最初の贈り物(改)
第四話です。
短いですが楽しんでいただけると幸いです。
3月21日 加筆しました。
「なんじゃこのにおいは?」
ある日目が覚めた暁妃は不思議そうに漂う匂いを侍女に尋ねた。阿弓は起き上がった暁妃に粥が入った椀を持ち、匙で暁妃に粥を食べさせながら言った。
「翠様が暁妃様へと送ってくださいました香でございます。伽羅、沈香、白檀に蘭奢待もございます。空気もよくなりますし、暁妃様のお好きな香りをお選びください」
「翠...?あああの野点の時にやってきた男かの。緑の黒髪をした」
「翠様が野点にいらっしゃったのですか?」
阿弓は驚いて暁妃に尋ねた。
「来たのう。まあ皆が止めたがの」
「申し訳ありません。お楽しみのところを...」
阿弓が申し訳なさそうに言うと暁妃は興味なさそうにあくびをして言った。
「かまわん。知らないが妾の兄じゃろう?それも女好きの好奇心まみれの。放っておけ」
「かしこまりました...」
「どうせ放っておけばそのうち飽きるじゃろう。めんどうくさい」
暁妃はそう言い、食事を再開した。阿弓は今日のお香の贈り物は暁妃にとっては興味のないものだと翠に伝えなければならないと考えた。翠ががっかりしなければいいが。
阿弓が伝えたとき、翠は「まあそんなもんだろうね」と大して気にもせずに言った。そして「次はなにをしようかな」と楽しそうに本を見ては考えていた。
阿弓は不思議だった。なぜ翠はこんなにも暁妃に興味を示しているのか。たしかに彼は妹の桜花にもそれは甘く、なんでも与えてやるような男だった。
阿弓は理由を知りたくなったが、好奇心は猫をも殺すと言い聞かせ翠の部屋を出た。今日は暁妃の体調はあまりよくない。看病が必要であった。
廊下を急いで歩いていると部屋から桜花の声が聞こえてきた。侍女に怒鳴っている。珍しいこともあるものだと阿弓は考えた。
桜花といえば穏やかで優しく、皆に愛される美しい姫君であったはずだ。どのような場面でも穏やかで、清楚で可憐な帝国の守護者、それが桜花であった。
その桜花が今侍女に怒鳴りつけている。阿弓はどうしようかと考えたがそれよりも暁妃の容態が最優先だとその場を去った。
今この城では暁妃の命が最優先事項となっている。理由は以前天界の者が語ったとうり。阿弓は急いで湯をもらいに行き、その湯を持って塔の最上階にまで駆け抜けた。
なんだってこのような移動に苦労するような場所に暁妃を住まわせたのかと阿弓は悪態を吐いた。塔の最上階は寒いし、移動に時間がかかる。
一度家臣の者かあるいは帝に訴えなければならないと阿弓は考えた。寒さは今の暁妃にとって天敵である。阿弓は湯が入った桶を持ち、階段を上がっていった。
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翠は部屋で次はなにをしようか考えていた。
翠の部屋は赤いカーペットが敷かれ、長椅子や椅子にテーブルと洋風の造りになっていた。もちろん布団ではなくベッドで眠る。テーブルの上には墨のほかにインクは羽根のついたペン、そして外国の本に地図に和紙や羊皮紙が乱雑に置かれていた。
翠は長椅子にドカリと座り、パイプに葉を詰め火をつけてくゆらせながら本を開いた。よし、今度はサファイアとかいうものを作って外国人のように指輪かまたは髪留めにして贈ってみるかと考えた。
翠の能力は石や鉱物を好きなものに作り変えることができるものだった。時代によっては錬金術師と呼ばれただろう。そのほかにも占いも得意であった。父ほどではないがそれなりに未来が視える。
父はそれを褒めたが、内心では次期皇帝にしたかっただろう翠の能力が低く落胆していた。幼いころ翠は父と母の会話を聞いたのを未だに覚えている。
「あの能力では皇帝にはなれまい」
「次の子が生まれればその子が翠の右腕となるかと」
その言葉を聞いた時、翠は決心した。能力がない分せめて民に尽くそうと。
ゆえに翠は友達も多く、華族の娘で気になる子もいる。まだ話しかけてはいないが。
そういうわけで父と同じ能力を持ったと言われていた桜花はそれは大切にしていた。なにせ手伝ってもらうのだ。その運命を妹の桜花は未だ知らないでいる。不憫だと思ったところもある。
それが崩れたのがこの間だった。
本当の力の持ち主が現れた。心底疲れた顔をしたもう1人の妹。現世に疲れ切り、表情も眉一つ動かさず、興味を失っていた。そして聞いたところ、もう少しで天に向かうと言うではないか。
翠は親の期待に応えようという気持ちもあったが、この疲れ切った妹をどうにか回復させたいと考えていた。未だ17歳なのに生きていることにうんざりだという顔をしたこの少女を。
翠はパイプの灰をコン、と灰皿に捨てた。
ティアラとかいう王冠が気に入った。ダイヤモンドとサファイア、そして銀で作ってみるかと翠は腕まくりをし、立ち上がった。
読んでいただきありがとうございます。
続きは今日18時に更新します。




