治療と思惑
第二話です。
楽しんでいただけると幸いです。
治療中に身体を視たのか、あるいは帝釈天か毘沙門天から天界に報告がいったのか、神々は少しずつ怒りを露わにし始めた。
豪雨が一週間も続いたかと思うと雨一つ降らない日々が続き、人々は困り果て、そして帝は神に愛された娘を地下牢へ入れて虐待したらしい、これは神の怒りだとという噂が立ち、ある者は姫君は1人だけではなかったのかといい、またある者は暁妃の力でこうなっていると言い、しかし結局は帝の暁妃へ対する待遇のせいだと帝のいる城を睨んだ。
暁妃は素知らぬ顔ーーというより治療が2日目から8時間も費やされるようになったためにほとんど外にも出ず自室で眠っていた。
着物や小物や家具は残った時間で買った。帝からの命令で市中の服屋が集められ、暁妃に着物を見せ、暁妃の姿を見驚き、そして決して無礼を働いてはならないと正座をし深く礼をしている服屋の着物を見、暁妃は気に入ったものを指差し買っていった。
小物も家具も同様。そうして2週間も経たぬうちに暁妃の部屋は閑散とした板の間から畳が敷かれ机や箪笥、屏風、花台に鏡に掛け軸にと一国の姫らしい部屋に様変わりした。
花台は神々から毎日花が贈られる(なぜか庭に生えている)ために毎日季節問わずの花が生けられた。もう1人の侍女、彩也子というきりとした奥二重に卵型の輪郭をし、茶色の眼で墨のような黒髪をした女が菖蒲が好きだと言ったので試しに与えてみると彼女は驚き、そして喜んだ。
人間というのは扱い方によっては楽にそしてとても簡単に使えるかもしれないと暁妃はその時に学んだ。
食事は薄い粥からいくつもの椀や小皿が載った盆が運ばれ、必ず四獣が毒がないかを確認し暁妃は静かに食べていた。
侍女2人をつけて。阿弓と彩也子である。
暁妃の侍女は自分の身体を傷つけた者たちの妻だった。帝の命令だそうだが、つまり人質だった。それと監視も備えているのかもしれない。
暁妃を監視し、なにかあれば夫に言えば彼らは暁妃を痛めつけたおかげで得た威力の強い能力で暁妃を殺すだろう。
暁妃はふうむと考えた。妾が殺されれば神の怒りはそれは激しくなるだけなんだがのう、と考え、結局まあいいかと考えることをやめた。
帝自身がどうにかするだろう。できなくてもだ。暁妃以外に今の強度の結界を張れる者がいないことは帝も知っていた。だから幼少期から暁妃は外も知らないのに命令されるまま結界を張っていた。
張らないと血を吐くまで打たれるからだった。この時はまだ神々はいたものの具現化することが難しかった。
暁妃は当時を思い出し、馬鹿らしいことをしたのう、と溜息を吐いた。あそこで死ねば今ごろは天界で清らかに過ごせたというのに。
阿弓と彩也子は暁妃が急に箸をおき、頬杖をついて考え事に耽ったので尋ねた。
「暁妃様、お食事はお口に合いませんか...?」
「ああいや、固形物を食べるのが辛いだけじゃ。休めば食べれるじゃろう」
「し、失礼いたしました。主厨長に取り替えてもらうように...」
「いや、よい、もう食べれぬ」
半分以上残した暁妃の膳を見て阿弓と彩也子は困ったように顔を見合わせ、彩也子は仕方なく膳を持って部屋を出ていった。きちんと暁妃に対する礼を忘れずに。
暁妃がケホ、と咳をし、煙管を手に取り煙草葉を詰め、煙草を吸った。(この時代では煙草を吸うことは治療行為にあたるとされている)その様子を見て阿弓は暁妃に言った。
「暁妃様、陛下が暁妃様に午前の会議に出るようにとおっしゃっております」
「そうか、断れ」
暁妃の言葉に阿弓は困ったように眉を下げ、暁妃に言った。
「しかし陛下は市井の様子に心を痛めており、どうにかせねばと」
「その程度のこと、自らでできるじゃろう。できなければ帝など辞めてしまえと伝えよ。それか『この国に結界を張り皆を守ってきた美しき守護者』の桜花に頼めばよい。妾はこれから夕方まで治療があるからの」
暁妃は自分とは対照的に生まれた時から愛され、自分の功績を横取りし帝国中の人々に愛されている双子の妹の桜花の名を挙げ、毘沙門天に抱えられ寝室に入った。
阿弓は慌てて湯と薬と外国から取り寄せた医療器具の数々の用意を始めた。癒し手からは暁妃の身体を常に清潔に保ち、薬を欠かさず、栄養のある食事と十分な睡眠を言いつけられていた。
癒し手は眠る暁妃を見て言った。
「まだ食事を経口摂取できる分ありがたい」
これでどうにか寿命を延ばせると癒し手たちは安堵していた。
暁妃をこのような身体にした阿弓や彩也子の夫ーーつまり軍の者への対応は冷ややかであった。当たり前だ。
暁妃が死ねば今まで結界を張り、雨を降らせ、作物を実らせ、よい気候の中人々が幸せに暮らしていたのは暁妃のおかげで、その暁妃を幼少期から軍やこの城の家臣たちが、そして実の父の帝は見て見ぬふりをしたまに命じ、日常的に虐待と暴行を行った。別に暴行をしないと力が出現しないのではない。
暁妃は人とは違う姿で生まれた。
老婆のような白い髪に生石灰のような白い肌によくいえばすずしげな目元、悪くいえば平行二重のの冷淡さも感じる金色の眼。高い鼻梁に薄い唇。
色素はほとんどなく、薄桜色だが、折れた歯が唇を台無しにしている。頬の火傷もそうだ。
伸びっぱなしの髪と痩せ細った身体も相俟って禍々しい老婆のようで人々が見れば近寄りたくはないと思うだろう。
対して妹の桜花は艶やかな黒髪に桜色の大きな瞳、優し気な眉にスッと伸びた鼻梁に薄桃色の頬と唇に健康的な乳白色のカメオのような肌を持ったそれは美しい姫であった。
人は醜い者には先入観で恐怖を抱き、嫌悪感を抱く。暁妃の「寒いから毛布が欲しい」というお願いに棒で叩きのめし暁妃の腰を壊し一生歩けなくした者が出たとしても不思議ではないだろう。
癒し手たちは迷っていた。暁妃の身体を治せと言われたものの限界がある。
例えば折られた歯や何度も殴打されたために折れてそのまま放置したために歪んだ身体の骨、壊れた内臓、深度の深い火傷の痕は治せない。
もちろん暁妃は一生歩けない。腰と共に両脚の骨もめちゃくちゃに折られたからだ。
これを帝にーーあるいは暁妃に伝えるべきか迷っていた。治らないなら神々にも呼ばれているし天界へ行こうと言われれば困るのだ。
暁妃の妹の桜花が実はほとんどなんの力もない人間だと分かった以上、癒し手たちはそのことを日夜話し合い、あらゆる方法を用いて暁妃を治療していた。
海を渡った先の国から入ってきた医学書にも手をつけた。(その国にはこの国のような人智を超える力を持つ者はいないらしい)そうしてあちらでは科学と呼ばれる方法も駆使し、癒し手たちが毎日必死に暁妃に治療を施していた。
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続きは今日18時に更新します。




