それぞれの変化
更新しました。
楽しんでいただけると幸いです。
杖は翌日に届いた。T字杖で金箔で模様が描かれた持ち手に黒い柄は漆でも塗ってあるのか艶めいて輝いている。
紺色の生地に八重桜や菊、そして牡丹の花が白と赤の線の上につつましく描かれ袖と裾だけに刺繍されたシックな振袖を着て暁妃は外へ出た。
足袋を身につけ下駄を履き、庭に出てみると花は相変わらず咲き乱れている。
池を見ると鯉は暁妃のみとめ、喜んで顔を出した。小鳥も小動物も寄ってきて、暁妃はしばし庭の散策を楽しんだ。そこにひときわ大きな鳥がやってきたと思うと迦陵頻伽で暁妃の18の誕生日をそろそろ祝いたいという天界からの手紙を持ってきていた。
暁妃は今夜あたりであれば満月であるしよいだろうと了承した。迦陵頻伽は喜んで羽ばたいた。普段は人型であるが人間界に来るときはよくこうして鳥になってやってくる。
誕生会の日取りが決まればその日は一晩中騒ぐのだろうと考え、そして暁妃は考えた。彼の言っていたギルガメシュはいつくるのだろうかと。
暁妃が庭を楽しんでいるのを戸を少し開き、桜花がそっと覗いていた。髪は太陽の光でキラキラと輝き、今日は結い上げず華族の女学生のように横の髪を後ろにやり兄からもらったのだろう牡丹の花とアメジストと真珠が美しい髪飾りで留め、髪がゆるく風になびいていた。
金糸にも銀糸にも見える髪と紺色の着物、そして傷がすべて治った暁妃の横顔は美しく、真珠のようにつやつやと輝く肌に薄桜色の唇、影の落ちる長い睫毛に黄金のような瞳。
桜花が見ていると雪之丞が暁妃の方へ走っていき、2人は歩いて去って行った。その様子に桜花はぎゅ、と唇を噛み戸を閉めた。
雪之丞様がお姉様とーーー
桜花の中に初めて芽生えた黒い感情に桜花は動揺しつつも心の中に潜ませた。雪之丞に桜花はずっと恋をしていた。
その雪之丞様がお姉様と歩いて行った。桜花はギリ、と歯を噛み、ふと見えた鏡を割った。
わたくしの方が美しいのに。わたくしは人間であるのに。桜花の心はだんだんと黒い渦に巻き込まれて行った。
雪之丞は暁妃と一緒に野点をしていた。
静かに茶を飲む暁妃に雪之丞は頬杖をついて暁妃の横顔を見ていた。暁妃が「なんじゃ?」と尋ねると雪之丞は言った。
「今度一緒に森林浴に行こうよ。良いところがあるんだ」
「別に構わぬが...」
「ああ侍女は連れてっていいけど2人きりで行こう。神様もなしで。2人きりで楽しみたい」
「それはできぬな」
暁妃は断って茶を飲んだ。雪之丞が「なぜ?」と尋ねると暁妃は言った。
「彼らは妾の将来の夫と夫の主なんじゃよ。まだ結婚はしていないが婚約をしておいて不貞はならぬ」
「....へえ」
「妾ももうすぐ結婚できるからの。じゃから兄の友人と言えど2人での行動は困る」
「ーーじゃあ翠も連れて行ったら?」
「妾の婚約者も連れて行っていいのなら」
「なんだつまらないな。もうすでに相手が決まっていたのか。どうりで私になびかないわけだ」
「相手がおらずともなびくことはないと思うがの」
「ひどいね君」
雪之丞がそう言うと聞いていた茶坊主が吹き出し、「申し訳ありません」と茶をたてた。暁妃は煙草を吸い、「桜花にでもしたらどうじゃ」と提案した。すると雪之丞は「うーん」と頭を掻いた。
「桜花嬢ねえ...彼女は妹のようなものだしなあ」
「なら無理じゃの。ほかを当たれ」
暁妃はそう言い、コン、と灰を灰皿に落とした。
立華雪葉はここ数日家の書斎に籠っていた。
力が消失した。あのすべてを凍らせ、そして静かに眠らせる力が消えた。棒術は毎日の鍛錬でどうにかなっているが、それでも威力は弱い。
なにがあったと考えている時に電報で軍から暁妃の身体が全快したという連絡が入った。雪葉は驚き汗をにじませ額に手を当てた。
あいつは二度と立てないように腰も脚も徹底的に壊したというのに。
どうしようかと雪葉は悩んだ。力がなければ軍の力は弱くなるし自分の地位も失われる。そしてふと気づいた。七緒大尉と春風少佐の力はどうなっているのかと。彼らも自分と一緒に暁妃から力を奪い取った。
まさかと思い、2人に連絡を入れ、家に招き、書斎で話を聞くと雪葉は絶望に頭を抱え椅子に座り込んだ。
軍の中で最も力のある我々3人の力がほとんどかあるいは完全に消失したのだ。
雪葉はもう一度暁妃から力を奪おうかと考え、そして無理であろうと結論付けた。あの時は地下牢に閉じ込められた名無しの忌み子であったからできたのだ。
しかし今は太陽の名を与えられ、そして家族に受け入れられ、神にも守られている。むしろ暁妃が自分たちの罪を暴き、断罪されないかという心配があった。
七緒大尉は暁妃の部屋に勝手に入ったということで皇族からの信頼も失い、逃げることを考えていた。妻を置いてだ。春風少佐も七緒大尉ほど明確ではないがその意思を持っていた。
この状態では妻を守ることはできない。ならば離縁して家に戻し自分たちは消えた方が良いだろうとのことだった。
運よく阿弓も彩也子も華族である。離縁されても生活には困らない。暁妃の世話係という仕事がある限り。雪葉はどうしようか悩んでいた。息子の雪之丞もいるしそう簡単に離縁するわけにはいかない。
3人は突然の報復に悩んでいた。
読んでいただきありがとうございます。
続きは今日18時に更新します。




