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侵入者と出会う(改)

更新しました。

楽しんでいただけると幸いです。

帝の命令で帝国軍大佐の立華雪葉は七緒正嗣に刀の所持を禁じ、徽章バッジも勲章も返還するように言い、そして半年間の謹慎を言い渡した。重い懲戒処分に七緒大尉は立華大佐に尋ねた。


「大佐!なぜですか、私は...」

「貴様は自分がやったことを理解していないのか?これは貴様を守る為でもあるんだ七緒大尉。民衆は皆貴様と貴様の奥方に憎悪を燃やしている。民衆は皇女・暁妃様の味方だ。しばらくは別荘に1人で籠っていると良い」

「ーーーッ、了解しました」


七緒大尉はそう言うと刀と徽章、勲章を大佐の机に置き、一礼して部屋を出た。廊下からはヒソヒソと囁く声が聞こえる。七緒大尉はその眉目秀麗な顔を真っすぐ前に向けて嘲りや非難の声を無視し歩いて行った。


七緒大尉にとっては不服の二文字しかなかった。なにせ匿名で軍に七緒大尉宛てに手紙が届いたのだ。中を読むと妻の阿弓が暁妃に散々暴力と暴言を浴びせられ、寝起きは地下牢で行い、この間はついに顔を焼かれそうになったのだという。これで七緒大尉が慌てないわけがない。


すぐに城に侵入し、暁妃の部屋に入った。妻は元気そうだったが暁妃に言わされている可能性もある。ーと刀に手をかけたところで翠殿下に鬼のような剣幕で怒鳴られ、仕方なく阿弓を残して城を去った。


そうしたらこの顛末である。ここにきてようやく七緒大尉は何者かに自分ははめられたのだと知り、歯ぎしりをした。これを弁明し、暁妃に許しを請わなくてはならない。



七緒大尉は眉間に皺を寄せ考えた。暁妃はあのような悲鳴をあげて怯える少女であっただろうか。あれではまるで人間のようだ。



ーーーーー


その頃暁妃は久しぶりに野点をしていた。帝が誰か一緒にと提案したが暁妃は断り、相変わらず1人で茶坊主と静かに茶を飲んでいるのを部屋から帝は見、溜息を吐いた。そういえば暁妃には友人も誰もいなかったということを今更ながら思い出した。母親のことを覚えているのかすら不明だった。


暁妃は色とりどりの生菓子に楊枝を刺し、綺麗に切り取って口に入れ茶を飲んだ。また小鳥や小動物がやってきて賑やかになってきたが、暁妃は憂い顔でぼんやりと煙草を吸った。



「なにか悩み事がございますか?暁妃様」

「現世は苦界よ」



そう言って煙を吐き出す暁妃に茶坊主はそっと暁妃の方を見、にこやかに笑って言った。



「それでしたらいっそのこと贅の限りを尽くし、阿呆になって過ごしてみてはいかがです?面白おかしく生きてみれば多少は気がまぎれるかと」

「それができれば楽なんじゃがの」


暁妃はぐさりと菓子に楊枝を刺した。



「よいか茶坊主。妾にはもうその境地には至ることはできぬのよ。これでもがんばったが無理じゃった。ならばすべてを感じなくした方が楽というものよ」

「左様でございますか。しかし美しいものは美しく見えましょう?そういうのを探してみてはいかがです?」

「ふむ」


菓子を口に入れ暁妃は黙って辺りを見た。特に何もなく、特に何も変わらない。

暁妃は茶坊主のたてた茶を飲んだ。静かな音はわりと好きだ。




ーーーーー


「あの子と、でございますか?」


皇后ーー名を緋色というーーは眉を顰めて帝に聞き返した。帝は頷いた。



「左様、暁妃を娘のように扱ってみよ。もしかすればあれの気持ちも変わるかもしれぬ」

「厭でございます。娘は桜花唯一人。あのような異邦人など...」

「我侭を申すな。今我が国は暁妃の一存ですべてが決まる。なに、桜花ほど愛せとは言わぬ、ただーー」



その時ビシリという地震のような揺れが起き、なんだと外を見ると結界に大きなヒビができ、ぱらぱらと欠片が落ちてきた。


暁妃が結界を維持することを放棄し、また生きることも放棄し始めていると知った帝は目に見えて焦り、黒葡萄のようなつやつやとした黒髪に紫の眼が美しい彼女に帝は言った。



「緋色、事態が変わった。我々で結界を維持するしかあるまい」



緋色皇后陛下は目を見開きコクリと頷いた。



ーーーーー


暁妃が目覚めたとき、外は夜であたりは暗かった。今日は月が出ているものの満月ではないらしい。暁妃は起き上がり蝋燭に火を灯した。薄暗い部屋の中でぼんやりと頬杖をつき考えているとふと火傷を負った肌を指で触れられ暁妃は驚いた。毘沙門天でも帝釈天でもない、長い栗色の巻き毛の男が頬を撫でている。



「誰じゃ?」



暁妃が疑問を口にすると男は口に指を当てて、暁妃の火傷痕に指で触れていた。温かいなと思っていると男は指で触れるのを止め、闇に紛れていった。暁妃は男に声をかけた。



「何処へいく?」

「何処へも」



男はそう言って消えていった。暁妃はなんだと思ったが、ふと違和感を感じて頬に触れた。火傷痕が消えていた。



朝になると暁妃の火傷痕が綺麗に治ったということで大騒ぎになった。癒し手たちでもできなかったことを一体誰が、と暁妃に尋ねたが暁妃は首を傾げた。


薬師如来はあのような姿ではなかったはずだ。誰であったのだろうと首を傾げていると翠が「とにかく治ってよかった」と喜んだ。暁妃はあの栗色の髪の男のことを考えていた。あのような栗色の男は癒し手なんて仕事には就けないはず。


もしや前に感じたあの者かもしれないと暁妃は考えた。外からやってきた親切な異邦人。次もくるのだろうかと暁妃は考えた。特定の他人と話してみたいと思ったのはこれが初めてだった。



ーーーーー


両陛下は結界の維持に勤しんでいたが、2人の力をもってしても結界を完全に直すことはできず、日に日に憔悴していった。一度暁妃を連れてこさせ、結界を張り直すように命令を下したが、それは帝釈天と毘沙門天により阻止された。まだ身体が本調子ではないと。

実際、あの騒動以来暁妃の体力は目に見えて落ち、痩せて臥せることが増えた。癒し手たちにも反対され帝と皇后は仕方なくこの結界を維持する生活を続けていた。

まだヒビが入っただけでそれほど隙間がないため異物が入ってこないことだけが救いだった。


帝は困っていた。暁妃の機嫌を取りたいが暁妃は何も望まない。今は寝込んでいることが多いために前に翠が渡してきたオルゴールを鳴らし、雪之丞からだと翠から渡された竹取物語を読んでいた。

桜花ならば育ててきたために欲しいものの見当もつくが、暁妃の場合好きな食べ物も好きな色も趣味も好きな物すら分からない。困っていると翠が「試しに」と父母に提案した。



「すべてを与えてみてはいかがでしょう?食事は体調が戻らないとどうしようもありませんが、菓子なら野点をやっている日にあらゆるものを出してみて、着物も化粧品も宝飾品も子供用のおもちゃも本も大人の好む練り香水もなんだったら部屋も改装して興味が出ていそうなものはすべて与えてみては?一番良いのは時間ですが父上も母上も時間が無い。それは今後やることにしてとりあえず物を与えてみてはどうでしょう?」



翠の提案に帝と皇后は顔を見合わせ、今はそうするしかないと頷いた。

なにせ17年間地下牢にいた娘である。気に入らないのではなく知らない可能性が高い。

現に翠の渡したオルゴールもびいどろ屋で買ったびいどろも暁妃は大切にしている。

そうしてみようと2人は考えた。


翌日から暁妃の部屋に運び込まれる贈り物の数々に暁妃はなんだと思ったが、開けてみると着物から靴からドレスなどの服飾や装飾品、化粧品、そして子供用のおもちゃが入っていてなるほどと考えた。


どうやら妾の機嫌を取りたいらしい。暁妃は少し考え、彩也子に帝に伝えるように言った。

幼少期より欲しいものがあった。それをもらうとしよう。



「どうかえ?似合うか?」

「ああ」

「もっとちゃんと見てはどうじゃ。晴れ着じゃぞ?」



暁妃はもらった漢服を着て髪結いに髪を結ってもらい帝釈天の手を借りてくるくると回った。幼少期から神が近くにいたために彼らの衣装に憧れがあった暁妃は手に入れた漢服を着、嬉しそうにしていた。毘沙門天は困ったように額に手をやり「もう寝ろ」と暁妃に言った。



「また熱があがる。早く着替えて寝ろ」

「つまらぬ男じゃの。まあいい、どうせ治療の時間じゃ」


そう言って暁妃は漢服を脱ぎ寝巻きに着替えて布団に入った。帝はなかなかよいものをくれると布団の中でくすくす笑った。



暁妃が眠ると帝釈天は言おうと思っていたことを毘沙門天に言った。



「ーー今度の暁妃の誕生会で阿修羅王が彼女と踊りたいと言っている」

「は?」

「義父上の頼みだ、断れん。今日の服以外のものを着せるからそれで許せ」


帝釈天が心底困ったように言うので毘沙門天は頷くしかなかった。1人になった時に頭を抱えたが。


帝釈天の妻の名は舎脂という。その父が先ほど帝釈天が言っていた阿修羅王という。かつて帝釈天と争ったが、今はどうにかやめている。暁妃の誕生会で踊る踊らないでまたあの戦いが起きては困ると毘沙門天は仕方なく自分を納得させた。








読んでいただきありがとうございます。

続きは今日18時に更新します。

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