怒りと発散
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楽しんでいただけると幸いです。
「兄上、おるか?」
翠の部屋を訪れたとき、翠が立ち上がり暁妃を抱きしめた。何が起きたのか理解が及ばない暁妃は「兄上?」と尋ねた。顔が見えない。
「すまなかった」
「何が?」
「私はもっと早くお前を見つけるべきだった」
そう言われて暁妃はようやく昨日翠に自分の過去をみせたことを思い出した。ようやく顔を見せた翠は今にも泣きだしそうで暁妃はこれはやってはいけないことなのだと知った。
あまり人に過去を晒すべきではない。暁妃はどう繕おうか考えたがどうにも浮かばず、仕方なく本当のことを言うことにした。
「兄上、妾は今妾にあのようなことをするように命じた者を探しておる。じゃから妾の記憶を見せて兄上らが忘れている記憶の細部まで見た。父上も視たが父上は知らぬふりをしただけで命じてはいない。誰かが軍や家臣に妾のことを教え、傷つけようとしていた者がおる。その者を見つけたい。妾たちが生まれる前、父や母は誰かから予言でも受けていただろうか?」
「ーーああなるほど、だからか。私と母上は知らないと思うが、そういえば父上は母上が臨月を迎えてよく顔を隠した者たちと話していたな。私は祈祷師と思っていたが」
「それが違うのじゃ。兄上の記憶にあるあの者たちはどこにも存在しなかった。少なくとも今は存在しないことになっておる。もしかするとあの者たちが桜花を誑かしあのような姿にし、妾をあのように扱ったのかもしれぬ。父上の記憶をもっと深く読みたいが、父上は妾と同じ能力を持ちすべてを読むのは難しい。ーー兄上、手伝ってはくれぬか?」
暁妃が翠の顔を見て頼むと、翠は暁妃の肩に手をやり微笑んだ。
「もちろんだ、一緒に探そう。たぶん母上も協力してくれる」
「それは嬉しいのう」
暁妃は微笑んだ。内心平和的に終わってよかったと安堵しながら。そしてこのやり方はもうあまり使わない方がいいと考えた。家族であるとどちらに転ぶか分からない。
後宮に向かうと侍女たちに止められ、入ることは許されないと言われたが暁妃はめんどうくさくなり幼少期の記憶を侍女に流してやり(主に痛くて泣いているところだ)へたり込んだ侍女を放って皇后の部屋の扉に手をかけ、開いた。
見ると物が壊され倒されて皇后が寝床に上半身を倒して敷布を握って嗚咽を漏らしている。暁妃はこれはまずいかもしれないと考えた。
皇后の力が暴走している。力はたぶんいくつもあるだろうが主な力は物体を浮遊させて移動させるのだろう。ーー穏やかな表現を取れば。
見なかったことにして帰ろうかと思った時、運悪く扉が開く音で入り口に顔を向けた皇后と目が合ってしまった。暁妃は身構えた。
仮にも皇后である。人並み以上の能力がなければ正室には選ばれないと暁妃は攻撃に身構えていると皇后がやってきて暁妃を抱きしめすすり泣いたために暁妃は固まった。
暁妃は人間に抱きしめられたり近寄られることが最も苦手なことの1つである。理由は明解だ。地下牢にいたときにこのようにして不可逆的な傷を負ったからだ。
どうにかして避けようとしたが、皇后は離さずすすり泣いているので見えないように毘沙門天と帝釈天を呼んだ。2人は姿を現さぬまま皇后の動向を見ていた。
「おじいさまの言うことを何も考えず信じたわたくしを許しておくれ」
「ごめんなさい、暁妃、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
すすり泣きながら暁妃を抱きしめそしてずるずると床に座り込んだ皇后を目だけで追って見、暁妃はどうしようか考え、答えが出なかったので話は今度にしてこの部屋を去ることにした。
翠が皇后に対応しているから大丈夫だろう。実に忌々しいと暁妃は治った歯をギリ、と噛み締めた。周りの人間たちは暁妃の邪魔にならないように壁に寄っている。
それくらい暁妃は不愉快を隠さずに歩いていた。
記憶を読み知った皇后が祖父に言われた言葉はこうだ。
『異邦人は人間ではないから物を考えないし、痛みも感じないんだ』
ーーーーー
以前茶坊主が言っていた。『阿呆になって遊び呆けて、贅の限りを尽くせ』と。暁妃はあの提案は意外と使えるかもしれぬと考え、まず初めに人気のない裏庭にに小さく結界を張り、その中で洋風菓子にたくさんの菓子を作らせて毘沙門天と帝釈天、四獣を呼んで茶会をした。
給仕人に給仕をしてもらい、高級茶葉の紅茶と高級な食材で作った菓子を食べて、楽しんでいるとふと死線を感じ、見ると皇后がいたので無視をした。しばらくして皇后は去って行き、それを見て暁妃は尋ねた。
「ーー怒っているという態度はこれでよいのかえ?」
「阿修羅王よりは優しいが合っているだろう。それで?暁妃、次はなにを行う気だ?」
「ええと」
暁妃は懐から長い手紙を取り出した。
「阿修羅王に聞いたところ、贅を尽くすには高級な食事を食べ、豪華な服を身にまとい、宝飾品を手に入れ、派手に異性と遊び、高価なものを買うといいらしい。中国(※表現の規制がたしかあったのでここでは中国と表記します)の古代の姫は王に何千枚もの絹を贈らせたり、宮殿を作らせたり、酒の池を作らせたりしたそうじゃ」
「ーーそこまではやらんでいいと思うぞ、暁妃」
「妾もそう思う」
暁妃が「派手に異性と遊ぶ」と言った時に毘沙門天がカップを握力を考えずに置き、壊したため、召使に拭かれながら黙っているのを見て、帝釈天は暁妃にやんわりとやめるように言った。
しかし阿修羅王に聞くとは。よりにもよってあの戦闘神にと額に手をやった帝釈天を見、暁妃は尋ねた。
「どうするかのう、一応皇后に機嫌が悪いと見せつけておかねばならぬ。この高価なものでも買うか?宝飾品は兄上が作ってくれるし」
「何を買う気だ?」
「阿修羅王から目録をもらった」
そう言って紙を見せると帝釈天と毘沙門天は途端に渋い顔をした。宮殿も豪奢な椅子もいらんだろうと考え、目録を探っていくとようやくまともなのを見つけて2人は安堵し暁妃に勧めた。これならば多少の我侭程度で済むし、機嫌が悪いという意思表示もできる。
伊藤若冲の鳳凰絵を買い、また本屋へ行き今度は10冊ほど本を買い、着物を5着買ったところで暁妃は贅沢に飽きてしまい、野点をしたときに茶坊主にそれを言うと茶坊主は声をあげて笑った。
「左様でございましょうな。暁妃様は贅沢に興味がない御方です」
「ではなぜあのようなことを言うたのじゃ?」
「人生で一度くらい贅沢をしてもよろしいでしょう?暁妃様は質素な方ですから」
茶坊主はしてやったりと言い、暁妃は「疲れたわ」と文句を言い、茶を飲んだ。やはりこちらの方がいい。
「ああそう、そなた、これをやる」
「なんでございましょう?」
暁妃から渡された箱を開けると新しい茶道具一式が入っていたので茶坊主は「おや」と呟いた。
「いつか使うと良い」
「ありがとうございます」
そしてそのまま静かな野点は続いた。
ーーーーー
そのころ帝たちは首を捻っていた。暁妃が機嫌が悪いのはわかる。なにせ最近買い物が多い。誰かに買い物で鬱憤を発散せよとでも言われたのかもしれないと考えた。しかし。
「散財をするには安いなあ」
翠は頭を掻いて城に届いた請求書を見た。桜花はこれの数倍は2~3か月ごとに使っていた。機嫌が悪いことは確かだが、完全な無視をするのではなく挨拶はちゃんとしてくる。それ以外の話をほとんどしないだけで。
帝も皇后も困っていた。皇女らしい態度は崩さず、それでも機嫌は悪い暁妃をどう処理すればいいのか分からないでいた。翠は2人に言った。
「あの子は怒りの発散の仕方を知らないのかもしれませんよ父上、母上。誘ったところでどうせ断られるし、この際徹底的に暁妃を守ってみてはいかがです?軍や家臣から。奴らは暁妃を傷つけた者も多い」
翠の言葉に2人は顔を見合わせたが、それもまあありかと考えた。暁妃が何を考えているかは知らないが、軍や家臣がまた暁妃を傷つければ今度は何が起きるか分からない。皇后は暁妃の幼少期も見た分守ろうと考えた。せめて償いをと。
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続きは今日18時に更新します。




