魔王様は可愛いらしい
お題をいただいて短編1500文字での初挑戦です!
恋愛ものは初めての執筆なので、不安でドキドキです…
幼い体躯には似つかわしくない豊かな胸に、緋色は今、挟まれていた。
「魔王様は本当に小さくてお可愛らしいですわ。昼間はあれほど恐ろしい顔で妖たちを震え上がらせていたというのに」
「離せ」
「嫌です」
「妾の命令じゃぞ」
「聞きたくありませんわ」
妖精は悪びれもせず微笑んだ。
夜の離れは静かだった。開け放たれた障子の向こうでは竹林が風に揺れ、水琴窟が涼やかな音を響かせている。月明かりは畳の上へ白く流れ込み、薄紅色の髪を幻想的に照らしていた。その光景はまるで絵巻物の一場面のようだったが、緋色にとっては少しも落ち着けるものではない。抱き締める腕は細いくせに妙に力強く、何より視線が駄目だった。熱を孕んだ瞳がじっと自分を見つめている。
「今日はずいぶん帰りが遅かったではないか。妾を待たせるとは良い度胸じゃな」
「緋色様のために甘味を作っておりましたの。三色団子にするか、みたらしにするか、それとも羊羹にするか悩んでしまいまして」
「妾は子供ではない」
「ですが全部召し上がりましたわ」
「……」
「最後のみたらしなど、誰にも取られぬように隠しておりましたでしょう?」
「記憶にない」
「妾の団子じゃ、と仰っておりましたわね」
「…忘れるのじゃ」
妖精が肩を震わせた。
緋色は不機嫌そうに眉を寄せたが、その顔を見た妖精は余計に楽しそうだった。
この女はずるい。
自分が美しいことを知っているくせに、それを武器として使っている自覚がない。月光を受けた白い肌は雪のようで、長い睫毛が伏せられるだけで胸が騒ぐ。柔らかく弧を描く唇が微笑むたび、そこから目を逸らしたくなる。逸らしたくなるのに目が離せない。その視線に捕まるたび、魔王として積み上げてきた威厳が少しずつ削られていく気がした。
「そんな顔で見るな」
「どんな顔でしょう?」
「妾をからかって楽しんでおる顔じゃ」
妖精は艶やかに微笑んだ。白い指先が頬をなぞるたび、胸の奥を甘い熱でかき回されるような心地がした。
「……魔王様の可愛らしいお顔と小さなお姿は、思わず食べてしまいたくなるほど愛らしいですわ」
唇をペロリと舐められて、緋色の顔が一瞬で朱に染まる。妖精はそんな様子を眺めながら楽しそうに微笑んでいた。冗談なのか本気なのか分からない。分からないから困る。
この妖精を前にすると何一つ思い通りにならなかった。腕の中から抜け出そうと思えば簡単なはずなのに、その気になれない。むしろもう少しだけこうしていたいと思ってしまう。その事実が何より悔しかった。
「螭よ、あまり妾をからかうでない」
「からかってなどおりませんわ。わたくしはただ、愛おしいお方を独り占めできるこのひとときが、嬉しくてたまらないだけですもの」
その言葉に、緋色は何も返せなくなった。
誰にも見せない弱さを晒してもいいのかもしれない。そう思わせてしまうのが、この妖精のずるいところだった。
緋色は小さく息を吐き、妖精の肩へ額を預ける。
「……おい、螭。勘違いするでないぞ。これは褒美じゃ。お主が日頃よく尽くしておるから、妾が特別に許してやるだけじゃ」
妖精の瞳が細められる。花が綻ぶような笑みだった。それを見た瞬間、緋色はますます落ち着かなくなる。
だから誤魔化すように顎を上げ、いつもの尊大な魔王の顔を作った。
「永き時を妾と共に過ごすことを許そう」
威厳たっぷりに言い放ったつもりだった。
だが妖精は嬉しそうに緋色を抱き寄せ、「はい。謹んで拝命いたしますわ」と囁く。
その声に耐えきれず、緋色は真っ赤な顔を隠すように妖精の胸へ額を押し付けた。
銀髪ロリ魔王!百合!美少女!できてましたか??
楽しんで頂けたら幸いです!
代表作↓↓↓
【暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜】
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