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翠の提案

第六話です。

楽しんでいただけると幸いです。

翠の提案はすぐに受け入れられ、暁妃の部屋は数日で塔の最上階から翠たちの住む部屋の中で最も日当たりの良い広い部屋に移された。


阿弓や彩也子はこれで階段を昇る苦労がなくなったと内心安堵した。癒し手たちも治療がしやすいと喜んだ。部屋を移し家具や着物や小物を移し、翠が暁妃に「庭を造ろうと思うんだけど、君はどうしたい?」と暁妃に尋ねた。


暁妃はぼんやり庭を見、言った。



「造園は知らぬから好きにすればよい。あの桜の木は切らぬように」



その言葉に驚いたのは桜花だった。桜の木は桜花が生まれた日に植えられたものだ。

きっと切られるだろうと考えていたが、暁妃はそうはしなかった。翠は「へえ」と頷き「わかった」と笑顔で言った。


翠が庭師たちに図を見せて話し合っている際中、桜花は暁妃の方を見、話しかけようとしたが、治療の時間であると侍女に言われ暁妃は部屋に引っ込んでしまった。

桜花は困ってしまった。もしかすれば話せばよいことが起こるかもしれないと考えていたのに。桜花は愛されて育った分、他人に対しある意味楽観的に考えていた。

簡単に言えば自分のことを嫌う人間などいないというある種の傲慢であった。桜花はもしかすればこれから仲の良い姉妹になってあげれるかもしれないと考えた。


暁妃だってわたくしと話せば楽しいはずと。それにたぶん暁妃は自分のことを大事に思っていると桜花は考えた。だって兄の提案した庭園の図ではあの桜の木はどう見ても邪魔だったのだ。

ティアラのことだってお兄様は先にお姉様のものを作ったに違いないと考えた。だって可哀想なお姉様だから。だから先に親切を施してあげたのだと桜花は純粋にそう考えた。



「愛された姫君というのは愚かで簡単じゃのう」



治療を受けながら暁妃はそばについている阿弓に言った。



「桜花様でございますか?」

「そう、あの桜の木はの、あやつが生まれた日に祝福として植えられたものじゃ。阿弓、桜の木を悪く言うでないぞ。彩也子にもそう言っておけ。あやつの機嫌をそこなうとめんどうじゃ」

「かしこまりました」

「妾は藤棚でも造ってもらおうかのう...どうせなにを植えても毎日花が咲く」

「それは素晴らしいお考えですね」

「梅は嫌いじゃから植えぬようにアニウエにいっておいてくれ。妾は眠る」

「はい、おやすみなさいませ」



暁妃はほどなく眠り、阿弓は立ち上がり翠に暁妃が藤棚が欲しいと言っていたと伝えた。そして梅は嫌いだとも。翠は頷き庭師と相談を続けた。

池はあった方がいい。鯉も泳がせよう。石畳も。木々を植え、詫び寂びというよりは瀟洒な庭園ができるころには菖蒲の時期も終わり、初夏を迎えようとしていた。


翠が暁妃に「藤は来年になるね」と暁妃に話しかけると彼女はコン、と灰を灰皿に捨て、「今すぐ見れる」と頬杖をついて庭を指さした。


翠が藤棚を見ると藤の花が咲き、美しい薄紫を揺らしている。驚いて暁妃の方を見ると彼女はぼんやりと煙草を吸っていた。その様子に暁妃がこの庭園を気に入ったらしく、それを感じた四獣も帝釈天も毘沙門天も翠が暁妃に話しかけることを許していた。翠は尋ねた。



「君は髪を結わないの?少し整えた方がいい。ティアラも髪を結った方が似合うよ」

「そうか、ではいずれ呼ぶとしよう、緑髪のアニウエ」

「やめてくれ、それは女の子に向かって言う言葉だ。散々からかわれたんだ。勘弁してくれ」



暁妃の言葉に翠は不服を言うも、楽しそうに「髪結いを連れてこよう」と去って行った。暁妃は翠の後姿を見、実に変わった男だと考えた。


髪を結うよりも車椅子が欲しいのじゃがのと暁妃は考えながら一服を続けた。

毘沙門天に湯殿にまで連れて行かれるのは正直恥ずかしい。どうしようかと暁妃は考えた。しかし言うとたぶんめんどうなことになると考え、暁妃はこの状態を受け入れることにした。


予想外のことであったが体力は少しずつ戻ってきていた。1年はもつなと暁妃は考えた。それ以上生きるには臓腑の交換と骨を治さなければならない。癒し手といえどもこればかりは無理だった。


ふと声がするほうに神経を集中させると民が野菜を持ってやってきているらしい。またか、と暁妃は考えた。


水天の一件以降民は一度暁妃に会おうと野菜や果物、または酒や反物を持っては城にやってきていた。暁妃はめんどうくさくなり部屋に引っ込んだ。


廊下を歩いていると桜花の侍女がこちらを見てくすくす笑っている。なるほど、桜花の力ではなかったことを知り、悪意に染まっているらしい。もう少し読んでみると阿弓と彩也子は帝に妾のことを報告しているらしい。姫らしくない所作と知識の欠如。ふうん、と暁妃は知らぬ顔で部屋に戻った。



人の考えが読める暁妃にとっては人と会うのは実にめんどうな作業であった。もう結界を張っているのは桜花だと桜花にすべて任せてしまおうかと考えたが、桜花は今は噓つきの姫と民に思われている。

人間というのは実に単純であり、また傷つけることになんの躊躇もない愚かな生き物であると暁妃は考えた。


まあいい、そのうち適当に理由をつけて桜花に感謝し、それを家臣どもに聞かせ、元の地位に戻せばよいと暁妃は考え部屋で本を開いた。


寿命は残り1年近くまで伸びた、さてなにをしようか。





読んでいただきありがとうございます。

続きは今日18時に更新します。

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