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部屋の中で

更新しました。

楽しんでいただけると幸いです。

城に戻ってきた翠と雪之丞が暁妃の部屋の前で「暁妃?」と声をかけると、中から「開けるな!」という珍しく荒げた声が聞こえ、2人は濡らした髪をかきあげ、困ったように顔を合わせた。



「暁妃?怒っているのか?悪かった」

「暁妃嬢、入ってもいいかな?」

「ならぬ、ならぬ、入るな、今夜は入るな、絶対に」

「どうしても?」

「だめじゃ!戻れ!」



どうにもへそを曲げている様子だと2人は考え、暁妃にもう一度「悪かった」と謝り、戸の前に暁妃の為に作った牡丹の花の形に紫の宝石や真珠があしらわれた髪飾りの入った箱を置き、サロンの方に向かった。今日は酒を飲んだ方がいいと考えたからだ。


その様子を戸からス、と出てきた帝釈天が確認し、2人がサロンに入ったところまで透視すると一息ついて暁妃の部屋に入り、暁妃に「2人はサロンに入った」と伝えた。


暁妃は大きな溜息を吐いて、会場に出現し皆に見つからないように自分の部屋まで連れてきた栗色の髪の男の方を見た。


毘沙門天も帝釈天も初めて見たが、暁妃が自分の身体を治している癒し手だと伝えると、怪訝な顔はしたものの武器をおさめた。暁妃は尋ねた。



「なぜ会場に来た?知られれば大変なことになるぞ」



そういうと彼は外を見、「時間だ」と言った。それでようやく暁妃は納得した。数日おきにくる彼の治療の時間だったわけだ。


暁妃は仕方がないと諦めて男に「そうか、わかった。治療すると良い」と男に言って、男が指し示す脚を着物をはだけて診せた。


彼は手をかざし、ぼこぼことした脚を治していった。治す際に「あと数日ですべて治る」と言った。



「ほう?」

「身体の方はすべて治る。傷はすべて癒える」

「それで?妾はなにをするのじゃ?寿命が増えて」

「ーー君はイナンナだ。イシュタルともいう。神となるがいい。...いずれ友がここにやってくる」

「その友はそなたがこうして妾の身体を治していることを知っているのか?」

「知らない。私は冥界にいる。君は我が友を愛するかもしれない。前回はそうだった」

「面白い話だな。ーーして?そなたの名は?」

「エンキドゥ」



名を聞いた時、暁妃は吹き出した。その名は知っている。前史時代の最古の文明、シュメール文明の英雄譚ギルガメシュ叙事詩に出てくる英雄の名だった。本名を言いたくないのだろうと考え、暁妃はその偽名を受け入れた。



「よろしい、分かった。エンキドゥ、それではそなたの友の名はギルガメシュじゃな?彼がやってくるのか?」

「くるかもしれない。私を探しにか、あるいは死を恐れながら」

「なぜ来るのじゃ?」



そう問うと偽名エンキドゥはそっと暁妃の方を見て言った。



「ここが冥界だから」



そうして「脚の治療は終わった」と言い、暁妃の口に手を当て歯を治して暗闇に消えた。暁妃は自分の脚を見た。細いが骨は綺麗につながり、傷は消え、白い美しい脚線を描いていた。


あと少しと言っていたから腰と身体の傷であろうと暁妃は考え、自分の歯を触った。折られた歯が綺麗に治っている。


言っていたことは多少気になるが、それを知るのは今日ではないと考え、早々に眠ることにした。外は雨が降り続けている。あの男は見つからずに帰ったのかが気になった。



ーーーーー


「阿弓、そなたの夫はよく話すか?」



湯殿で風呂に浸かり、暁妃はこちらを見て尋ねた。阿弓は暁妃の考えが分からず、恐る恐る答えた。



「いいえ、旦那様は寡黙な方ですのであまり...」

「そうか」

「あ、で、でも、一緒に歩くときに時々止まって私の方を見てくださったり、微笑んでくださったり、私の話を楽しそうに聞いてくださったりいたします」

「そうか」

「あの、暁妃様...?」


阿弓はなにか間違えただろうかと冷や汗をかいたが、暁妃は濡れた髪をかきあげ、言った。



「男というのはそういうものか」

「暁妃様?」

「あまり話さないのはどこも変わらぬか」


ありがとう阿弓といい、そのまままた思案に耽ってしまった暁妃を見て、阿弓は暁妃様にいい人でもいるのだろうかと考えた。しかし暁妃のまわりには兄の翠と帝釈天と毘沙門天、そしてたまに遊びにくる雪之丞くらいしかいない。翠と雪之丞は割合話すタイプだから違うかと考え、阿弓は首を傾げた。



その日の夜もやってきたエンキドゥに暁妃は試しに菓子のまんじゅうを渡してみた。彼は驚いたように暁妃を見た。


「なに、妾の身体を癒してくれる礼じゃ。嫌いでなければ食うと良い」



エンキドゥにそう言いそのまま放っておくと、彼はまんじゅうを1つ手に取り食べ、2つ3つと食べ始めたので暁妃は明日からは食事を用意した方がいいかもしれぬと考えた。冥界にいても腹は減るらしい。



エンキドゥはその日暁妃の身体を癒し、珍しく自分から暁妃に話しかけた。


「君の姉妹は冥界の女王だ」

「そうか」

「君は冥界下りをしてはいけない。姉妹と争ってはいけない。彼女の領域だ、彼女に任せろ」

「つまりこの世界は桜花のものということか?」



暁妃が問うとエンキドゥは首を振った。


「今の彼女にそのような力はない。だが力をつければあるいは起こるだろう未来がある。ーー君は知っているか?今日がいつで、どこなのかを」

「知らぬな」

「神になる前に思い出した方がいい。彼女は邪悪だ」



エンキドゥはそこまで言うと口を塞ぎ、言いすぎたと顔を背けて暁妃の治療の続きに入った。暁妃は少し考え、とある仮説の消失を試みようかと考えた。エンキドゥが何を知っているのかはなぜか思考が読めないから知らないが試す価値はある。



ーーーーー


翌日暁妃は庭に出てこの間本屋で買った本3冊を焼いた。

阿弓たちや翠は暁妃は何をしているのかと思ったが、ただの焚火かと思い放っておいた。暁妃は毘沙門天にいつものように抱えられ燃える本を見た。


たぶん、これで良い。





読んでいただきありがとうございます。

続きは今日18時に更新します。

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