって告白されていたでしょう?」


「っっっっっ、!、なっ、なん、げほっ、ななななななんで知ってるんだそんなことをっ!?」


 あわてて後ろを振り返る。こんなことをあいつらにでも聞かれていたら大変だ、全く大声で言うなんてどうかしてる!カスタードがのどに詰まって私が死んだらどうするんだもし餅を食べていたら十中八九窒息死だぞ!?


「高校でお餅を食べるほど瑶子はお餅好きじゃなくてほっとしたわ。あとクリームがほっぺについてる」


 思考を読んだような広海。狼狽したとはいえ変なことを考えてしまったが、突っ込むべきはそこじゃないだろう・・・

 言われた通り頬のクリームをなめ、昼食を食べ終わる。

 よし、これでまともに話ができる。むせる心配もなくなって準備万端だ。


「なんで振っちゃったの?彼氏がほしいとか言っていたでしょう。それに佐野先輩はルックスも良いし優しいし、結構人気があるのよ」


「なんで相手まで知ってるんだ!?そんなに有名になってるのか!?」


「目立つもの、一部ではね。安心しなさい、私がもっと面白いニュースを流したから全校の噂にはなってないわ。・・・それで、なんでよ」


 広海の三白眼に射すくめられる。情報操作といい、つくづく敵に回すと恐ろしい奴だ。


「・・・笑うなよ」

 

「天地神明にかけて笑わないわ」


 すー、はー、すー、はー。

 深呼吸をして息を整える。・・・別に広海にとっては大したことではないだろうが、私にとってはまだ誰にも言ってない、最重要機密なのだ。




「佐野先輩は、眼鏡じゃなかったんだ」




 広海の目を見つめ返す。どきどきと心臓がなる。


「ふっ」


「わっ笑ったなあー!しかも鼻で!だって明らかに先輩は眼鏡が似合わない顔立ちだったんだ!眼鏡をかけるとあれ?あの人の本体は眼鏡なの?眼鏡に顔がついてるの?みたいな感じになっちゃうんだ絶対!」


「・・・つまり瑶子は眼鏡フェチなのね」


 口角を上げたまま、納得顔で頷く広海。


「フェチじゃない。ただ眼鏡をかけることで素晴らしい威力を発することに対する感動が人より強いだけだ」


「それを俗にフェチというのよ?・・・でもねえ、長い付き合いだけど瑶子が眼鏡フェチだったとはねえ・・・なら生徒会長とか好きでしょ。いかにもアニメに出てくる会長さんだもんねえ・・・イケメンだし」


「いや、あれはちがうな。顔がいい男は怖い。あくまで地味で目立たないのがいい」


 別に顔がいい男に嫌な思い出があるとかではないが、あれは仮面で裏には別の顔があるに決まっているのだ。きっとそうだ。(※個人の意見です。)


「・・・ふーん、つまり●蘭高校ホスト部の鏡●君よりナ●ィアのジャ●君のほうが好みってわけね。成程」


「?なんの話だ」


「こっちの話。わかったから良いの」

 

 まあ、ひかれなくてよかった、とだけ思っておこう。広海なら笑ってくれるだろうとは予想していたが・・・


「瑶子ちゃーっん!」 


 来たっ!


 ばたばたばたっ!と騒がしく足音を立てて、三人のクラスメイトが机の前に居並ぶ。


 一人は背の高いショートカットの女子生徒。

 

 一人は小柄で童顔の男子生徒。


 一人は大柄な糸目の男子生徒。


 そう、この三人は”あいつら”こと――――――――


「「「宗田瑶子し~んえ~いた~い♪」」」


 やめろ。頼むからやめてくれ。ほら私まであんな目で見られるじゃないか・・・


「親衛隊隊長、目指すは台風・高崎汀たかさきみぎわことみぎっきー!」


「親衛隊隊員、一日牛乳一リットル!多賀谷暁彦たがやあきひこことあっきー!」


「同じく親衛隊隊員、これでもちゃんと見えてます目を開けろってよく言われるけど・平井晃太郎ひらいこうたろうことたろっきー!」



「「「三人合わせて宗田瑶子ことよっきー親衛隊!!!」」」



 まず一つ、言うことは――――――


「私はよっきーじゃない!」


「・・・たろっきーはアウトだと思うわ」


「そういう問題じゃない!ていうかみぎっきーから既にアウトだろうなんでそんなに[きー]つけたがるんだお前らはっ!」

 

 しかもキャッチコピーで自虐ネタをぶっこむな。

 一リットル飲んで156cmとか笑えないよ!泣けてきちゃうよ!


「・・・なら私は”ひろっきー”になるのかしら?」


「んや、広海ちゃんはみっきーでしょうやっぱり」

 

 そういったのは高崎汀――――女子にしては高めの身長は中学でバレーをやっていたからなのだと言う、短い黒髪にくりっとした瞳、愛嬌のある顔立ちの、なんというか・・・説明しにくいのだが、まあ今のくだりを見たとおり、それが全てだ。


 なにがやっぱりなんだか、したり顔で頷く汀。


「いいわね、ディスティニーランドにいるアイドルみたいで」


 穏やかに微笑む広海。 

 いいのか広海・・・まあ・・・広海だからな・・・


「じゃ、これからあたしのこともみぎっきーって呼んでね、ね、よっきーも!」


「誰が呼ぶか!あとよっきーって呼ぶな」


「え~だっていつまでも”瑶子ちゃん”だったら他人行儀かな~って。あだ名つけたい~」


「つけたいんです宗田さん!!」


 ぐっ、と胸の前で力強く拳を握るあっきー・・・じゃなくて多賀谷。お前、そう言いながら使わないのか。あだ名っていうのは使わないと浸透しないもんなんだぞ?(いや、浸透してほしくはないんだが)


「たろっきーよりはましだと思う」


「分かってて言ってたんかい」


 いってやったり、みたいな顔をする平井。・・・確かに正論だ、なんて全く思わないぞ。


「そもそもだな、親衛隊なんかつくるな。やめろって言っているだろ」


 入学当初からこれなのだ。学校には認められていない(当たり前だ)非公式のクラブとしてなにやら活動しているのだから頭が痛い。


「つくらずには・・・いられないっ!」


 額に手をかざし、片膝をつく汀。やめろ、小芝居始めなくていいから。


「その美しく艶やかな栗色のツインテール!」(←汀)


 私は黒髪がよかったんだが。


「その陶器のような白い肌・・・整ったプロポーション、長い脚!」(←多賀谷)


 小柄な割に大きいのはこれでも気にしてるんだ。


「そのつった大きな瞳に蔑まれたい!」(←平井)


 マゾかお前は!


「「「美しい・・・」」」


「きもいからちょっと黙っとけ」


「ほら、親衛隊もいることだし」


 さっきの話の続き、か?


「つくろうと思えば、一人や二人、すぐよ」


「・・・恋っていうのは、そういうものじゃ・・・ないだろ」





 ・・・いつものように、広海や汀達と馬鹿馬鹿しい会話をする、なんてことない日常。

 

 それがずっと、これからも変わらずに続いていく・・・そう、疑問さえ持たずに思っていた。


 だってもう何かが起こるような春は少し過ぎていた。


 だけどこの日から、―――――――いや、本当はもうずっと前からなのかもしれない。私の運命は、廻りだしていたんだ。




「なん、だ?」


 ふりかえると、風に吹かれて翻るカーテン。三分の一程開いた窓。


「どしたの?よっきー」


「いや・・・」


 誰かの視線を感じたんだ、などと言ったらほらあ、と広海たちは冗談にしてしまうだろう。


 でも、違うのだ。そんな生易しいものではなかった。ぞくり、と冷や汗をかくような、気味の悪さ。




 誰かが、明らかな害意をもって私を見ていた。

 


 



 みぎっきーが大好きです。イチオシです。


 ※日付の設定を変えました

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