表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第2章 雅樹の故郷
35/67

第35話 オカルト研究会 中編

この先を書いていて変えた方が良いと判断して、15話『認めたくない事』における描写を少し変更しました。

人間の幽霊があまりに人権というか、妖権とも言うべき所を低く設定し過ぎたかなと。

以下変更点です。

・幽霊化した赤木涼子へは、罰則はあるが即殺す程ではない。でもケジメは必要。

・京都でやっていたら重罪である。

・イブキはこのまま妖異として生きるか、ここで心は人間のまま終わるかの選択を迫る。

それらとは別にイブキの主張を変更しています。

・自分の所有物を傷つけられるのが嫌→自分の所有物を盗まれるのが嫌

 部長である西田春樹(にしだはるき)が先頭に立ち、オカルト研究会のメンバー達が廃村へと向かって行く。

 彼らはこうした調査に慣れているので、大学生ながら装備類はしっかりとしている。

 最新のビデオカメラに照明器具、音声記録を取る為のオーディオレコーダー。

 様々な道具を手に山道を歩いて行く。少し派手な格好をしている丸山由香里(まるやまゆかり)でも、履いているのはスニーカーだ。

 ヒールや厚底ブーツで山に入る程愚かではない。他のメンバーも同様である。


「そろそろ着くぞ! 浜野(はまの)、カメラの用意を!」


「分かっているさ」


 このメンバーで1番機械に強いのは浜野康之(はまのやすゆき)だ。いつも彼が撮影係をやっている。

 元々様々なガジェットを集める趣味があり、ビデオカメラを触るのが好きだ。

 あまり関係が上手くいっていない西田の指示であっても、特に難色を示さず素直に従った。


芦田(あしだ)さんもライトの準備を頼むよ」


「は、はい!」


 新入りで1年生の芦田遥(あしだはるか)は、撮影用に使う投光器を運ぶ係だ。

 マスコミが使うものと変わらない本格的なライトで、予備も含めるとバッテリーは中々の重量をしている。

 カメラ用のバッテリーが入ったリュックも背負っているので、彼女が運ぶ道具類は10kg近い。


「芦田さん大丈夫? 辛かったら言ってね」


「だ、大丈夫です。私そこそこ体力はあるので」


 彼女を気遣った若林蓮(わかばやしれん)が、運ぶ荷物を預かろうとした。しかし1番年下である以上、芦田はやんわりと断るしかない。

 どこの世界でも下っ端は雑用担当だ。体育会系ではなくとも、そう言った所は変わらない。

 それに若林は音声記録用のオーディオレコーダーとバッテリー、そしてガンマイクを持っている。

 良くテレビクルーの音声スタッフが持っている典型的な装備だ。彼もそれなりの重量を運んでいるのだ。芦田も甘えにくい。


「若林、早くカメラに繋いでくれ」


「すいません! 今行きます」


 浜野に呼ばれた若林は、慌ててレコーダーとビデオカメラを接続しに行く。

 首にかけたヘッドホンを装着し、音声の調整を始める。その間に芦田がライトを点灯させ、浜野と映像の色調を整える。

 この5人の中で1番楽をしているのは、レフ板を持っているだけの丸山だ。

 西田は現地で採集を行う為の器具類を持っており、結構な荷物を背負っている。

 かつて紅一点だった頃に、丸山が自ら獲得した地位だ。多少の色仕掛けで西田がコロっといっただけなのだが。


「よし、そろそろ始めるぞ」


 西田が行動開始を宣言。浜野が録画を開始し、芦田が西田へライトを向ける。

 西田がこれから記録を取る村の名前と、噂について一通り語る。

 少々大仰な仕草で、西田が村の入口を指差す。浜野と芦田がそれぞれカメラとライトをそちらに向ける。

 暫くの間映像を撮り続けて、一旦カットを挟む。これがオープニング映像という事だろう。


「どうだ? いい絵が撮れたか?」


 西田が浜野に近付き映像を確認する。どうやら彼的にイマイチだったらしく、もう一度同じ映像を撮り直す。

 こうしてオープニング映像に拘るのが西田の癖だ。始まりは重要だといつも豪語している。

 彼はテレビ局への就職を目指しており、こう言った事に煩い所がある。

 結局4回撮り直し、西田が納得した所で村へと入っていく。


「やはり噂通りだ、人の気配はない」


 夜になっても明かりは無く、人の姿はどこにもない。彼らは一軒の空き家へと向かって行く。


「さてこの家も真っ暗だが、鍵の方は…………開いているみたいだ」


 大袈裟な口調で西田は、磨りガラスの嵌った引き戸を開けた。当然中は真っ暗だ。

 芦田がライトを向けた先には、真っ暗な廊下が続いている。2階へと向かう階段は、どうにも不気味な雰囲気がある。


「先ずは1階から行こうか」


「靴はどうする?」


 浜野が西田に確認する。いずれダムの底に沈むとは言え、今はまだ空き家なのだ。

 土足で入るのか、それとも玄関で脱ぐのか。もしも良い映像が撮れた時は、マスコミに送りたい西田としては悩ましい所だ。

 正直土足で行きたいけれど、マナーが悪いとイチャモンを付けられたくはない。

 空き家に不法侵入している時点でアウトなのだが、彼らはそんな事を気にしていない。


 仮に家屋の管理者が居なかったとしても、軽犯罪法違反となり勾留又は科料が科される可能性がある。

 テレビ等で放送されている物は、大抵許可を得て撮影している。だがそこを勘違いしている者は少なくない。

 それに彼らはスクープを撮れれば、心霊スポットの真実を知れれば、ただそれだけを求めている。


「一応脱いで行こう。土足は不味い」


 彼らは靴を玄関で脱ぎ、一軒目の空き家に入って行く。年季の入った廊下は、歩く度にギシギシと音を立てる。

 真っ暗な一軒家の中は、何かが居るのではないかと錯覚させて来る。

 幽霊の噂がある廃村というだけに、あらゆる者が不気味に見える。

 野良猫の鳴き声、鳥が飛び立つ音、隙間風がガラス戸を叩きガタガタと揺れる。


「1階は特に何もないか。綺麗に引き払われた後だな」


 一行は2階へと上がり、更なる探索を進める。寝室には既に布団なども無く、ガランとした空き部屋だ。

 西田が押入れを開けると、中には盛り塩を入れる様な小皿だけが残されていた。

 そのまま西田が押入れを調べると、天井に開けられそうな場所が見つかる。

 彼が板を動かすと、何かが下に落ちて来た。そちらの方に明かりを向けると、大きなネズミがそこに居た。


「きゃっ!? もう最悪なんだけど〜」


 幽霊は恐れていないが、ドブネズミを見て丸山が汚らしいものを見たと嘆く。


「ただのネズミじゃないか。大丈夫だって」


 西田が笑いながらドブネズミを驚かせる。するとネズミは何処かへと走って行った。

 まだ何か無いかと、西田が天井裏を調べる。すると何か見つけたらしく、ゴソゴソと何かを動かす音が続く。

 暫くして西田が取り出したのは、何かの入った木箱だった。ホコリ塗れで随分と古そうだ。

 だいぶ汚れているものの、漆塗りの黒いしっかりとした造りの木箱だ。


「もしかして、いきなり当たりを引いたか?」


 勿体ぶりながら、西田が木箱の蓋を開ける。するとそこには古びた日記帳が入っていた。


「日記帳か……何とも言えないなぁ」


 木箱の造りに対して、思った程大した物が出て来なかったので西田は微妙な反応だ。

 とりあえずと中身を確認して行く西田だが、徐々に表情が変わっていく。


「おい、皆見てくれよ」


 西田が開いたページをカメラにも映る様、肩越しに日記帳の中身を見せる。

 そしてカメラマンの浜野以外にも分かる様に、1ページずつ読み上げて行く。


「1998年5月3日、さっちゃんごめんなさい。でもこれは皆の為。1999年5月3日、斎藤さんごめんなさい。でもこれは皆の為。2000年5月3日、敦君ごめんなさい。でもこれは皆の為。2001年5月3日、幸子さんごめんなさい。でもこれは皆の為。2002年5月3日、木戸おじさんごめんなさい。でもこれは皆の為。2003年5月3日、私の番が来た。でも仕方ない、これは皆の為」


 それ以降は何も書かれていなかった。最初のページまで遡れば、もっと昔から同じ文章が延々と書かれている。

 毎年5月3日に、誰かに対して謝罪を書き続けている。持ち主不明のこの日記は、何か不穏なものを感じさせる。


「おい西田、これって例の生贄じゃ……」


 浜野が事前に聞かされていた、村の古い噂に関係するのではないかと思い至る。

 山の神様に生贄を捧げる。もしそれがこの日記に書かれている通りなら、重大な手掛かりを得た事になる。


「おいおい、俄然面白くなって来たじゃないか!」


 大スクープを入手したかの様に、西田は大喜びだ。生贄の証拠とするには些か弱いが、本当であるなら参考資料にはなる。

 開幕から運が良いと、彼らは上機嫌で撮影と探索を続けて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ