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その後

更新しました。

楽しんでいただけると幸いです。

「どうなさったの?旦那様」



黒闇天こと桜花が結婚した閻魔王に呼ばれて行くとそこには阿弓がいたので桜花は「ああ」と思い出したように阿弓を見た。



「こやつが『私が地獄に堕ちるのはおかしい』と言っていてな」

「ああ、それでわたくしを呼んだのね」

「桜花様!私はこのような場所にいるような者ではありません」



阿弓の叫びに桜花は閻魔王に浄玻璃鏡を見せるように言った。阿弓がその鏡を見ると悲鳴をあげた。

そこには桜花の一度目の人生で桜花を『まろ虫』と呼び、桜花が物を盗んだと嘘を言い醜い笑顔で幼い桜花を棒で打つ阿弓がいた。阿弓は暁妃には媚びを売り、桜花には散々な暴行を行った。桜花のひもじい食事を捨てて笑っていたのも彼女だった。



「思い出した?ーーまあ人を自殺させておいて極楽へ行きたいなんて自惚れもいいところよね」

「七緒阿弓、お前は大叫喚地獄に行こうか」

「いやよ、いや!ごめんなさい!助けて!」



そう叫びながら阿弓は引きずられていった。桜花は溜息を吐いた。



「大洪水が来てからずっとこう。まだ来るのかしら?」

「まあ来るだろうな。大丈夫か?辛いなら...」

「必要であれば来るわ」



じゃあ仕事がんばって、と桜花は去って行った。

閻魔王は桜花の後姿を見ながら、さすがは六度も死んだ女だと頬杖をつき、微笑んだ。容赦がない。妃の中で桜花が最も自分の妻に相応しいと閻魔王は考えた。冷酷に容赦なく判断を下せなければこの閻魔王の妻は務まらない。




ーーーーー



その後も彩也子や母や兄が来たが、閻魔王は桜花を呼び桜花はそれぞれに思い出させ、きちんと相応しい地獄に送った。翠は大焦熱地獄、母は叫喚地獄である。彩也子は阿弓と同じく大叫喚地獄になった。「どうして」という言葉にいつも鏡を見せて桜花にしたことを見せてやった。幼い桜花を暴行した兄や、それを知りながら無視した母や、阿弓やほかの侍女、召使や家臣と共に虐待をした彩也子はきちんと報いを受けることになった。


「桜花、私は暁妃を助けたのだぞ?!それを...」

「ええ、助けたノアの方は天国へ行ったわ。姿をご覧なさいな。わたくしを性玩具にしたときと同じよ」


翠は鏡で自分の姿を見、驚いた。そして卑しい笑顔で桜花を見た。


「私に何度も抱かれたお前が神だというのもおかしい話だな?」

「わかってないわねえ」


桜花は疲れたように言った。


「人間と神は別なの。人間としてのわたくしの肉体は滅んだでしょう?ーーでもわたくしの旦那様はお怒りみたい」

「お前は大焦熱地獄だな。ーー無間地獄でもいい」

「な、やめろ!桜花!」

「助けて欲しいなら優しくしてたお姉様に言ってよ。わたくしは知らないわ」


ああそうだ、と引きずられて行く翠に桜花は言った。



「お兄様、あなたの行くところには雪之丞様もいるわ。お2人で仲良く」



桜花はもう何の感情も持っていなかった。



今思うとどうして死んだ後の方がこんなにも幸せなのにあそこまで生に執着し、愛されようとしていたのかが分からなかった。閻魔王は素の自分を愛してくれるし、ここには自分を傷つける者もいない。帝釈天の言うことを聞いていたのにも不思議でしかない。暴力で従ったが、死んでもよかったはずだった。


桜花はここへ来て治してもらった身体中についていた暴行の痕の消えた白い腕を見た。

暁妃だけが怪我をしていたわけではない。

桜花は六度目の人生でも兄にも雪之丞にも母にも暴力を振るわれていた。暁妃と違うのは見えないところに怪我を受けたのと、後遺症が残らなかったのと、治されなかったことだ。


そしてもう1つ。過去5回の人生があまりに辛すぎて桜花は麻痺していた。痣や切り傷や火傷痕の残る怪我など怪我ではなかった。過去は栄養失調で髪が抜け、拾った木の棒を支えにしなければ歩けなかったのだから。


それに食事も毎食出るし、布団で寝られた。新しい着物も買ってもらえた。化粧品も、髪飾りもだ。表面だけだったが、皆は自分が喜べば喜んだふりをしてくれた。

贅沢もできた。だから兄と雪之丞の性暴力の被害に遭おうが思ったとうりの反応をしなければ頬を打って怒鳴る母がいようがどうだってよかった。どのような形であれ自分を見てくれる。幸せだった。



桜花は溜息を吐いた。




ーーーーー


ある日姉の吉祥天ーー暁妃がやってきて桜花と話したいというので桜花は心配する旦那の為に近くの部屋で待機していてもらい、姉と会った。椅子に座ると姉は言った。



「戦が起きた。阿修羅王と帝釈天が戦っておる。我が夫もーー」

「そうでしょうね」



「え?」と声を上げる暁妃に桜花は表情を動かさずに言った。



「前史時代で起きた争いが神話時代にまで戻ればまた戦うに決まっているわ。そんなことにも気づかないなんてお姉様はやっぱり馬鹿ね」

「桜花ーー」

「なに?わたくしになにかさせる気?また何でもして良い『まろ虫』にでもする気?あの時お姉様も笑っていたわよね。それで皆に見えるようにわざと親切にしたわよね。わたくしが後で打たれるのを知っておいて。そんなお姉様にわたくしが協力をなさらないとならないの?争いを止めたいならご自分1人でなさって」

「しかしこれでは天界がーー」



立ち上がる暁妃を見て、桜花は椅子の肘掛けに腕を置き頬杖をついてやってられないとばかりに息を吐いた。生前に見た桜花とは違い、気だるげで神秘的な魅力を纏った桜花に暁妃は息を呑んだ。

桜花は墨色の碧くも見える渋い黒色の髪を髪飾りで結び、黒と赤の漢服がまるで羽のように美しく翻り、横顔は憂いを持って尚美しく、まさしく女神であった。

暁妃も艶々とした黒髪を結い、白に赤い花と桃色の布が可愛らしい漢服を着ていたが、桜花を見ているとどうも子供っぽく、興奮をおさめた。



「これだからこども大人は厭なのよ。なんでもかんでもやってもらえるから自分で何もできない。周りにちやほやされすぎたようねお姉様。あなたの旦那様がどうなったからってわたくしになんの関係があるの?わたくしが家族に暴力を振るわれてもなにもしなかった方よ?なんの義理もないわ。帝釈天もそう。わたくしを殴ってあなたが天界に行けるようにお膳立てするようにさせたわ。もう義理は果たしたはずだけど?ーー一度くらいは自分でなんとかしたら?お姉様」

「待て、桜花」

「ごきげんよう、お姉様。これが『娘』の言葉よ」



そうして暁妃を帰し、桜花はこれだから愛されるだけの女はめんどうだと考えた。なんでもかんでも肯定され、皆が言うことを聞くからロクな判断もできない。



「お姉様の場合はあれね、『優しい虐待』ってやつかしらね」



桜花はそう呟いて部屋を出た。閻魔王と共に普段生活している場に戻ったため、その部屋は静かな音だけが残った。






読んでいただきありがとうございます。

これでこの話はおしまいです。

ありがとうございます。

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