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楽しんでいただけると幸いです。

桜花は桃色の振袖を着、白粉をはたいた顔で暁妃の元へ向かい、「皆さま!」と暁妃の結っていた髪を掴んで引っ張り、叫んだ。



「この女のこの髪は紛い物ですわ!本当はかつらかあるいは染めているかーーー」

「暁妃のその髪は本物だよ、桜花。お前の方こそかつらだろう」



翠がやってきて桜花の手首をつかみ暁妃を離させると桜花はなおも大声で言った。



「ご覧くださいませ皆様!このようにこの女はお兄様の心を操るのです!」

「桜花...」

「皆様!お兄様は正気じゃございませんの!あの魔物に操られてーーー」

「桜花、自分の姿をきちんと見なさい」



翠はそう言い、なおも華族たちに訴える桜花を壁に張られた鏡に自分の姿を見せた。桜花は自分の姿を見て息が一瞬止まり、「お姉様がしたのよ!お姉様が!」と叫んだ。


そして周りを見ると華族たちは汚いものを見るような目で見ていて、帝や皇后は止めるか捕らえるかで迷っていた。



「雪之丞様、ギルガメシュ様」



救いを求めて彼らの方を見ると彼らもまた鏡に映った桜花に驚き、ギルガメシュは剣に手をやり、雪之丞は後ずさった。そして「化け物」と震える声で言った。



鏡に映った桜花の姿は黄濁した白目に目は血のように赤く、肌はどす黒くくすんでいて、髪はかつらではなく、墨色だが乱れ、そして肌は禍々しい幽鬼のような青白い肌で顔も醜く皺が寄っていた。


幽霊のような姿に皆は元より桜花ですら驚愕していた。その時に「ふうん」と暁妃の声がしたので桜花はそちらの方を向いた。暁妃は髪を直しながら言った。



「なるほど、桜花、ぬしは時間を遡る術を使ったな?預言者が見つからぬはずよな。ぬしはここにおるからの」

「なにを言っているの...?」



暁妃は桜花に近づいて顔を近づけて言った。



「妾は梅が嫌いじゃと言ったよな?なぜか分かるか?妾をある程度育てていた乳母が妾を『梅』と呼んだのよ。その乳母はどうなったか分かるか?殺されたわ。毒殺されての。じゃから妾は梅が嫌いなんじゃよ桜花。あの毒はこの間妾が食べた毒と同じものじゃろう?ぬし、幼少期から気づいておったのじゃろう?自分の声には人を操る力があると。そして帝はそれを封印した。のう、ぬしはどのような人生を歩んできたんじゃ?それなりに幸せならぬしとてこのような暴挙には出るまいて。6度も人生をやり直すなぞ」

「ーーーーッ」

「まあでももうどうやっても過去には戻れんぞ。びいどろ屋の奥方は回復し時計は破壊した。彼女から時計を貰うことはできない。本屋に行っても外国人の本は無いぞ。妾が買ったからの。ーーなんじゃおぬし、自分も記憶を失っておるのかえ?しょうのない女じゃな桜花」

「ーーー助けてッ!」



桜花が助けてもらおうと人のところへ行くと皆は「ヒ」と恐れ慄いて桜花から離れた。仲良くしていた令嬢も、憧れていた雪之丞も気味悪そうに見ているのに桜花は耐えきれなくなり暁妃に言った。



「死ねばよかったのに!あんたなんか死ねばよかったのに!愛される運命のあんたなんか!」

「桜花、妾とぬしはどのようにしても離れられぬぞ。妾たちは表裏一体じゃ。そうじゃろ?黒闇天」

「どうして」

「妾とぬしはいつだって表裏一体で生まれ、共にいる。この宿命は変えられぬ」

「いやだ、いやよ!誰かーーー」



声を続けようとしたとき、桜花の胸を剣が刺し貫き、桜花は血を吐いた。ギルガメシュが剣を抜き、桜花を倒した。暁妃は息絶えようとする桜花を表情を変えずに見、そして眉を顰めて顔を逸らした。



このようにしてギルガメシュのフンババ退治は終わった。伝説よりもあっけなかった。



ーーーーー


桜花の一度目の人生は悲惨そのものだった。


帝も皇后も兄も皆、姉の梅花を愛し、自分のことはまるで汚いものを見るように見、避けた。姉の梅花だけは能力のこともあって15歳の誕生日の日には『暁妃』と名を改めることも決まっていた。

桜花は家族の催しごとも舞踏会も誕生日も祝われず、桜花は召使の着る着物を着て、掃除をしていた。それも便所の掃除や壊れた塀の補修や溝さらいにと専門の業者を呼ばないとできないこともさせられた。


朝誰よりも早く起き、夜誰よりも遅く寝るのが桜花の毎日だった。

勉強もさせてもらえなかったから読み書きもできず、城中の誰もにまろ虫と嘲られ、家族はそれを無視し、桜花は絶望していた。


そんなある日、桜花が12歳の頃、街へ買い出しを命じられた時にびいどろ屋に会った。びいどろ屋が絶望したような顔をしていたので桜花が話を聞くと、妻が半年も奇病で寝込んでいるらしい。

桜花は偶然その病気について知っていた。なぜなら小さいころに自分も罹ったからだ。

桜花はびいどろ屋の亭主の為に山で先が二股に分かれた葉を採ってきて、これを煎じて茶にして飲ませると良いと教えた。自分の時はほとんど放っておかれたが梅花が同じ病気にかかった時に山に行かされ、葉を採ってきたからだ。


後日びいどろ屋は桜花に感謝して時計を渡した。これと外国人の書いた本があれば過去と未来を行き来できるらしい。


桜花は最初は冗談だと思った。しかし、ある日の舞踏会で給仕をしていた時、心ひそかに想っていた雪之丞が姉の梅花に子供ながらにダンスを申し込み、踊っているのを見て、彼女の中でプツリと何かが切れた。


桜花は即刻その場を離れ、姉の部屋に忍び込み、外国人の本を3冊盗み出した。トールキンとホーガンとクリスティである。そして時計を回し、3日前に戻り、梅花のお茶菓子に毒を入れ、彼女を毒殺した。これが一度目だった。


しかし梅花が死んでも桜花への態度が変わらなかったため、桜花は二度目の手段に出た。生まれる前に戻り、父に預言者として梅花が呪われていると言い、去った。そうして二度目の人生になると扱いは姫であったが、自分は乳母に任せて放っておかれ、梅花は離れにいて、父も母も兄も神々も皆離れに行って梅花を楽しませていた。


桜花はまたも梅花を殺害した。


そうして回数を重ねていくうちに、桜花は異邦人という被差別民を作り出すことを思いついた。一度3世紀前に戻りその時の帝に髪の色が違うものは邪悪であると吹き込んだ。

自分の声に帝はすぐに操られ、そして異邦人排斥運動が行われた。そしてもう一度自分が生まれる前に戻り、異邦人がまだ続いているかを確認し、帝に白い髪で生まれた者は最も邪悪であると囁いた。

そして自分のことは忘れろとも。


四度目も五度目も暁妃は愛され、自分は立場こそ姫であったが皆に冷たい扱いをされた。どのようにがんばっても無理だった。その時に帝釈天がやってきて、彼女の頬を殴り、こんなことはやめろと言ったので、桜花は決めた。姉に自分が考えうる最も残酷な人生を味わわせてやろうと。そして帝釈天の前で自殺した。

帝釈天に自分の命を粗末にすることで桜花は彼からの暴力から身を守った。そして協力もさせた。六度目の人生で。


そしてようやく六度目の人生、桜花は初めて幸せな人生を手に入れた。彼女は両手で耳を塞ぎ、自分の頭から記憶を削除した。どうせすべては消せないが、ぼやかせることはできる。

人生をやり直すたびに時計と本を手に入れなければならなかったが、それも終わりだと安心した。

帝釈天が桜花が満足するように協力し、彼女はそして父母や兄や民衆皆にようやく愛され、演技をしながらであっても喜んだ。

演技ばかりしていたからそのうちに本心というものを忘れたが。


桜花は単純に愛情だけが欲しかった。

梅花は気にかけてくれたがそれをされればされるほど桜花は惨めに感じた。労働をしたことがない白い美しい手、美しい顔、良い匂い、綺麗な着物。どれも桜花にはないものだった。

そして梅花は知らないが、梅花が桜花に話しかけるたびに桜花は夜に侍女長たちから身体を打たれ折檻された。


桜花はすべてが限界だった。

このような暴挙に出たとして誰が彼女を責められるだろうか?

彼女は六度目の人生以外一度も誰にも愛されなかったのだ。

六度目の人生でも大して愛されはしていなかったが。素晴らしい人格で謙虚で母や父や兄が喜ぶように演技をしなければ愛してもらえない。


桜花はほとんど心が壊れていた。



ーーーーー


「ーーーん」


桜花が目覚めるとそこら中に髑髏が敷き詰められていて「ヒッ」と桜花は飛び起きた。怯えていると「黒闇天」という声がしてそちらの方を見た。そして悟ってあきらめて笑った。


「わたくしは地獄に堕ちたのね。いいわ、好きに罰して」

「なにをいっている?」


椅子から立ち降りてきた男は桜花の前でしゃがみ込み、顔を見せた。閻魔王にしては黒い髪に黒い瞳、そしていかつい輪郭だが、鼻筋と赤い唇が美しい美丈夫だった。


「ずっと待っていたぞ。我が妃。さあ一緒に来ると良い」


そう言って差し出された手を桜花はじ、と見、尋ねた。


「あなたはわたくしを愛してくださる?」

「当たり前だ。ずっと待っていた我が妃なのだから」


その時にようやく桜花はポロポロと眼から涙を流しながら心から笑って閻魔王の手を取り、一緒に城に向かった。


このようにして桜花はついに自分を最愛の人として見てくれる者に出会い、エンキドゥの言ったとうりに冥界の女王、あるいは妃になった。







読んでいただきありがとうございます。

続きは今日18時に更新します。

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