俺内閣発足
…衆議院本会議場
「投票の結果、本院は豊城裕君を内閣総理大臣に指名する事に決定しました。」
俺の名前は豊城裕。
まだまだヤンチャな30歳。
いきなりだけど、今日、俺は内閣総理大臣になった。
日本の首相に俺はなったのだ。
経緯を説明しよう。
いや、長くはならない。
一言で言えば、神様がそうさせてくれたのだ。
ある日、いきなり俺の前に神様が現れて、
何か願いをひとつ叶えてくれると言ったから、
冗談で「総理大臣になりたい」って言ったら、
本当にこうなったのだ。
俺は30歳になるまでほとんど定職につかず、
パートとニートをして食いつないできた。
出掛けると言えば仕事より遊ぶ事が多くて、
親からもあきらめられていた存在だ。
そんな俺に神様が下りてきたのだ。
しかも女神様。
女っ気が無かった俺には刺激が強すぎる
超グラマーな超美人。
しかも若い。
最初は信じられなかったが、
まあ、こんな美人が光を放って、
いきなり俺の部屋にいたのだから、
神様の仕業って信じるしかないだろう。
それで願い事をひとつ叶えてやるって言ったから、
女も欲しいし、金も欲しいと思ったけど、
なぜか総理大臣になりたいって言ってしまった俺。
あとで100兆円くらい欲しいって言えば良かったと後悔したけど、
それは後の祭り。
俺がそう言ったら、あいつは笑いやがった。
でも、俺でも笑う。
俺が総理大臣って…
ただ、俺は、自分で言うのもなんだけど、
かなり偏った変な人間だった。
学歴もなくニートでパートのくせに、
政治には興味があったのだ。
ファッション雑誌やエロ本に混じって、
お堅い政治の本もよく読んでいた。
興味があったからとしか言い様がないけど、
テレビでもニュースをよく見ている。
だから総理大臣になりたいと思う気持ちはなくはなかったけど、
なれるなんて、かけらも思っていなかった。
幸いにして、俺は、そこまで妄想族でもない。
女神「では、あなたの夢をかなえてあげましょう。私の言うとおりにしてください。」
んで、その通りにした。
そしたら、願いを言った翌日、
いきなり衆議院解散のニュースが全国を駆け巡った。
神様は、これで行われる衆議院選挙に立候補しろと言った。
けれども金がない。
どんな選挙でもそうなのだが、日本の場合、
選挙に立候補するためには、
選挙管理委員会というところに、
供託金と言う金を納めなければならない。
これを納めなければ立候補できないシステムになっている。
このお金は、選挙が終わると返ってくるのだが、
一定の票を獲得しないと、その一部が没収されて、
全額は返ってこないという厳しいものだ。
なぜ、こんなシステムがあるかというと、
売名行為を防ぐためらしい。
選挙は、税金を使って行われるわけだが、
これを悪用して、当選する意思もないのに立候補して、
名前だけを売るという行為に走る者も昔はいたようで、
それを防ぐために供託金という制度があるのだ。
衆議院選挙の立候補に必要な供託金は300万円。
ニートの俺にあるわけがない。
親にだって頼めない。
「アホか」の一言で一蹴だろう。
すると女神は、俺に今日発売のミニロトを買わせた。
数字は適当でいいらしい。
そしたら1000万円が当選した。
テケテケテンテンテ~ン!
裕は選挙資金を獲得した…という具合だ。
どうせなら、ロト6で4億円当てさせてくれればいいものを…
それで俺は立候補した。
親からは馬鹿と言われた。
友達からも馬鹿と言われた。
彼女からも…って、彼女いねぇや。
ただ唯一、俺が昔から子分にしていた
松浦高志だけが俺に協力してくれた。
選挙活動と言っても、何していいか解らない。
ポスターも擦り忘れた。
とりあえず、マイカー使って移動して、
選挙区内を大声で名前だけ売り歩く。
絶対落ちる。
俺が立候補したのは小選挙区だ。
どんなに候補者がいても当選するのは1人。
政党の支援も、地盤も看板もない俺が、
まともな選挙活動もしてない俺が、
当選する可能性はゼロだ。
だけど…当選してしまった。
衆議院選挙の後で、現行の内閣は総辞職。
俺は代議士と呼ばれる存在になった。
そして衆議院の最初の会議で、
内閣の首班指名選挙が行われ、
俺は神様に言われるまま立候補して、
当選してしまったのである。
信じられない話だが、これは夢じゃない。
でも、総理大臣になった以上は、
やりたいことをやらせてもらう。
政治を見るのは好きだった俺には、
やってみたい事がたくさんある。
こうして俺の政権、豊城内閣は発足したのだった。