侵入者の予感
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楽しんでいただけると幸いです。
買い物を済ませるとちょうど帰る時間になった。阿弓と彩也子は茶屋にでも寄らないかと提案したが、暁妃が首を横に振ったのでしぶしぶ城にもどることにした。
ちょうど評判のあんみつが食べれる店がすぐそばにあったのだ。暁妃たちが城に戻る際中、道行く人が暁妃の髪を見てはヒソヒソと話していたが、暁妃は気にも留めなかった。
そして城に戻り、正嗣と正也は報告へ行き、着物を脱いだ暁妃は着替えさっそく買ってきた本を読むことにした。治療の時間まであと1時間ある。びいどろを文机に置き、暁妃は本を読んでいた。図書室の本はだいたい読み終えた。暁妃は単純に暇つぶしの道具が無くて暇だったのだ。それともう1つ理由があった。しかしそれはどうでもいいと暁妃は考えた。備えは必要である。
暁妃が本を読んでいる間、特に何も起きないので補足の説明に入ろう。太陽帝国はいわば特殊能力を持った者たちが流れ着いた先に築いた国である。
前史時代に第三次大戦が起きた後、生き残った人間の中で黒い髪をした者のうち一部に異変が起こった。戦車を持ち上げるほどの力を持った者もいれば、空を飛べる者もいた。死人の言葉を聴ける者もいた。火や水を操れる者もいた。
彼等は他の人間から恐れられ、その土地を追われた。人種は様々であったが彼らはなぜか同じ言語を話せた。逃げているうちに海を渡り、そしてこの土地に定住することにした。朽ち果てた大地ではあったが天候や大地を操れる強大な力を持った者がいたので人々は暮らすことができた。彼らは木々が勝手に生え、たちまち緑であふれた土地で作物を育て、木の皮や蚕で糸を作り編んで服を作った。そのうちに村ができ、街ができ、国ができた。その時の皇帝は自らの住む城に高い塔を造った。彼は人々を視ることができ、そして人々の平安のためにその塔で神に祈り時折力を使い人々を助け、過ごすことが増えた。
その塔は以前暁妃が住んでいた塔で、名をジッグラトという。今はただの聖塔とだけ呼んでいるが。
そして特殊能力は現在では様々な場で利用される。火を操ったり、岩を持ち上げるような攻撃的な能力の持ち主は軍に所属し、びいどろ屋のように物の形を好きなように変えれる者。翠と桜花も例外ではない。翠は鉱物を好きな形に変えることができたし強度を変えることもできた、石を宝石にも変えれた。桜花は植物をどこにでも生やすことができた。ただし国に結界を張り、他国からの侵入を防ぎ、天候を操り、大地をも操ることはできなかった。そういったことができる者は太陽の名を与えられた。
暁妃がページをめくっていたとき、ふと指を止め、頬杖をついた。なにかが来る。姿かたちは人間のようである。結界は多少壊れてはいるが外から人間が入ってくるのは不可能なはずである。天界からの声は聞こえない。ということは天にとっては害ではないということだ。
暁妃は本を閉じ、明後日あたりに出会うだろうその人間を待つことにした。
やってくる人間はこの本のことを知っているだろうか。
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帝は暁妃が買ったものの報告を聞いて首を捻り、「まあいいだろう」と七緒大尉と春風少佐を下がらせた。
びいどろに外国人の書いた本3冊。それも小説だ。外国語が読めるはずもない暁妃がどうしてこれを欲しがったのか気になり、帝は「まさか」と立ち上がった。
暁妃は読めるのだろうか。前史時代の文字が。
だとすれば想像以上の能力を持っていることになる。今こそ外国とはほぼ鎖国状態で均衡を保っているが言語能力があるとすればある程度までは諸外国の人間と会話し、もっと国力を上げることも可能だ。外国で発達している文化は取り入れたいと帝は常々考えていた。
それに、と帝は自室に戻り一冊の本を取り出した。これを読めればあるいはこの世界の未来をもっと明確に知ることができるのではないかと考えた。
立華雪葉の息子、立華雪之丞もどのような文字も読めることはできるが、部外者にやらせるわけにはいかない。この本は皇室に伝わる預言書でもあった。
帝はどうしようか考えた。力づくで読ませても今度は確実に失敗する。何度か話し合い、距離を縮め、そうして読ませた方が無難であると考えた。怒った暁妃が結界を壊してはたまらない。帝はそのように策を練り、今度暁妃にとりあえずは集めている骨とう品や珍宝、奇物を見せてやろうと思い至った。
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暁妃は帝が所有する骨とう品の中にメデューズ号の筏の絵を見つけて内心笑ってしまった。父はこれの意味を知っていてこうして飾っているのだろうか。そうだとすれば相当な預言者だと皮肉った。
帝は機嫌よく前史時代にあったコンピュータから地球儀から本やチェス、そしてある大陸の部族がつけていた面までを見せてくれた。
「昔の扇はこのように金箔を貼り、絵を描いていたんだよ」
「それは見ていて楽しいでしょうな」
暁妃は毘沙門天に支えられ部屋の中を見ていた。そして隅に置かれた椅子が気になり帝に問うた。
「あの椅子は?」
「あれは前史時代の椅子だ。なんでも腰かけた人間は皆死んだらしい。呪いの椅子だそうだ」
暁妃は興味を持ち、その椅子を見た。ベルトがあり、頭に装着する帽子のようなものもある。ああそうかと暁妃は納得した。これは死刑台だと。たぶん頭に電気を通して人を殺すのだろうと考え、興味を失った。仕組みを知ってしまうと不吉な椅子もただの科学の産物となってしまう。
「暁妃、そなたは本が好きだろう?これを見てみるかね?」
帝は機嫌良さそうに暁妃に本を渡した。暁妃はそれをパラパラめくり「ふうん」と頷いて帝に本を返した。
「気に入らんか?」
「その言語は読めませぬ」
暁妃はそう言って、ほかの水晶で作られた髑髏や見たことのない文字で書かれた石板を見た。そして目だけで帝の様子を窺うと明らかに落胆しているのが見て取れて、あの本になにか書いてあると見当をつけた。たぶん知れば今後有利になるもの。しかしどうせ運命は変わらないと暁妃はそっと口角を上げてほかの物を見ているふりをした。
毘沙門天も帝釈天も注意深く部屋の内部を見ている。彼らが見ているのは物ではなく部屋の構造だった。隠し扉があれば暁妃が行方不明になった時にいるとすればここになる。だいたいの構造を理解した彼らは暁妃に耳打ちし、暁妃は頷いた。
「父上、今日は珍しいものを見せていただきありがとうございます。妾は治療があるのでこれで失礼いたします」
「ああ、そうか、そうであったな。ではまた来るがよい」
父親らしく繕った帝は暁妃たちを見送った。暁妃たちの姿が見えなくなった時、彼は1つの手を思いついた。
暁妃と雪之丞を結婚させてしまえば本が読めるかもしれない。
そうすれば、と考え帝は口元を歪めた。
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父が個人的な蒐集品の部屋に暁妃を招いたという話を聞き、桜花の機嫌はまた悪くなった。母である皇后に「わたくしですら入れてもらえないのに」と嘆くと皇后は優しく桜花を慰め、その日のうちに帝に文句を言った。帝は皇后の言葉に「では」と質問を返した。
「桜花は前史時代の預言書が読めるのか?災厄の書を。読んだらどうなるかもわからないあの本を」
「それは...」
「あれは暁妃に読ませればよいのだ。そうすれば我々はこのまま平安に暮らせる」
帝の言葉に皇后は頷き、後日桜花に茶会や贈り物をすることで機嫌を直した。暁妃はその会話も思惑もすべて知っていたが黙っていた。どうせあの本にはそのような力はない。しかしこれではっきりしたことがある。
帝の力は弱い。暁妃は煙草を吸い、クスリと笑った。
読んでいただきありがとうございます。
続きは明日8時に更新します。




