本性
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暁妃が目覚めたのは肩に鋭い痛みを感じたからだった。見ると刀の刀身を突き立てている春風少佐がいて、七緒大尉に守られながら桜花が笑顔で暁妃を見ていた。
少佐が刀身を引き抜いたので暁妃は起き上がり、肩を見た。血が溢れて寝巻きが赤く染まり始めていた。それを見た桜花はケタケタと笑った。
「あら、魔物でも血は赤いのね」
「ふうん」
暁妃はケラケラ笑う桜花を見た。なるほど、帝がかけた術はこれか。桜花は元の美しかった黒髪が今では下の方が黄赤に染まっている。黒髪の方も鈍色になっている。卑しく顔を歪めて笑い、彼女は春風少佐に命じた。
「さあ、この魔物を倒して。そうすればあなたはもっともっと英雄になれる」
「ハッ」
桜花の命に声を出し、刀を振りかざした時、暁妃は少し考え息を大きく吸って悲鳴を上げた。この時間なら阿弓も彩也子も翠も家臣や召使もいる。見せるにはちょうどいい。
「どうした暁妃?!」
「暁妃様?!」
やはり翠と阿弓、彩也子がやってきた。そして彩也子は「旦那様、なにをなさっているのです?!」と止めに入り、阿弓と翠は暁妃の肩を染める赤黒くなり始めている布で現状を知り、隣にいた七緒大尉に「どういうことだ」と詰め寄った。その時に桜花が翠に抱き着き、「お兄さま」と甘えた声を出した。
「お兄さま、わたくし突き止めましたの。あの女は次期皇帝の座を狙う魔物でございますわ。見てくださいまし、あの髪ーーあんな髪の人間は我が皇族には生まれませぬ」
「お前は誰だ?」
「?、なにをおっしゃっておりますの?」
「なぜ桜花の着物を着ている?あの子をどこへやった?桜花はそのような歪んだ顔も荒んだ眼もそしてそんな髪色もしていない、お前こそ魔物ではないのか?!」
「そんな」
桜花は慌てて七緒大尉を押しのけ、暁妃の部屋の鏡台に映った自分の姿を見、悲鳴を上げた。
このせいで桜花の集中力が途切れ、心を操作されていた七緒大尉や春風少佐は我に返り、特に春風は自分がやったことを知り愕然とし、刀を落としてその場に座り込み、後ずさった。
暁妃はなるほど桜花には心を操る能力があるのかと考えていた。さて、そろそろ真実が分かる。
突然の雷鳴に翠も春風少佐も彩也子も七緒大尉も阿弓も野次馬のように見ていた召使や家臣も驚いて縁側に出た。
ゴロゴロと雷を鳴らし、空を曇らせ、帝釈天が四天王を連れて降りてきた。帝釈天の部下の四天王、持国天、増長天、広目天、そして毘沙門天を連れ憤怒の顔で降りてきて雷を1つ落とすと桜花の桜の木を焼き払った。阿修羅王も共に降りてきて帝釈天に言った。
「手を貸そうか?」
「いらん、こちらでやる。まだ殺されると困る」
「ーー時間の概念は難しいな」
そう言って阿修羅王は暁妃の方へ向かい暁妃の様子を見た。そして「私なら大丈夫だが、お前はか弱いしな」とそばで見ていた家臣の1人に腕を一本伸ばして頭を掴むと「おい、癒し手を連れてこい」と命じた。
家臣は阿修羅王の怒ったような顔に心底慄いてコクコク頷き、廊下を転げるように走り癒し手の元に行った。
「ーー私の顔はそんなに怖かったかね?暁妃」
「人間なら神が怒ったような顔をしていれば誰でも恐がりますよ」
「前史時代はこの憂い顔が女どもにとても人気があったのになあ」
のんびりと話す阿修羅王に暁妃は愛想笑いで首を傾げた。
それはたぶん仏像が人気があったのだと思う、とは言えなかった。
その時に毘沙門天が「暁妃!」とやってきて、自分の装束の布を裂き、暁妃の肩を巻いた。
「癒し手はーー」
「私が呼んだからすぐにくるだろう。なあ毘沙門天、私の顔はーー」
「なにかあったら阿修羅王にすべて頼め。この方はそれは恐ろしい。では」
そう言って去って行った毘沙門天を見て阿修羅王は「恐ろしい?」と首を傾げ、暁妃は「力が強力という意味でしょう」とまたしても愛想笑いで返した。
庭に降りた桜花は炭のようになった桜の木を見て「ああ、ああ」と涙を流したが、帝釈天と四天王の怒りはそれでは済まなかったらしい。
帝釈天はすっかり桜花の本当の姿をあばいた。
暁妃が肩を斬られた方の腕を押さえて見に行くと、そこには赤茶色のゴワゴワとした髪をした黄ばんだシミだらけの肌の女が蹲っていた。
彼女が顔を上げると皆は悲鳴をあげた。顔が醜く歪み、まるで般若のような顔の女がいたからだ。阿修羅王に支えられ縁側に出た暁妃はなるほどこれが桜花の真の姿かと納得し、倒れた。
斬られた傷が思ったよりも深く、出血がひどく血が足りなくなったからだった。
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