表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

手癖の悪そうな男

第七話です。

楽しんでいただけると幸いです。


翠は言ったとうりに3日後に髪結いを連れてきた。髪結いは暁妃に恭しく挨拶をし、髪を梳かし整え結っていった。美しく結われた髪に藤の模様が刺繍された着物を着た暁妃は紅を塗られ鏡で見なんの感慨もなく「ふうん」と呟いた。



「気に入りませんか?」

「妾はどれが良いのかを知らぬ。お前は腕が良いのじゃろう?では問題あるまい」



翠や阿弓が「綺麗だ」と褒めても暁妃にはいまいち理解ができなかった。翠は仕方なく髪結いに料金を渡し「この子は容姿を褒められたことがないから知らないんだ」と囁き、髪結いにいらぬ同情を抱かせ帰らせた。暁妃はもう髪にも化粧にも興味を失い煙草を吸っていた。翠は今度社交界の皆が集まる茶会があることを暁妃に言うかどうか少し迷った。野点は今も1人で行っている。翠は断るならばそれでもよいかと考え暁妃に尋ねた。



「暁妃、今度社交界の皆が集まって茶会があるんだ。行くかい?」

「行かせたいのじゃろう?四獣と帝釈天、毘沙門天がついてくるがそれでもよいなら参加しようぞ」

「それはよかった。なに、野点とそう変わらないから」



翠はそう言うと上機嫌で去って行った。暁妃は煙を吐きながらまあ、15分もいれば十分じゃろうと考え、治療の為に化粧を落とし、髪もおろして布団に横になった。硝子製の医療器具で薬を気化し吸い込み、眠る。暁妃にとってはいつものことだった。




茶会の日は神が気を利かせたのか晴天だった。そして華族に混ざって神も入り込んでいることに暁妃は苦笑した。人々は気づいていないがこれではどうやっても自分に手は出せまい。


阿弓も彩也子も夫と共に参加していた。暁妃の元には夫の所業の為に来ず、遠くから頭を下げて挨拶をした。2人の夫はこちらを無視していた。

軍の者が今では白い目で見られていることを暁妃は知らなかった。めんどうくさくなりある時から人の思考を読むことを止めた暁妃は阿弓と彩也子に軽く手を振り挨拶をし神と四獣を連れて去った。

翠が暁妃を見つけると笑顔で近づき人々に紹介をした。


暁妃は毘沙門天に抱えられながらぼんやり挨拶をし、世辞を聞いていた。暁妃の今日の青に桃色のグラデーションがかかった生地に細かく牡丹などの花々が丁寧に刺繍された着物を褒め、髪を褒め、最近の治療と食事で太り肌の肌理が整ってきた暁妃の艶やかな肌を褒めた。

折れた歯や火傷は見なかったふりをした。暁妃は華族というものは実に世渡りがうまいと考えた。


そして知識も褒められた。暁妃はもうだいたいの本を読み終えてしまっており、華族のどのような話にもついていくことができた。

特に哲学については詳しく、華族たちは17年間地下牢に閉じ込められていたと聞いていたため何の教養も知識もないと思っていた分驚き、また感心した。


暁妃は茶番だなと考えた。このような初歩の知識を聞かれ答えて感心されるなどめんどうくさい。まるで自分が幼児になったような気分だと思ったが、親切にしてくるアニウエの手前恥をかかせるわけにはいかない。


暁妃は仕方なく髪と眼を珍獣を見るような目で見、子どもに向けるような質問をしてくる華族たちに付き合った。



「あなたはメメント・モリの考え方についてどう思いますか?」



突然話しかけられそちらの方を向くと烏の濡れ羽のような光の加減によって虹色にも見える黒髪に晴天の眼をした顔の整った洋装の男が暁妃の方を面白そうに見ていた。


この男はたしか立華家の嗣子、立華雪之丞と言ったかと暁妃は記憶を探り答えた。



「人は皆どうせ死ぬのだから過去や未来に心をやらず、今を楽しめということじゃろう?どの哲学者も言っておる。今を感じ今を生きろとな。ーーそれで?そなたは過去か未来に心をやって今なにもできずに困っておるのか?」

「いいえ、私はいつだって今を大事に過ごしていますよ。どうしてそのようなことを?」

「どうにも困り果てているように見えたからの。父の言うことをきいて家を継ぐか、逃げてしまうか。たとえばそのようなことで」

「おや、あなたは人の心も読めるのかな?」

「読めたらとても楽じゃの。立てなくなるような怪我を負わなくて済んだ」



暁妃はそこまでいうと「さて妾は治療の時間じゃ」と言い華族の人間たちに挨拶をし去ろうとした。その時に立華が声をかけた。



「次はいつ会えますか?」

「極楽に行けば会えるだろうよ」



暁妃はそう言ってそれ以降見ることもなく去って行った。立華は翠にコソリと声をかけた。



「彼女は性格が冷たいね」

「あの子は人付き合いを知らないんだよ。おい手は出すなよ」




牽制する翠に立華は「さあどうかな」と笑った。



ーーーーー


茶会を終えて暁妃は疲れたように息を吐いた。

華族の集まりというのは実にめんどうくさい。笑顔で話しかけてきて、おためごかしの世辞を言い、暁妃がそれほど両陛下に大切にされていないと知ると分かりやすく去って行く者とそれでもどうにか顔だけは覚えさせようとつまらない話をするような者がいる。


暁妃は風呂に入り、これからこんなものが続くのかと溜息を吐いた。翠はそれを知っていて会話に付き合っているようだが、桜花はまだ気づいていないようだ。それよりも、と考えた。


立華雪之丞という男に桜花が恋愛感情を抱いていることに茶会の際中に暁妃は知った。自分が雪之丞と話していた時に桜花がこちらをチラチラと見てきたからすぐに分かった。暁妃はどうしようか考えた。


あの男と桜花が結ばれることは決してない。そういう運命だ。


しかしいうのも野暮かと暁妃は考え、髪を拭われ、寝巻きを着た。そろそろ治療の時間である。治療があるからとさっさと茶会から出ることができて暁妃は安堵した。やはり野点は1人がいいと暁妃は考えた。



「怒るでない、あの男は妾を知らぬ」



明らかに機嫌が悪そうな神の1人を宥めるように暁妃は言い、布団に横になった。外からは人々の笑い声が聞こえる。平和なものだと暁妃は考えた。





読んでいただきありがとうございます。

続きは明日8時に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ