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野点と拒絶

第三話です。

楽しんでいただけると幸いです。

阿弓が帝に暁妃の言葉を伝えたとき、そこにいた一同が騒めいたが、帝は腕を一振りしてその場をおさめた。そしてううむと唸り、阿弓に尋ねた。



「暁妃の容態は?」

「癒し手様たちの会話を聞きましたところ、完治させるのは無理であろうと申しております。また、今の状態ですと日に3時間起きているのも相当な苦労であるとも」

「暁妃の要求は?」

「『そろそろ天界に行ってもよいか』。ーーと申しております。治療が随分な痛みを伴うご様子でして」



阿弓が困ったように言い、ちらりと夫の方を見ると七緒大尉は知らぬふりをしていた。阿弓は夫が暁妃にしていたことを知らなかった。

暁妃に実際の様子をその力で脳内に植えつけられるまで。何度も暁妃に謝罪をしたが暁妃は興味がなさそうだった。


それどころか誰よりも謙虚で文句をほとんど言わず治療の苦痛にも耐えていた。阿弓を困らせることはなにもなかった。阿弓はそれが恐かった。



暁妃がこの世界を棄て、天界へ行ってしまえば我々はあらゆる神の怒りに苦しみ嘆き悲しみそして最も厳しい罰を受けて死ぬ。

それは神々の決めたことだと暁妃にいつもついている帝釈天と毘沙門天が言った。

「お前たちはしてはいけないことをやったのだ」この言葉は重く圧し掛かっていた。



帝はしばらく沈黙していたが、「仕方がない」と皆に言った。



「城の兵糧を民に分け与えよ。寺、華族、皆皆に伝えよ。これで少なくとも3か月はもつであろう。その間に暁妃の治療をできる限り行え。必要なものは何でも言うとよい」

「あの、陛下、」



帝の方を見、阿弓は逡巡しつつも決心し口を開いた。



「暁妃様が庭に出て野点をしたいと申しております。なんでも神々が自由になったことを祝福してくれるからと...」

「ふむ...それは人を集めてと、あやつは言っていたか?」

「いいえ、1人でとのことです。暁妃様は極度に人に対して恐怖と嫌悪を持っておりますので」

「うむ...まあ良いだろう。場を用意させる。欲しいものはなんでも言えと伝えよ。準備をしよう」

「父上、よろしいのですか?」



帝の決定に逆らうように長男の翠が言った。



「この大変な時期にそのような行いなど...民衆が見れば暁妃に憎悪を昂らせますよ」

「翠、大丈夫だ。城の奥の庭で行えばよい。民はまだ暁妃を知らぬ。それに暁妃の容態からいって野点を行っても1時間もかかるまい。それに暁妃も外の様子に気づくだろう。お前は桜花に対するように暁妃に対して親切にしてやれ」

「わかりました」


緑の黒髪が美しい碧い眼の美丈夫は帝の言葉に口を閉じ、頷いた。正直にいうと彼は知らなかった。

桜花に双子の姉がいてそれが老婆のような白い髪に金色の眼、そして恐ろしいほどの白い肌をしている女で今まで桜花の力だと思っていた結界も気候も作物もすべてを暁妃と名付けられた忌み子が行っていたなどとは。


翠は少しばかり興味が湧いた。話すことは無理でも物陰から見ることくらいはできるだろう。野点の様子を見てみるかと彼は考えた。



美しい桜花は暁妃が地下牢から出て以降、自室に籠ったままだった。




ーーーーー


野点の日は暁妃の身体の調子が良い4日後に行われた。



暁妃は藍色の着物を着、用意された敷物の上に座り、点てられた茶を飲み、菓子を食べぼんやりと煙草を吸っていた。迦陵頻伽が歌い、花々が季節を問わず咲き誇り、まるで極楽のようだと茶坊主は考えた。暁妃はコン、と灰を灰皿に捨て茶坊主に尋ねた。



「雨が降らぬようじゃのう」

「は、暁妃様。ここ最近はまったく...」

「ぬしは水天に祈ったか?」



暁妃の言葉に茶坊主は首を傾げた。



「水天、でございますか?」

「水神よ。天空を操り雨を降らす水の神じゃ。今妾に頼んだとて雨は降らん。あやつは妾への暴虐を知っておる。しかしまあ妾に暴行を働いたのは一部の与太者よ。あやつもそれは分かっておる。水は水の神が司る。ぬしの茶は美味かった。じゃから教えてやろう。三日三晩酒と米を供え拝むがよい。水天を祀る社を造れ。水天を敬愛し心を込めて拝み祈るがよい。奴はそれほど気性は荒くはないからの。許してくれようぞ。皆に伝えよ。妾は今少し迦陵頻伽の歌を聴いておるからの」

「ーーーありがとうございます、暁妃様」

「礼は水天に言うとよい」



茶坊主は裸足のまま駆け出し、暁妃の言葉を市井の者たちに伝えた。彼らは少ない米と秘蔵の酒を供え、三日三晩拝み続けた。


すると暁妃の言ったとうりに雨雲が空を覆い、雨が降り出した。人々は喜び歓声をあげた。そうして皆は暁妃の言ったとうりに社を造り、水の神に祈りを捧げた。


暁妃はまた治療に入っていたが、この一件で暁妃こそが帝国を守る姫君であると皆は認めた。暁妃の姿は白い髪に金色の眼の異邦人であることも帝の裏の操作から知られたが、民衆にとっては姿などどうでもよい。


暁妃は神の怒りを鎮め我々に水を与えることで命を救ってくれたのだ。そういった話が民衆の口々から飛び出した。そして暁妃は我々に称賛も物もなにも求めない。彼女こそ真の守護者であると皆がそう言った。



場面は野点の日に戻る。暁妃が迦陵頻伽の歌を聴いていた時、白虎が唸った。鳳凰も青龍も玄武も警戒を始めている。


帝釈天と毘沙門天は武器を手に持ち立ち上がった。暁妃が目をやると黒髪の美しい男が両手を挙げてゆっくりと歩いてきた。どうも敵意はないらしい。



「邪魔をしてすまない」

「ぬしは誰じゃ?」



暁妃は新しい煙草葉を詰め火を点けた。煙を吐き尋ねると男は困ったように笑い、「君の兄だよ」と微笑んだ。



「初めまして、名を翠という。君は知らないだろうが実の兄になるんだ。君が生まれた時、父上も母上も桜花しか見せてくれなかったからね」

「そうであろうな。ーーして、用件は?」

「美しい歌につられてね。ーー共に野点をするのは駄目かな?」



そう言うと暁妃は一瞬金色の眼をこちらに向けたが途端に咳が止まらなくなり、毘沙門天に支えられた。翠が慌てて駆け寄ろうとすると四獣と帝釈天は未だ警戒しこちらに武器を向け、四獣はいつでも攻撃できるように姿勢をとっている。


どうすることもできない翠は今日なぜ暁妃が藍色の着物を着ているかを口から吐き出した血の量で理解した。彼女は煙管を落とし、毘沙門天に抱えられ部屋に戻ることになった。


毘沙門天について帝釈天も四獣のついていく。

その様子を呆けたように見ていた翠はハ、と気づき、話が通じそうな帝釈天と毘沙門天に話しかけた。



「ねえ、彼女の部屋についていってもいいか?」



その言葉に毘沙門天は帝釈天に話しかけ自分はさっさと暁妃を連れて四獣と共に中に入っていった。帝釈天は翠を見下ろし言った。



「ならぬ。彼女は人間ーー特に男を恐がっている」

「私は彼女の兄だ」

「兄ならなぜ彼女を救わなかった?」



翠が言葉に詰まると帝釈天は言った。



「貴様が彼女にとって無害であると証明しない限り無駄なことだ。くれぐれも彼女の部屋に入るな。これから夜まで治療をする」

「無害だと証明すれば入れるんだね?」

「できるものならやってみるといい」



帝釈天はそう言って去って行った。翠は男が嫌なのにこの男とさっきの男はいいのかと考えた。どちらも2mは超えている。翠はしばし考え、どうするか計画を練った。


初めて見た妹だったが初めて見るタイプで興味がそそられた。外国には色素が薄い人間というのが存在するらしい。


そういえば前に外国語の辞書で調べたなと翠は単語を思い浮かべた。そう、ユニークだ。

意味は唯一無二。とにかく他には存在しない貴重なもの。


黒髪ばかりのこの国であの釈迦が垂らした救いの蜘蛛の糸のような髪は忌み嫌われるものではなく、愛されなくてはならない。


金色の眼は釈迦や如来の神々しさのようだ。肌もいずれは佳人のように白く輝くだろう。真珠のように。翠は考えた。彼女の笑うところを見てみたいというのはまあ兄としては普通のところだろう。



翠は常識や先入観にとらわれないタイプの人間だった。簡単に言えば好奇心の塊であり、また女好きでもあった。さすがに妹には手を出さないが。




読んでいただきありがとうございます。

続きは今日18時に更新します。

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