表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋せよ乙女、しのぶれど  作者: eyebox
第一話 紅葉の誓い
1/13

夢だけど、夢じゃない?

 

 

 黄、橙、赤。

 山吹に染まった世界の中。秋の奔放な風に弄ばれ、鮮やかな色が踊る。

 見上げれば、雲一つない高い空―――――――木立の合間に見えるその景色だけは、ごくごくのどかで平穏だった。


 ――――――――耳を澄ませば、遠くから微かに合戦の音が届いた。火薬のにおいと、ものが燃える―――――――――――人の焼けるあの嫌なにおいと。



 「もういい、蘇和すわ。私はもう疲れた」



  目の前の少年―――――――いや、青年だろうか?顔の下半分を布で隠しているので、年齢は分からない――――――――身を黒衣で包んだ年若い男は、普段からは想像もできないほど厳しい顔つきをしていた。


 ・・・普段?なぜ私は普段の彼を知っているのだろう?



「私が死ねばこの戦は終わる。お前が犬死する必要はない」



 布の合間に見える瞳がすっと細められる。側仕えの忍びの初めて見る表情に、内心狼狽して目を逸らした。



「・・・承服しかねます。言ったでしょう、自分で選んで此処に居る、と。私の命は姫の為に使います」



 その言葉に深い絶望を覚えた。同時に真逆の感情をも。


 目の奥が熱い。どうやら私は泣いてるようだった。


 ただただ彼の命が惜しくて。ここで終わってしまうのがあまりに悔しくて。

 自分だけならまだしも、かけがえのない彼まで―――――――――――



「・・・分からん奴だな。とっとと逃げ出せと言っているんだ莫迦!」



「愛しています」



 彼はひざまずき、そっと私の手にくちづけた。



「ずっと、愛しています――――――――――――心から。姫をお守りします。この命に代えても・・・・」






     ×××







 ピピピピピピピピ・・・

 デジタル時計のアラームで目が覚める。最初に見えたのがいつもの自分の部屋の天井で安心する。


「夢、か・・・」


 確認のために声に出してみる。夢の中の”自分”の声と、おなじ。


 最近よく断片的に見る夢だ。色や音、感覚までリアルで目が覚めた後まで尾を引く―――――泣いた後のように顔が火照って汗までかいていた。

 多分祖父から聞いた昔話から発想して自分で創作しているのだと思うのだが。・・・自分の記憶かと錯覚する。

 大体なんだ忍者って。しかも自分が姫で恋仲だとか・・・あの忍者の台詞を思い出すたびに軽く赤面してしまう。なんと恥ずかしい・・・そんな経験などまだないというに・・・


 ひとつ息をついて、首を左右に振る。布団から勢いよく立ち上がると背中まである栗色の髪がばさりとおりた。


 少女―――――由緒正しき武家の一人娘、宗田瑶子そうだようこは、カーテンの隙間から入ってくる眩しい朝日に目を細めた。








     ×××








 瑶子の一日はまず早朝稽古から始まる。祖父が剣道の師範という縁で小さいころから続けているもので、特に情熱を持っている訳ではないのだが、三年前に両親が事故で死んでからは祖父と二人暮らし、やめる機会を逃したというのが実情だ。


 生来の真面目な性格が災いして、また祖父の教え方が上手いのか、はたまた瑶子に才能があったのか、とにかく全国レベルの実力となってしまっている。まあ運動になるし、痴漢とかの心配もないし、迷惑がっているわけではないのだが・・・これまで生きてきた十五年間、彼氏だとかができない一因なのではないか、と勝手に思っている。


 静かな朝の空気の中、道場に素振りの音だけが響く。


「・・・なあ、瑶子よ」


「はい、なんでしょうか、お祖父様」


 話しながら竹刀を振るのは正直きついのだが、やめると祖父の竹刀が容赦なくとんでくるのだ。


 そろそろ汗をふきたい・・・九十二、九十三・・・



「お主、恋人はおるのか」



 !?

 な・・・いきなりなんてことを言うんだこの人は!!そりゃあ十五にもなってそんな話のない・・・いや話さない一人娘は心配になるかもしれないが、こうやって不意打ちで来るのはずるいです!私のことは放っておいてくださいそうしてください!


「・・・いないです」


 なーんて言えるはずもなく。


「ばかもん」


「いたっ」


 すぱこーんと竹刀で頭をたたかれる。

  

「・・・何するんですかいくら恋人がいないからって叩くことはないでしょう!?そうやってすぐ手を出すのはお祖父様の悪い癖ですよ!?」


「ばかもんばかもーん!」


「いたっ!」


 すぱこーんと竹刀で頭をたたかれる。

 二度も叩くなんてなんとひどい祖父だ。だからお祖母様にも逃げられちゃうんですよふんだ。DVで訴えてやる!


「大ばか者、最初のは話しかけられてお主が竹刀を取り落したからじゃ。ぶつぶつ言っておらんでほれ、言うことはあらんか」


「・・・ご指導有難うございます」


「うむ。よろしい」


 おお・・・心の声を言わなくてよかった。でもあんな話題を振ってくるお祖父様が悪いです。


「よもや、あの約束忘れてはいるまいな」


「や、約束というと・・・?」


 お祖父様、まだ覚えていたのか・・・ここは忘れたふりでいこう。ごまかすのは苦手だ。



 

「忘れたとは言わせんぞ。十六までに婚約する、という約束を」




 ・・・いいえ言わせてください、そんなこと言いましたっけ、すっかり忘れていましたははは、それにしても今の時代婚約なんて考え方古いですよ戦国時代ですよ、というわけでこの約束はなしということで―――――――――と言わせてください、是非に!


「・・・・・・・・」


 何も言えず。・・・お祖父様顔怖いです。


「よいか瑶子、我が宗田家は由緒正しき武家の末裔。戦の世を乗り切るには、女子供といえども強く賢く美しくあらねばならん。そして女系の宗田の血を絶やさぬためにも、宗田家に生まれついた女子は十六までに強い男を相手に選ばねばならんのだ。そもそも宗田家というのはだな・・・」


 わかりました、そこからはもう何万回も聞いています。しかしですね、分かったからと言ってそれが現実可能かというとまた別問題だと思うのですよ。そして今は平成、何度も(心の中で)言うようですが、戦国時代ではありません。


「―――――瑶子も遥子に似て器量はいいのだがなあ・・・儂に口答えした分、素振り百回追加!」


 な・・・なんだとお!?





    ×××





「か・・・肩が痛い・・・」


 あれから稽古もつけてもらって(集中力のない中めためたに)、シャワーを浴びて朝食を食べたら遅刻寸前になってしまった。


 髪は頭の横で二つに結び―――――いわゆるツインテールというやつだ―――――いつもよりも遅い時間に学校への道を走る。瑶子の通う高校、私立東城学園は山の中腹に立っているので道は基本坂道だ。緑が多く、電燈も少ないので夜は本当に真っ暗になる。

 瑶子の家は山のふもとにあるので徒歩通学である。もっとも、坂道が多いので家の場所にかかわらず自転車で通ってくる者は少ないが。


 今は五月。桜の季節もとうにすぎて、木々は青々とした葉を繁らせている。初夏というには涼しい風に、木漏れ日が揺れた。


 本道の右に短い階段が見えてくる。この階段を上って、もう一つ坂道を上ると校門がある――――――あと五分、どうにか間に合いそうだ。


 一段目に足をかけた途端。


「!?」


 ほんの一瞬だが―――――


「・・・誰か、いるのか?」


 さやさやさや、と風に木々が揺れる。辺りを見回しても人影は見えない。


(誰かが私を見ていた・・・?)


 木が多い山の中だ、姿を隠すのはたやすい。気配を感じたのは一瞬だったが、あの首筋の毛が逆立つような感覚は忘れられない。気のせいではないと瑶子の第六感が告げていた。

 剣道をやっているからなのかなんなのか、瑶子は人の気配や視線には敏感だ。


 


 さやさやさや・・・さやさやさや・・・・



 瑶子は何の音も逃さぬよう、目を閉じて耳を澄ませた。







     ××× 







「見つけた・・・」


 学校のすぐ近く、山側の電柱の上。


 白いTシャツにジーンズ。淡い水色のカッターシャツを羽織った、地味だがごく普通の少年がそこに立っていた。電柱の上という不安定な足場ではなく、まるで地面の上に立っているような、自然な立ち姿。

 全体的に華奢ではないがひょろりと細く、寝癖なのか、長めの黒髪は後ろがぴょんぴょんはねている。そして細い縁なし眼鏡。


 電柱の上に立っているには不似合いな――――いや、そもそも電柱の上は人が立つべき場所ではないのだが――――――どこにでもいるような、電柱の上よりは街中にいるほうが似合うような少年は、眼下に広がる私立東条学園という高校を見ていた。いや、彼が熱心に見ていたのは他でもない、遅刻してやってきた少女なのだが――――――――


 ブー、と少年の腰のポケットが震える。

 携帯の着信だ。一昔前の二つ折りの厚いデザイン。無骨な銀色の携帯はストラップさえ付けず、傷だらけでほとんどはげかけている。


 少年は表示を見て出るのを随分と悩み、いつまでも振動が止まらないので渋々、というように携帯を開いた。


「はい?」


「しのおおおおお―――――――――――――――っ!」


 耳元で大声を聞いてしまった少年は、顔をしかめて携帯を顔から離した。周りに迷惑をかける位の音量だ。電柱の上では、迷惑といっても烏や雀ほどしかいないため迷惑も何もないが。


「やっと出てくれた!ねえ今どこにいるの?何度かけても通じないし、もしかしてとうとう携帯壊しちゃったのかと思ったんだから!しのが居なくなってから雪慈ゆきじもどっか行っちゃうし、皆心配してるよ!?」


「・・・うるさい千鶴ちづる


 それ以上聞く気が無かったのか、相手の台詞が終わる前に切ってしまう。すぐまたブザーが鳴ったが、鬱陶しそうに電源ごと切る。

 先ほどと同じ腰のポケットに携帯を入れ、大きく腕を伸ばし伸びをした。




「じゃ、行きますか・・・!」






 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ