第43話 美少女な先輩とお出かけ
1話に1行追加しました。
餓鬼に首を掴まれた際、身に着けていた御守りが血だまりに落ちてしまうという内容です。
数話先で予定になかった展開を追加したので、合わせて修正しました。
妖異対策課京都支部で、室長をしている東坂香澄の依頼を終わらせてから、丸1週間が経過した。
碓氷雅樹はあれからすぐに、香澄の手配でカウンセリングを受けさせられた。
その結果もっと学生らしい生活をする様にと、担当医から雅樹は言われてしまう。
彼は大江イブキに相談してみた所、たまにぐらい遊んで来たら良いと言われた。
そんな事を言われてもと悩んだ雅樹は、上京学園の先輩であり、同じ帰宅部の永野梓美に助言を求める。
都会での遊び方が分からなかったので、詳しそうな先輩を頼った形だ。
クラスメイトで友人の相葉涼太でも良かったのだが、彼は美術部の活動をせねばならない。夏休みに入ったとは言え、雅樹と違って忙しい。
同じ理由でバスケ部に所属する、井本深雪も候補から外れる。部活をやっている2人は頼りにくい。
今はちょうどお昼過ぎで、2人は今頃部活の真っ最中だろう事は雅樹にも分かる。
「という訳で、都会で遊んだ経験がなく……」
雅樹は自室でスマートフォンを使い、梓美へ通話を掛けて相談している。
『遊び方言うてもなぁ。そんなん色々あるで?』
「とりあえず定番と言えばこれ、みたいなやつで良いので」
雅樹だって何となくの想像ぐらいは出来る。ただ何処に行けば良いとか、皆が普段どうしているかは不透明だ。
本当ならもっと早くに、誰かから教わる筈だった。しかしその機会を喪失し、今日まで来てしまった。
普通の高校生活を送っていれば、順当に得られた知識。だがこれが雅樹の現実。
妖異であるイブキの庇護下で、霊能探偵の助手として生きる異常な日々。
雅樹なりに覚悟を決めて進む道ではあるが、普通の高校生としての生活も気になる。
せっかく最近送れる様になった高校生活だ。その延長線上にあるものも知りたい。
イブキには青春を送れとも言われているし、遊んで来いとも言われたばかりだ。
雇い主からの許可も得ているのだから、これを機に雅樹は挑戦したかった。
『せやなぁ…………雅樹君、今から暇?』
「え? まあ、そうですね今の所は」
朝の内に雅樹は、探偵事務所の掃除を含めた雑用を済ませている。イブキは何やら事務仕事をしているが、雅樹に手伝える事はない。
依頼も特に受けていないので、雅樹自身は暇と言えば暇である。しかし何故聞かれたのか、雅樹は分からなかった。
『ほな今から遊びに行こうや。教えてあげるわ』
「え!? 2人でですか!?」
言葉で説明してくれれば十分だったのに、何故か遊びに誘われて焦る雅樹。
『そうやけど? 教えて欲しいんやろ?』
「いや、それはそうですけど……」
別に学校で人気の美人な先輩を誘ったのではない。雅樹にそんなつもりは無かった。
『ウチとは行きたくない?』
「い、いえ! そんな事は決して!」
変な誤解を与えてしまい、雅樹は焦ってしまう。そんな失礼な事を考えたのではないと。
ならエエやんと、梓美は時間と集合場所を決めてしまう。今から30分後、最寄り駅で集合となった。
『ほな後でな〜!』
明るい声で梓美は通話を切ってしまった。どうしようと雅樹は混乱する。
異性と遊んだ事ぐらい雅樹だってある。故郷に仲の良い女子はちゃんと居る。
しかしこの状況は少し違う。これは所謂デートなのか、そうではないのか。
恋愛経験が特にない雅樹には、その判断がつけられない。全く分からない。
思考がグチャグチャになったまま、とりあえず雅樹はイブキへと確認を取る事にする。
3階の居住スペースを出て、2階にある探偵事務所へと向かう。
「あ、あの、イブキさん……その、出掛けて来ても良いですか?」
「構わないよ、依頼も無いし。早速遊びに行くのかい?」
遊びに行くと言えばそうだが、もしかしたら少し違うかも知れない。
1つ年上の可愛らしい先輩と、2人きりで出掛けるのを何と表現するのか雅樹には分からない。
「……ふむ。その様子だと、相手は女の子かな?」
「えっ!? 何でそれを!?」
何も言っていないのに、速攻でバレた事に雅樹は驚く。自分の挙動不審さに気付いていない。
「良い傾向じゃないか。その調子で色んな感情を抱いて欲しいね。特に恋愛感情は私の好物だからね、付き合うなら早くして欲しいなぁ」
「ち、違いますよっ!」
珍しく反抗的な態度を取る雅樹を、イブキは興味深そうに見送った。
自室に戻った雅樹は、梓美と出掛けるに相応しい格好を模索する。
特にファッションへの拘りが無かった雅樹は、無難な服しか所持していない。
「ふ、服装なんて、どうしたら良い?」
そもそもな話、そんな所に気を遣う余裕が無かったのもある。
しかしずっと悩んでいられる程に時間もない。結局雅樹は制服を選び、私服から着替えた。
財布や御守りなど、必要な物をポケットに入れて再び探偵事務所へと降りる。
「じゃ、じゃあ、行って来ます」
入り口のドアから上半身だけを出して、雅樹はイブキに声を掛ける。
「夜は遅くなっても構わないよ? 何なら朝帰りでも」
ニヤリと笑いながら、イブキは雅樹を見ている。完全に誂うつもりらしい。
「そんな事はしませんよ!」
バタンとドアを閉めて、雅樹は階段を降りて行く。イブキのせいで雅樹の頬はやや赤い。
彼から見た梓美は、とても魅力的な先輩だ。見た目はやや派手なギャルだが、面倒見も良く優しい女性。
スタイルも良くて学校でも人気は高い。幸運にもそんな先輩と仲良くなれたのは偶然だ。
しかも何の因果か、雅樹が初恋をした女性と雰囲気がどことなく似ている。
梓美の魅力はイブキに及ばないが、それはイブキがあまりに美し過ぎるだけ。
決して梓美が恋愛対象から外れる理由にはならない。十分過ぎる程に美少女だ。
「やべ、ギリギリだ」
スマートフォンを確認すると、待ち合わせ時間がそろそろ迫っている。
遅刻するなどデート云々以前の問題だ。教えを請う側が遅れるなんて失礼だと、慌てて雅樹は走り始める。
高校生にしては優れた身体能力を持つ雅樹なら、何とか間に合う時間だ。
必死で走った雅樹は、どうにか時間までに最寄り駅へと到着出来た。
そこには既に梓美が待っており、雅樹は慌てて駆け寄った。雅樹は息を整えながら頭を下げる。
「す……すいません……待たせ、ましたよね」
「そない必死に走ってこんでもエエのに。てか何で制服なん?」
頭を上げた雅樹の目には、私服姿の梓美が居た。近くに来るまで必死だった彼は、彼女の姿を良く見ていなかった。
しかしこうして目の前まで来れば、嫌でもその姿が目に入って来る。
ヘソ出しのチビTシャツに、スウェット生地のミニスカート。綺麗な生脚を惜しげ無く晒している。
白い厚底サンダルにより、普段より少し背が高い。雅樹にはとても新鮮な姿だった。
そもそも梓美の私服姿を目にしたのはこれが初めてだ。 思わず雅樹は見惚れてしまった。
「雅樹君?」
「あ、えっと……その、ファッションとか良く分からなくて……無難に制服を……」
前から雅樹は梓美を可愛い人だと思ってはいた。しかしここまで異性として意識した事は無かった。
どうにか答えを絞りだした雅樹だったが、まだ少しドキドキしている。
確かにイブキの方が美人なのは雅樹も分かっている。しかしイブキとはまた違う魅力を梓美から感じていた。
「そうなん? 勿体ないなぁ、雅樹君カッコええのに」
ただでさえ意識しているのに、そんな事を言われてしまうと雅樹は余計気にする。
「えっ!? そ、そんな事はないと思いますけど……」
「せや! ほんなら先ずは服見に行こうや! ウチが案内するから」
梓美は良い事を思いついたと、雅樹の手を引いて改札に向かう。
雅樹よりも少し冷たい手の感触が、更に彼の動揺を誘う。
しかし魅力的な先輩を意識しながらも、必ず脳裏にイブキの顔が浮かぶ。
今の自分が雅樹には理解出来ず、ただ翻弄されるしかなかった。




