第1話 奪われた自由
「ん・・・・」
鈍い頭痛と共に絵里奈は重たい瞼を開けた。
しかし、いつもの様に入ってくる光はなく、視界は真っ暗だった。
「えっ!?・・・な、なんで・・・?」
状況が解らなく混乱する。
その一方で、目隠しをされている感覚と両手をロープか何かで
縛られている感覚があるのに気づく。
何故、こんな事になっているのだろうか・・・。
必死になり意識を失う前の事を思い出す。
確か、仕事の帰りに誰かに後ろから襲われて、
薬か何かを嗅がされてそのまま意識を手放した事を思い出す。
と、言う事は自分は誘拐された・・・・?
ゾッと絵里奈の全身を嫌な悪寒が走った。
これは何かの間違いであって欲しい。
そう願う絵里奈の気持ちは次の瞬間に打ち砕かれた。
「やぁ、起きたかい?」
「!」
突然かけられた声。
驚いてそちらを振り向くが、目隠しをされている為、相手を確認できない。
そして、自分に掛けられたその声。
ボイスチェンジャーでも使っているのだろうか?
機械的に変えられた薄気味悪い声だった。
「フフ・・・可愛いね、そんなに怯えなくても良いよ」
「ひっ・・・・」
男が絵里奈に近寄り、彼女を抱きしめる。
何とも言えない恐怖と気持ちの悪さで鳥肌が立つ。
「ごめんね、腕は痛いだろうし、目隠しも嫌だろうけど我慢してね?」
そう言い絵里奈の手首を撫でる男。
「あ、貴方は一体誰?・・・なんで私をこんな所に・・・・」
震える声で男に問う。
するとクスクスと男が笑いながら返事を返す。
「それはね、君の事を愛しているからだよ」
「え?」
意味が解らない。
何故、知らず知らずの人に愛されて、しかも監禁なんかされているのかが
理解できない。
ビリビリビリ!!!
「っ!?」
男が絵里奈の着ているワンピースを破く。
その布を引き裂く音に絵里奈が再び悲鳴を上げる。
「いやあああああああああっっ!!」
悲鳴を上げ、助けを呼ぼうと叫ぶ絵里奈に男が笑いながら言う。
「大丈夫、抵抗しなければ痛い事はしないから」
「いやっ・・・誰か・・・・誰かぁっ!!」
「・・・・ねぇ、誰もこないよ?諦めなよ」
「いやっ・・・」
ぎゅっ、と、瞳を硬く閉じる。
涙が溢れ、目隠しを濡らし張りついてくる。
男は絵里奈の首筋に顔を埋めた。
彼女は男に触られたくない一心でがむしゃらに顔を横に振った。
そんな彼女の抵抗に少し苛立ちを感じたのか、
男が冷たい声で釘を刺すように言う。
「言ったよね?・・・・抵抗したら痛くするって・・・」
ゾワッと背筋が凍った。
”抵抗したら酷い目に遭う・・・”
そう思った瞬間、絵里奈の抵抗する力が弱まった。
そして、その後の事は思い出したくも無いおぞましい行為だった。
■□■□
「初めてだったんだね・・・・嬉しいよ」
涙を流す絵里奈にそう嬉しそうに言う男。
初めての行為だった。
今まで男性と付き合った経験がない絵里奈は、
初めて味わった痛みに唇を噛み締めた。
嘘だ・・・・信じたくない・・・・。
初めてだったのに、誰だかわからない男に奪われて、体を汚されてしまった。
信じたくないと、頭の中では拒否するが、
下半身にはしる痛みが事実だと訴える。
「可愛かったなぁ・・・絵里奈。しかも初めてが俺だなんて・・・・最高だよ」
そう言いながら抱きしめてくる男。
自分の名前を呼ばれ、何故この男が自分の名前を知っているのか
不思議に思い震える声で問う。
「え?なんで・・・・私の名前を・・・」
「俺は絵里奈のこと知ってるよ?だから名前なんて知って居て当たり前だろ」
「(私は知らない・・・・貴方のことなんか・・・・)」
ぎゅっ、と、再び唇を噛み締める。
「もう、気が済んだでしょ・・・?私を帰してください・・・・」
男の目的は自分を犯す事だけだと思っていた。
しかし・・・・。
「何言ってるんだい?帰さないよ、ずっとここで俺と暮らすんだよ」
当たり前のように言った男。
その言葉を信じたくなかった。
否、信じられなかった。
「な、何を言って・・・・」
「さっきも言ったじゃないか。愛してる、だから誘拐したのに帰したら意味がないじゃないか」
「私は、貴方の事など知りません!!こんな事をする人なんて知らない!」
「フフ・・・・馬鹿だなぁ・・・絵里奈は・・・あはははっ」
狂気に満ちた声で笑いだす男。
そんな男の笑い声に途轍もない恐怖が湧きあがった。
「人なんて心の奥に狂気を持ってるんだよ?持ってない人間なんていないよ」
「そんな事・・ないわ・・・・」
「フフッ・・・俺がその例だよ?・・・そして、今こうして君を誘拐して、
犯して、抱きしめてる」
「それが現実だよ?」そう付け加えながら男が更に強く抱きしめてきた。
「嫌っ・・・・私を帰して・・・自由にして・・・」
やっと絞り出した声。
頼めば返してくれるかもと云う極僅かな希望だった。
しかし――・・・・・。
「帰さないよ。ずっと・・・俺の傍に居るんだ・・・」
狂気を含んだ男の声と言葉。
その男の言葉に本当に帰してくれる気がないのだと絵里奈は思い知らされた。
<続く>