パーティー
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楽しんでいただけると幸いです。
帝から桜花の誕生会を華族を集めて開くから警護の為に戻れとの指令がくだった時、軍の者たちはまさかとは考えたが、暁妃の体調を調べたいという内密の文書を見て上層部は納得し、ほかの部隊と交代し、立華大佐と春風少佐、そして七緒大尉は誕生会が行われる会場の護衛にあたった。
春風少佐と七緒大尉は内心不安であった。なにせ能力がほとんどない状態である。皆に秘密にしている分緊張していた。
暁妃は洋風のドレスは断り、どうせ踊らないからと白い生地に紫と金の牡丹の花が刺繍された振袖を着、白い髪を結い上げ花の形をした髪飾りをつけて出席した。
桜花は桃色の生地に色とりどりの桜の花や牡丹が細かく刺繍された着物を着、髪は結い上げ、桜色と白の美しい髪飾りをつけていた。
呼ばれた華族の者たちは笑顔で暁妃に挨拶し、そしてさっさと桜花の方に向かった。暁妃は内心安堵した。無視してくれる分めんどうなことはない。暁妃は『善良な差別主義者』の自分のコミュニティに異物を入れない習性にかえってありがたく感じた。
なにせ彼らの『自分はいかに差別をしない人間であるのか』という話は長い。そして失礼である。暁妃は洋装の翠に隅の方で座っていると断り、隅の長椅子に向かった。
配膳係に紅茶とかいう外国の茶を頼み、それを啜りながら四獣を撫でていた。帝釈天と毘沙門天は会場を見ていて、ふと首を傾げて暁妃に話しかけた。
「七緒正嗣と春風正也の力が妙に弱い」
「ほう?」
「あれでは人も守れまい、どうする?」
「立華雪葉は来ておるか?」
「ああ」
「では問題あるまい。彼に任せておけ」
暁妃は紅茶のカップを置き2人にそう言った。この舞踏会は監視が多い。たとえ能力値が高いがゆえに昇進した2人の能力が下がっても大丈夫だろうと暁妃は考えていた。立華もいるし、と暁妃は砂糖菓子に口をつけた。
帝は2階の貴賓席から会場の様子を見てやきもきしていた。
暁妃は挨拶を済ませると早々に奥の長椅子に座り、茶を飲んでいる。これでは暁妃の体力を測定できない。だれかあれを踊りにでも誘わないかと見ていたが、暁妃は相変わらず奥の席で踊りやお喋りに興じている人々を無視して茶を楽しんでいた。
誰かに誘うように命令しようかとも考えたが暁妃のことである、自分のように感情を読めるかもしれない。そうしてもし気分を害した暁妃が帰っては元も子もない。帝は仕方なく観察を続けることにした。
やがて桜花の誕生会は佳境を迎え、外国のケーキと呼ばれるスポンジに生クリームを塗り、その上に桜色の花々と金箔で美しく装飾された菓子が登場し、外国のマナーに習って色とりどりのロウソクを吹き消し、降りてきた帝や皇后からも祝福を受け、皇族に代々伝わる、宝石がふんだんにあしらわれたブローチをもらい、桜花は喜んだ。
雪之丞とともにやってきた翠も桜花に自らの能力で作った桜色の宝石が使われた髪飾りを渡すと、父である帝に「暁妃はどこです?」と尋ね場は急に冷え切った。
皆はすっかり忘れていた。桜花の誕生日ということは必然的に暁妃の誕生日でもある。翠は皆の様子を見、察して暁妃を探したが、暁妃はすでに入り口を出、これも外国から持ち込まれた車に乗り込み帰る途中であった。
雪之丞とともに外に出た翠が降り出した雨の中「暁妃!」と叫んだが車は既に発進していた。翠は祝われなくて気分を害したのかと考えたが明晰な頭脳は即座に真実にたどり着いた。
暁妃は誕生日というものを知らないのだ。会場に戻り父母に暁妃に今日が暁妃の誕生日であると伝えたかを確認し、そして桜花にも確認した。
全員が困ったように首を振ると翠は溜息を吐いて「皆皆は楽しむと良い。私は暁妃について帰る」と言って会場を去って行った。
「ーーすっかり忘れておりましたわ、どうしましょう」
「しかし招待状には桜花様としか書いていなかった。我々は日付を越えて生まれたのだとばかり」
「同じ日に生まれたならなぜ桜花様だけが?」
「ーーあんな火傷痕があったんですのよ。そりゃあ...」
「まさか見せつけるために?」
「さあ、でも...」
華族たちやその場にいた家臣や話をまた聞きした軍の者はとんでもないことになったとヒソヒソと話し合い、即座に気づかなかった自分は悪くないとそれぞれが弁明し合った。
だいたい親も妹も気づかなかったのだ。客人として呼ばれた自分は悪くないと話し合い、そそくさと自分たちも帰る準備を始めた。また神の怒りがやってきてはたまらないと言いながら。
残された帝と皇后は台無しになった誕生会に溜息を吐いた。桜花は初めて誰の挨拶もなく、むしろ暁妃の誕生日を忘れるとはと囁き合い、冷たい目を向け去って行く人々の態度に酷いと泣き、母である皇后に慰められていた。
帝はどうしようかと考えていた。すっかり暁妃のことを忘れていた。神の怒りもそうだが、華族たち民に自分たちの暁妃への扱いが知られたことに焦った。
異邦人ではあるけれども暁妃は神々と交流し頼んで雨を降らせるし、作物も生やせるし、大地も操れる能力の高い皇女である。本来ならば次期皇帝として最も大事にされなければならない存在。
それが舞踏会の際中は誰からも無視され、それを帝も皇后も心配せず放っておき、誕生会に至っては忘れている。
人の口に戸は立てられぬ。噂はすぐに市井の者たちにもまわるだろう。華族と違い、一般の民は本気で暁妃に信奉している者も多い。暁妃のせいで庭までであればとか人の少ない時間であれば外に出そうと異邦人に対して考えを改め始めた者も出てきたくらいだ。
皇后も今回ばかりは事の重大さを理解したのかどうしようかと焦っていた。こういう時最も責められるのは母親である自分である。しかしケーキは1つしかないし、贈り物も桜花の分しか用意していない。民衆は今までの暁妃の境遇を知っている。どうするべきか、と考えても答えは出なかった。
帝の方は皇后を守るためにも後日民衆にも、あるいはその日だけは異邦人すらも混ぜて見せるように盛大に開き直そうかとも考えたが、今日は軍と時間の合間を縫って行われたもの。次に行うのがいつになるのか分からないでいた。とんでもない失敗に終わったなと帝は溜息を吐いた。
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