国会を停滞させる諸悪の根源は衆議院の内閣不信任決議の機能
「ついに国会で不信任決議が出されるみたいですよ!!!」
松浦が首相官邸に飛び込んできたのは、
豊城内閣が発足して三ヶ月を過ぎた時だった。
俺は、すかさず聞き返した。
「それは誰に対してだ? それとも内閣不信任決議か!?」
その俺の質問に松浦は戸惑っていた。
どうやら、不信任決議と言えば、
内閣不信任決議の事と決まってる…
そう思い込んでいたらしい。
愛嬌がある奴だから許せるけど、
やっぱり、こいつはアホだ。
不信任決議と言っても、
その内容によって、全く意味は異なる。
まず、不信任決議と内閣不信任決議は全く別物である。
不信任決議を内閣不信任決議の略語的に思ってるなら、
恥ずかしい勘違いである。
不信任決議とは、政治の要職にある者の
全てを対象としている決議で、法的拘束力はない。
仮に不信任を国会に突きつけられても、
その者を辞職させる効力はない。
対して内閣不信任決議は、
内閣だけに突きつけられる不信任決議であり、
しかも、これは衆議院の専権事項であって、
参議院では、提出出来ない決議案である。
日本国憲法 第69条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職しなければならない。
この条項に基づき、内閣不信任決議を出せるのは
衆議院のみとなっており、
これは、法的拘束力を伴うものとなっている。
参議院でも似たような決議をする事があるが、
それは、法的拘束力を持たない
「問責決議」である場合が多い。
今回、出されたのは、
法的拘束力のある内閣不信任決議であった。
しかし、圧倒的多数で否決された。
憲法改正をごり押しする俺に対して、
反対派が苦し紛れに出してきた決議案だったので、
当然の結果だと言える。
ただ…
俺は、この衆議院の内閣不信任決議の機能こそ
国会の機能を停滞させる諸悪の根源だと考えている。
国会の役割には、主に二つのものがある。
ひとつは法律を作る立法機能、
もうひとつは国政監察機能である。
現在の国会は、この両方の機能を兼任する
二つの議会を並立させる事で成立している。
しかし、俺は、この二つの機能を
分離すべきだと考えている。
それは、政府などに不祥事があった場合、
その責任追及に時間を割かれるあまり、
必要な立法作業や審議が停滞する事があり、
あるいは、国政監察に基づく必要な責任追及の審議が、
立法作業を急ぐ焦燥感や政治的事情に後押しされ、
充分に尽くされないまま終わってしまう事があるからだ。
つまり、互いの機能が、足を引っ張り合う事が多いのだ。
現行の制度では、
衆議院に内閣不信任決議の機能がある。
つまり国政監察の機能の中で、
最高の権限が衆議院にあるわけだ。
しかし、衆議院は、立法府でもあり、
組閣も担わなくてはならない。
内閣総理大臣を輩出するのも、
慣例上、常に衆議院の役割となっている。
全ての機能が衆議院に集中しているのだ。
参議院というもうひとつの議会があるにも関わらずである。
これが衆議院、ひいては
国会の機能を停滞させているのである。
内閣不信任決議の機能は、まさにその最たるものだ。
せっかく、二つの議会があるのだから、
その機能を分担してやれば、
互いの機能が互いの長所を引っ張り合うような
くだらない政治空白や停滞は起きないはずである。
だったら、両方の機能を分離して、
立法作業を専門的に行う議会と、
国政監察を専門的に行う議会に分け、
それぞれの作業に専念させればよい。
そうすれば必要な立法作業も、
国政監察も充分な時間と審議を経て行う事が出来る。
実は、似たような機能は現在の国会にも存在する。
それを象徴するのが調査会である。
国会には、委員会と呼ばれるものは両院に存在するが、
国政を審査するための調査会を設置できるのは、
参議院だけと決められている。
(国会法第五章の二)
これは、参議院に解散がなく安定しており、
良識の府であるとする根拠のひとつとなる機能である。
ただ、やはりこれだけでは中途半端だ。
両議院は、もっと明確に機能を分けた方が良い。
そこで、俺は提案する。
現行の参議院と衆議院を並立させる
二院制の国会は廃止し、
国政監察を主な機能とする主理院と、
立法を主な機能とする国法院に分け、
主理院を上院とし、国法院を下院とする
新たな国会を創設するのだ。