帝と翠の会話
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楽しんでいただけると幸いです。
「暁妃様でございますか?いえ、特に何も。忍耐強い方かと思います。あとはお優しい方でもあると思います。治療も食事も文句ひとつ言わずに受けてございます。暴言?まさか。暁妃様はわたくしがここに侍女としてやってきたその日からよくしてくださいます。あまりお喋りな方ではございませんが、わたくしに無茶な要求をしたり、癇癪を起したりなどはまったく...ええ。癒し手の皆様もおっしゃっております『暁妃様ほど忍耐強い患者も珍しい』と。暁妃様のお身体の治療は痛みが伴うのです。はい、それがとても心配でして。苦痛が大きくて暁妃様の体重がなかなか増えないのです。はい、心配事はそれくらいです」
「暁妃様ですか?とても善い方ですよ。わたくしは阿弓と違い衣装を選んだり部屋の掃除やその日の食事の献立を考えているのですが、我侭も言わずに食事をきちんととり、あれが欲しいこれが欲しいと癇癪を起すこともありません。あるとすれば野点の日を決めて欲しいと言われるくらいでございます。暁妃様の侍女になった時にわたくしが菖蒲の花が好きだと申しましたら翌日神様に頼んでくださったのでしょう、菖蒲の花をくださいました。阿弓にもよく花をあげてますね。でもあの子はどちらかというと団子の方が好きなようですので..フフ、あ、失礼しました。はい、それなりに休みもございます。心配事でございますか?暁妃様が廊下でぼんやりと一服なさっていることが多くて、あのお身体では何があるか分かりませんでしょう?神様がついているとはいえ、身体は人間でございます。怪我をしないか心配ですね」
「暁妃お姉様ですか?あまりお話はしておりませんが優しい方だと思います。わたくしの桜の木を切らなかったし、一緒に池の鯉を見ていた時にお姉様が鯉をそばに寄らせて少し触らせていただきました。『模様で価格が決まるなど可哀想に』とおっしゃっていたのが印象的でした。ーーあの、お姉様はご自分の見た目に困っておられるのでしょうか?わたくし心配でございます。この間も家臣たちに聞こえるように『妾の代わりに守護者の役をやってくれてありがとう』とおっしゃっておりました。あれはわたくしの為でしょう?お姉様になにがあったのですか?」
「暁妃様ですか?善い方ですよ。茶の飲み方は独特でございますが。野点の日に外で茶を点て、少しばかりお話をするのです。ーーはあ、主に神様についてです。明日は水伯様が雨を降らすだろうだとか、山の神が怒っているとか、そのような話です。そのおかげで神事を行い、事前に神を鎮めることができるので助かっております。困りごと、ですか?そうですねえ、野点ですので外で茶を点てるのですが、暁妃様は神に愛されし御方、鳥や小動物がやってきて茶菓子を盗んでいくことくらいですかね。ハハハ、この間強欲な雀が茶菓子のまんじゅうを半分も引きずって行きました。あの方と野点をすると飽きなくて良いですな」
翠が彼らのこのような話をまとめ、父である帝に渡すと彼はそれを読み、「ううむ」と唸り、紙をボ、と指先から出た炎で焼いて口に手を当て考え込んだ。翠は口を挟もうとしたが、その前に父の方から質問が来た。
「翠、お前の見解は?」
「はあ...まあ善い子ではないでしょうか。感情が湧きあがるのと感情表現が希薄なようですが、この間の茶会でもそれなりに姫君らしく集まった華族の者たちにむけて挨拶はしていました。そういえば彼女のそばに常にひかえている神2人が暁妃は特に男が恐いと言っていたかな。まあそれは仕方がありません。やられたことを考えればね...。しかし私も彼女に贈り物をいくつかしてみましたが気に入ってはいるようです。身に着けてくれました」
「何を贈った?」
「香に着物に手鏡に、庭に彼女の希望で藤棚を造りました。それに池に鯉も泳がせました。あとは最近ですと髪飾りですね。彼女が髪を結うようになったので。今度は外国のドレスでも贈ってみましょう」
「ふうむ」
帝は再び考え込んでいた。翠はこの質問をするかどうかを迷い、しかし今はまだ時期ではないと言葉を胸に引っ込めた。父が思案している際中に下手なことを言うと何が起こるか分からない。彼もまた太陽の名をもらった人間である。太陽帝国皇帝・晟安陛下に今のところ逆らえる者は少ない。暁妃以外には。
翠の考えはこうだった。
父母は自分か桜花を次期皇帝にするために暁妃の身体を痛めつけて力を奪おうとしたのではないか。
でなければ暁妃の腰と脚をわざわざ軍部の者と家臣に壊させるわけがない。
暁妃が立つこともままならなければ逃げることはない。
もし力を移せなくとも裏から操作することはできる。
問題は暁妃の力が強大すぎたことだ。父でも四獣と神2人を出現させ使役することはできない。
神のうち1人は言った。『してはいけないことをした』と。
現皇帝陛下と皇后陛下は間違えたのだ。
暁妃こそ桜花のように愛し、次期皇帝として育てなければならなかった。
見た目に判断されずにだ。
翠はそう思い、拳をぎゅ、と握った。
翠を帰したあと、帝は立ち上がり溜息をついて空を見た。結界が薄くなっている。暁妃の体調はいまだ悪い。熱がなかなか下がらず、食事も受け付けない。
癒し手たちはこのままでは死んでしまうかもしれないと帝に進言し、帝は暁妃の治療に金を惜しまず湯水のように使っていた。
妻である皇后は会う気はないらしい。今日も桜花とともに洋風の茶会をやっている。翠は薬効のある宝石を作って暁妃に与えたそうだが。帝は溜息を吐いた。妻も桜花も事の重大さを理解していないらしい。
帝は結界の維持をし、一度暁妃に会いに行くべきか考えた。父として会いに行くべきか。しかし暁妃は知っている。自分が見て見ぬふりをしたことを。
なにかできないかと考え、結局薬を手に入れることにした。帝は暁妃の為に高価な薬を手に入れて癒し手に渡した。これで少しは良くなるだろうと考えた。なにせただの薬ではない。寺院の秘蔵の薬である。
暁妃はそれを飲み、ようやく熱が少し下がり、意識が戻って食事を摂れるようになった。
帝は心底安堵し、皇后はそれに付き合い形ばかりの喜びを表現した。
皇后にとっては娘は美しい桜花だけで暁妃はいまだ異邦人の名無しの忌み子であった。
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