第35話 オカルト研究会 中編
この先を書いていて変えた方が良いと判断して、15話『認めたくない事』における描写を少し変更しました。
人間の幽霊があまりに人権というか、妖権とも言うべき所を低く設定し過ぎたかなと。
以下変更点です。
・幽霊化した赤木涼子へは、罰則はあるが即殺す程ではない。でもケジメは必要。
・京都でやっていたら重罪である。
・イブキはこのまま妖異として生きるか、ここで心は人間のまま終わるかの選択を迫る。
それらとは別にイブキの主張を変更しています。
・自分の所有物を傷つけられるのが嫌→自分の所有物を盗まれるのが嫌
部長である西田春樹が先頭に立ち、オカルト研究会のメンバー達が廃村へと向かって行く。
彼らはこうした調査に慣れているので、大学生ながら装備類はしっかりとしている。
最新のビデオカメラに照明器具、音声記録を取る為のオーディオレコーダー。
様々な道具を手に山道を歩いて行く。少し派手な格好をしている丸山由香里でも、履いているのはスニーカーだ。
ヒールや厚底ブーツで山に入る程愚かではない。他のメンバーも同様である。
「そろそろ着くぞ! 浜野、カメラの用意を!」
「分かっているさ」
このメンバーで1番機械に強いのは浜野康之だ。いつも彼が撮影係をやっている。
元々様々なガジェットを集める趣味があり、ビデオカメラを触るのが好きだ。
あまり関係が上手くいっていない西田の指示であっても、特に難色を示さず素直に従った。
「芦田さんもライトの準備を頼むよ」
「は、はい!」
新入りで1年生の芦田遥は、撮影用に使う投光器を運ぶ係だ。
マスコミが使うものと変わらない本格的なライトで、予備も含めるとバッテリーは中々の重量をしている。
カメラ用のバッテリーが入ったリュックも背負っているので、彼女が運ぶ道具類は10kg近い。
「芦田さん大丈夫? 辛かったら言ってね」
「だ、大丈夫です。私そこそこ体力はあるので」
彼女を気遣った若林蓮が、運ぶ荷物を預かろうとした。しかし1番年下である以上、芦田はやんわりと断るしかない。
どこの世界でも下っ端は雑用担当だ。体育会系ではなくとも、そう言った所は変わらない。
それに若林は音声記録用のオーディオレコーダーとバッテリー、そしてガンマイクを持っている。
良くテレビクルーの音声スタッフが持っている典型的な装備だ。彼もそれなりの重量を運んでいるのだ。芦田も甘えにくい。
「若林、早くカメラに繋いでくれ」
「すいません! 今行きます」
浜野に呼ばれた若林は、慌ててレコーダーとビデオカメラを接続しに行く。
首にかけたヘッドホンを装着し、音声の調整を始める。その間に芦田がライトを点灯させ、浜野と映像の色調を整える。
この5人の中で1番楽をしているのは、レフ板を持っているだけの丸山だ。
西田は現地で採集を行う為の器具類を持っており、結構な荷物を背負っている。
かつて紅一点だった頃に、丸山が自ら獲得した地位だ。多少の色仕掛けで西田がコロっといっただけなのだが。
「よし、そろそろ始めるぞ」
西田が行動開始を宣言。浜野が録画を開始し、芦田が西田へライトを向ける。
西田がこれから記録を取る村の名前と、噂について一通り語る。
少々大仰な仕草で、西田が村の入口を指差す。浜野と芦田がそれぞれカメラとライトをそちらに向ける。
暫くの間映像を撮り続けて、一旦カットを挟む。これがオープニング映像という事だろう。
「どうだ? いい絵が撮れたか?」
西田が浜野に近付き映像を確認する。どうやら彼的にイマイチだったらしく、もう一度同じ映像を撮り直す。
こうしてオープニング映像に拘るのが西田の癖だ。始まりは重要だといつも豪語している。
彼はテレビ局への就職を目指しており、こう言った事に煩い所がある。
結局4回撮り直し、西田が納得した所で村へと入っていく。
「やはり噂通りだ、人の気配はない」
夜になっても明かりは無く、人の姿はどこにもない。彼らは一軒の空き家へと向かって行く。
「さてこの家も真っ暗だが、鍵の方は…………開いているみたいだ」
大袈裟な口調で西田は、磨りガラスの嵌った引き戸を開けた。当然中は真っ暗だ。
芦田がライトを向けた先には、真っ暗な廊下が続いている。2階へと向かう階段は、どうにも不気味な雰囲気がある。
「先ずは1階から行こうか」
「靴はどうする?」
浜野が西田に確認する。いずれダムの底に沈むとは言え、今はまだ空き家なのだ。
土足で入るのか、それとも玄関で脱ぐのか。もしも良い映像が撮れた時は、マスコミに送りたい西田としては悩ましい所だ。
正直土足で行きたいけれど、マナーが悪いとイチャモンを付けられたくはない。
空き家に不法侵入している時点でアウトなのだが、彼らはそんな事を気にしていない。
仮に家屋の管理者が居なかったとしても、軽犯罪法違反となり勾留又は科料が科される可能性がある。
テレビ等で放送されている物は、大抵許可を得て撮影している。だがそこを勘違いしている者は少なくない。
それに彼らはスクープを撮れれば、心霊スポットの真実を知れれば、ただそれだけを求めている。
「一応脱いで行こう。土足は不味い」
彼らは靴を玄関で脱ぎ、一軒目の空き家に入って行く。年季の入った廊下は、歩く度にギシギシと音を立てる。
真っ暗な一軒家の中は、何かが居るのではないかと錯覚させて来る。
幽霊の噂がある廃村というだけに、あらゆる者が不気味に見える。
野良猫の鳴き声、鳥が飛び立つ音、隙間風がガラス戸を叩きガタガタと揺れる。
「1階は特に何もないか。綺麗に引き払われた後だな」
一行は2階へと上がり、更なる探索を進める。寝室には既に布団なども無く、ガランとした空き部屋だ。
西田が押入れを開けると、中には盛り塩を入れる様な小皿だけが残されていた。
そのまま西田が押入れを調べると、天井に開けられそうな場所が見つかる。
彼が板を動かすと、何かが下に落ちて来た。そちらの方に明かりを向けると、大きなネズミがそこに居た。
「きゃっ!? もう最悪なんだけど〜」
幽霊は恐れていないが、ドブネズミを見て丸山が汚らしいものを見たと嘆く。
「ただのネズミじゃないか。大丈夫だって」
西田が笑いながらドブネズミを驚かせる。するとネズミは何処かへと走って行った。
まだ何か無いかと、西田が天井裏を調べる。すると何か見つけたらしく、ゴソゴソと何かを動かす音が続く。
暫くして西田が取り出したのは、何かの入った木箱だった。ホコリ塗れで随分と古そうだ。
だいぶ汚れているものの、漆塗りの黒いしっかりとした造りの木箱だ。
「もしかして、いきなり当たりを引いたか?」
勿体ぶりながら、西田が木箱の蓋を開ける。するとそこには古びた日記帳が入っていた。
「日記帳か……何とも言えないなぁ」
木箱の造りに対して、思った程大した物が出て来なかったので西田は微妙な反応だ。
とりあえずと中身を確認して行く西田だが、徐々に表情が変わっていく。
「おい、皆見てくれよ」
西田が開いたページをカメラにも映る様、肩越しに日記帳の中身を見せる。
そしてカメラマンの浜野以外にも分かる様に、1ページずつ読み上げて行く。
「1998年5月3日、さっちゃんごめんなさい。でもこれは皆の為。1999年5月3日、斎藤さんごめんなさい。でもこれは皆の為。2000年5月3日、敦君ごめんなさい。でもこれは皆の為。2001年5月3日、幸子さんごめんなさい。でもこれは皆の為。2002年5月3日、木戸おじさんごめんなさい。でもこれは皆の為。2003年5月3日、私の番が来た。でも仕方ない、これは皆の為」
それ以降は何も書かれていなかった。最初のページまで遡れば、もっと昔から同じ文章が延々と書かれている。
毎年5月3日に、誰かに対して謝罪を書き続けている。持ち主不明のこの日記は、何か不穏なものを感じさせる。
「おい西田、これって例の生贄じゃ……」
浜野が事前に聞かされていた、村の古い噂に関係するのではないかと思い至る。
山の神様に生贄を捧げる。もしそれがこの日記に書かれている通りなら、重大な手掛かりを得た事になる。
「おいおい、俄然面白くなって来たじゃないか!」
大スクープを入手したかの様に、西田は大喜びだ。生贄の証拠とするには些か弱いが、本当であるなら参考資料にはなる。
開幕から運が良いと、彼らは上機嫌で撮影と探索を続けて行った。




