はじめての外出
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楽しんでいただけると幸いです。
体調がよくなりしばらく経った頃暁妃は外を眺め、ふと呟いた。
「市街に出てみたい」
阿弓たちはその言葉に顔を見合わせたが、暁妃の言うことは逐一報告するように言われているために帝に報告した。
帝は暁妃が市街に出てみたいという申し出に渋い顔をしたが、侍女と人間の護衛をつけるならば3時間程度は許そうと許可を出したので、暁妃は阿弓と彩也子の夫ーー七緒正嗣大尉と春風正也少佐を護衛につけるといって彩也子が選んだ割と地味な(しかし実際は見れば華族の中でも最上位の淑女しか着れないだろう)着物を暁妃に着せ、髪を結い、化粧を施して暁妃はいつもどうりに帝釈天と毘沙門天を従え、街に出た。
阿弓や彩也子も後ろをついていき、七緒大尉と春風少佐は更に離れて歩き暁妃を見失わないように気を付けた。見失ったら最後、天界へ行ってしまう可能性が高い。
七緒大尉と春風少佐もそれは理解しているのか暁妃の動向に目を光らせていたが決して暁妃に近寄ることも話しかけることもしなかった。街のど真ん中で暁妃が錯乱しては困る。
「ああ、ここじゃここじゃ。2人とも止まれ」
暁妃が神2人を止まらせるとそこは屋台のびいどろ屋で店主は2mを超える本や寺で見たことのある神そっくりの男2人に驚き、怯えながら「なんでしょう?」と尋ねた。
「びいどろが1つ欲しい。店主、これらはぬしが作ったものか?」
巨漢の男の1人に抱えられた暁妃を見た途端、店主は噂に聞いていた姫君だと確信し手を合わせた。そして答えた。
「へい、あたしが作ったものでございます。その、どれかお気に入りに?」
「それがよいのう、青くて花柄で。それを1つくれ」
「ありがとうございます」
侍女から金を貰い店主は心の中で喜んだ。姫君が自らやってきて買っていったびいどろだ。明日からこれを見出しにしてびいどろを売ろうと考えていた時に暁妃は言った。
「おぬしの奥方じゃが山に入って先が二股に分かれていて紫の花を咲かせる葉を煎じて茶として飲ませろ。最初に赤い糞が出る。そのあと普通の糞が出れば治るぞ。ーーところで本屋はどこにある?」
「は、え、この先の角を曲がったところにございます。あの、今の話は本当ですか?」
「本当じゃ。暗くなる前に山で探すと良い。ではな。びいどろをありがとう」
そう言って暁妃たちは去っていった。店主はこうしてはいられないと屋台を片付け家に帰り山に入った。店主の妻はもう半年も謎の病で臥せっている。
暁妃が言った葉を探し採って煎じ、茶にして妻に飲ませると確かに暁妃の言ったとうり妻は赤い糞を出し、そして普通の糞を出して元気になった。
店主は喜ぶと同時に暁妃はどうして自分の妻が奇病で臥せっているのが分かったのか不思議だった。
しかし神の力を持った暁妃である。これくらいは簡単なのだろうと店主は楽観的に考えた。
それよりも妻が快復したことが何よりも嬉しかった。
びいどろ屋の妻は暁妃に感謝し、古物商から買った懐中時計を暁妃に渡すように夫に頼んだ。夫はそれを持って城に向かったが、出てきた暁妃は言った。
「それは持っていてはならぬものじゃ。そなたの奥方が病気になったのもそれのせいじゃ。誰にも見つからぬところで粉々に壊すがよい。いつかそなたらの家に盗人が押し入りそれを盗みに来るじゃろう。怪我をする前に壊せ」
そう優しく言ってびいどろ屋を帰した。びいどろ屋は時計について教えてくれた姫とその能力にますます尊敬の念を強くした。
それからその時計は夫婦2人の手で山奥で粉々に砕かれ壊され、地中深くに埋められた。
話を戻す。
暁妃たちはびいどろ屋の店主の言われたととうりに角を曲がりそこにあった本屋に入った。
店主は屈強な男が4人も入ってきて(そのうち2人は神の格好をしていてもう2人は軍服である)男に抱えられていた女は見たことがない白い髪で顔に火傷がありそして金色の眼をしていた。
着物から見るにどこぞの令嬢であるようだ。店主は髪と衣服を整え、失礼がないように尋ねた。
「ご機嫌麗しく。なにかお探しでしょうか?」
「外国の前史時代の本を探しておる。小説で、作者はトールキンという」
「少々お待ちください」
店主は奥に引っ込み、蔵書を探していた。第三次大戦後、大地は崩れ前史時代の人間は少数になったが不思議なことが起こった。
生まれた子どものうちとある特徴を持つ者だけ遺伝子構造が変わり特殊な能力を得ることになった。数は限られているが。そしてまた対立かとなった時に1人の指導者が現れこういった。
「住む世界が違うのだ」
そうして特殊な能力を得た人間は家族と共に違う地に離れ、ほかの人間はそのまま留まった。人間は戦争にうんざりしていた。
そのようにして太陽帝国は始まり、他の人間もそれぞれ国を興した。均衡は危ういながらもなんとか保たれ、それぞれが輸出入をするくらいには貿易を行っていた。
太陽帝国が国中に結界を張り、誰からの攻撃も違法入国も行えないこともある。だから結界が壊れることは国の一大事であった。
かつての戦争は今も受け継がれ子どもも授業で教わっている。こうはなりたくないというのが今の世界の共通認識だった。
「ございました。『指輪物語』という作品です。あと前史時代の外国人作家ですとホーガンの『星を継ぐ者』とクリスティの『オリエント急行殺人事件』がございます」
「ではそれらすべてを買おう」
「ありがとうございます」
店主は金をもらい、袋に包んで阿弓に本を渡した。暁妃は「いずれまた寄る」と言い本屋から出た。店主はどこかで見たような気もするが気のせいだろうと考え、いつもどうりの店主専用の座布団に腰かけた。
前史時代の本を欲しがるとはずいぶん読書家だなと考え茶を啜った。
読んでいただきありがとうございます。
続きは今日18時に更新します。




