事件
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楽しんでいただけると幸いです。
つんざくような悲鳴が聞こえ、翠は慌てて自らが造った剣を握って廊下に出た。桜花も驚いて廊下に出ている。ということは暁妃かと暁妃の部屋に向かうと七緒正嗣大尉が部屋の中に立っていた。刀に手をかけて。
隅には顔を覆う暁妃とそれを守るように毘沙門天と帝釈天が武器を持ち、四獣も唸っていた。阿弓はどうにかして夫の正嗣を部屋から出そうとしていた。
「七緒大尉、なにをしている?」
翠が尋ねると大尉は笑顔で言った。
「ごきげんよう、殿下。なにって妻の阿弓に会いにきたんです。ここで虐げられていないか心配で」
「虐げられている?」
「暁妃様がされたことを阿弓にされては困るので。あとは阿弓の近況を知りに」
何が問題でしょう、というような様子の正嗣に翠は笑顔で言った。
「そうか、つまり君はたとえば暁妃が君の奥方になにかすると思ったんだね?それが心配で来たと」
「そうです」
「君の奥方は手紙で君に近況を伝えることもできないのかな?」
翠がそういうと正嗣は美しい眉をみるみる寄らせて「どういうことでしょうか?」と翠に尋ねた。
「手紙は来ておりますが」
「ではここにやってくる必要はないよな?その君の炎の能力で肌を焼いた17歳の少女の部屋になんか」
「彼女に書かされている可能性があります」
「そうか。そういう考えもある。では私が君の奥方の近況を言おう。隣の部屋だし暁妃とはよく遊んでいるからよくわかっている。それに君も私から言った方が信ぴょう性が増して安心するだろう?ーー君の奥方はとてもよく働いてくれている。そして暁妃は貴様が考えているような残酷なことを君の奥方にしていない!早く出ていけ!ここは皇族の城だ!不敬にもほどがある!」
「しかし私は」
「出ていけ!今すぐにだ!ここは我々皇族の城だ!」
「だが」
「出ていけ!」
翠の形相と声に正嗣は諦め溜息を吐いて美しい顔と黒髪を揺らして去って行った。翠は彼の後姿に声をかけた。
「君の能力はここ数年でずいぶん威力が増したね。私と同じ20代の若者にしては素晴らしい成長だ。『まるで誰かから力をもらったかのようだ』」
ギクリと振り返った正嗣は碧い眼を見開き翠の方を見、そして逃げるように廊下を歩いて行った。翠はその様子を見て確信を深め、桜花の方を向いた。
「桜花、暁妃の部屋の前に草花を生やせ。塞がなくていい。入るには多少の苦労が必要なようにしろ。私は父に報告に行く」
「はい、お兄様」
桜花はコクリと頷き、腰のあたりまで草花を生やし、中の方を見て「お姉様、大丈夫ですか?」と声をかけ、返答がないと「大丈夫ですわ。わたくしたちがお守りいたします」と慰めて部屋に戻っていった。内心笑いながら。
阿弓は暁妃の方に土下座し「申し訳ありません暁妃様」と何度も謝り、暁妃の顔色がみるみる悪くなり呼吸が乱れてきたので慌てて癒し手を呼びに行った。
夫には二度とここにきてもらっては困ると阿弓は考えた。夫は自分のしたことをよく理解していないのだ。夫を信じたいがこれがたぶん事実で阿弓は泣きたくなった。
自分にはとても優しい、とても美しく精悍なもったいないほどの夫だと思っていたのに。
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七緒大尉が起こした騒動で暁妃はすっかり錯乱し、毘沙門天らが止める中もう一度悲鳴を上げた。するとミシリと城が揺れ、天井が落ち、城が半壊した。
人々が悲鳴と混乱に騒めく中、それは市井にも及んだ。突然大地に亀裂が入り、割れてしまった。
民に怪我人はほとんどいなかったが、何が起きたのかが分からず慌てふためいた民衆はすぐに家に戻った。
後々に皇室から『突然の自然災害が起きたが、今我々が止めている』との声明が出されたが、帝も皇后もどうすればよいのか分からずに焦るばかりであった。
なにせ暁妃が錯乱してからずっと部屋に籠り癒し手によって治療を施されるも泣くばかりでそのたびに城の壁に亀裂が入り、結界は少しずつヒビが入っている。これを見て自然災害と思う人間は少ない。
すぐに暁妃の部屋に七緒大尉が無断侵入したという話が出回り、噂は尾ひれもついてやれ抜刀し殺そうとしただの、今度は手足を斬り落とそうとしただのおぞましい話が出回った。
軍は違うと声明を出したが、では結界や大地の亀裂や城が半壊したのはなぜだと問われると答えられず、ついに確かに七緒大尉は暁妃の部屋に入ったがそれは妻の阿弓の近況を知るためであって決して暁妃を傷つけるわけではないと弁明した。それでも民衆の怒りはすさまじかった。
ここにきてようやく帝や家臣、そして軍は民衆が桜花ではなく暁妃を国を守る守護者と認識していると知り、考えを改めた。
暁妃に死なれては困る。
暁妃に悲しまれては困る。
暁妃には機嫌よく笑っていてもらわないと困る。
暁妃は未だ治療中で部屋からは出てこないし、入ろうとすると帝釈天と毘沙門天が厳しく止める。今回ばかりは翠ですらも入れなかった。
翠は歯がゆく思ったが、実際のところ入ったところでどうすることもできまいと悔しそうに断念した。せめて自分に癒しの力があればよかったのに、と思い、仕方なく部屋に籠り暁妃の為になにか面白いものでもつくろうと没頭した。
設計図を見、作り、入り口に立つ神に渡し、「元気になるように祈っているよ」と言って去って行った。
帝釈天はもらった箱に困惑し、とりあえず暁妃に渡してみると、暁妃はそれを文机の上に置いてまた眠った。ここ最近はこういう生活が続いている。どうしたものかと2人の神も困っていた。
天界には報告してあるが肉体から無理矢理魂を抜くことはできない。それにどうも人間の思考を読むと暁妃の快復をほとんどの人間が願っているようだ。
天界にいる神々も困惑し、暁妃がこの試練に耐えれるか見守っていた。
半月経ってようやく薬と癒し手たちの力もあり落ち着いた暁妃は外に出た。そして毘沙門天に抱えられ謁見の間にまで行き、出てきた帝に顔を近づけてこう言った。
「二度と妾に無礼を働く者を中に入れるな。さもなくば貴様が妾に読ませた災厄の書のとうりにしてやろうぞ。あの無礼者に罰を与えよ。分かったな?」
そう言って暁妃は謁見の間から出ていった。帝も家臣もあまりの気迫に息も満足に吸えないでいた。
帝はそして自分が暁妃に預言書を読ませようとしているということを知っていると知り、怖気立った。
未知数の能力に慄き、帝は即座に七緒大尉に罰を与えるように命令した。そして暁妃の求めるものすべてを与えるようにも。
七緒大尉は立華大佐に自分の処遇を聞かされて愕然としていた。
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