第34話 オカルト研究会 前編
広島県の某所、誰も住んでいない村。ダム建設が決まっており、住民は全て移住済み。
最初は村人と市の職員の間で、それなりの問答があった。地元を捨てたくない村人と、治水事業の重要性を説く職員。
両者の意見は対立し、村人に理解をして貰うまでかなりの時間を要したと言われている。
しかしある時を境に、村人の意見は賛成へと変わる。市の職員は理解を示してくれた事を喜んだ。
それで事は決着したと市の方は思っていた。だがいざ工場を始めると上手くいかない。
相次ぐ事故に不審死。工事業者の不幸が続く。しまいには幽霊を見たという作業員達まで現れた。
上がって来る報告に、市の職員達は首を傾げる。何を馬鹿なと、担当している部長が現地へと向かった。
1週間後、部長は帰らぬ人となった。流石にそうなると、市の方も対応に悩む。
工事業者は怖がってしまい、工事の継続に難色を示す。その事がどこかから漏れたのか、インターネットで噂になった。
それが1ヶ月前の事で、今は7月の半ば。夏休みを利用した大学生達が、噂の元となった村を訪れていた。
最後までダム建設に反対していた有力者が、命を落としたとされている廃村。
インターネットでは、どこから仕入れたのか噂に妙なリアルさがあった。
ダム建設に反対していた男性は、立ち退き料を幾ら貰っても断ると宣言していた。
最初は賛同していた村人達も、立ち退き料が上がるに連れて意見を変え始めた。
そんな中で起きたすれ違い。何かがあってその男性を、村人達が殺してしまった。
しかし話はそれで終わらず、男性は幽霊となって復活し工事の邪魔を始めた。
噂になっているのはそんな内容だった。真実を確かめにやって来たのは、5人の大学生だ。
東京の大学で、オカルト研究会をやっている男女。部長の西田春樹は、3年生で細身の男だ。
「よし、ここでキャンプをしよう」
部長として部員達を取り仕切る背の高い彼は、180cmを超えている。
ただあまり筋肉質ではなく、ヒョロっとした印象を受ける。ごく平凡な顔立ちの青年だ。
「西田お前、荷物運びで楽をしたんだからテントはお前が立てろよな」
不満気にしているのは同じ3年生で、やや太り気味な眼鏡をかけた男性。名前は浜野康之という。
軽薄な所のある西田と違い、真面目で慎重なタイプの性格をしている。
正反対の2人は、あまり相性が良いとは言えない。浜野は西田を苦手としているが、西田はそこまでではない。
そのせいもあって、ややこしい事になりがちだ。こうして浜野が突っかかるみたいに。
「じゃんけんで決めた事だろ? その言い分は筋違いだろう」
「ま、まあまあ! 皆でやりましょうよ! その方が早く済みますから」
2人が険悪なムードにならない様、仲裁に入った男性がいる。そこそこ整った顔立ちに、平均的な体格をした人の良さそうな人物。
彼の名前は若林蓮といい、2年生の後輩だ。いつもこうして、2人が喧嘩になるのを防いでいる。
分かり易い苦労人ポジションだ。彼が居なければ、2人が揉めるのを止められない。
「ねぇ〜早く村に入りましょうよ〜」
空気を読まずに発言しているのは、若林と同じく2年生の女子大学生。
少し派手な格好をした金髪ボブの彼女は、丸山由香里。普段から媚を売るような態度を取っている女子だ。
可愛いとは言い切れない容姿だが、化粧のお陰でそれなりにモテる。
体格は平均的で特別スタイルが良い訳でもない。格好以外は何もかもが平凡だ。
「あ、あの〜この荷物は……その、何処に置けば良いでしょう?」
丸山とは正反対に、遠慮がちな態度で声をあげているのは1年生の女子大生。
黒髪ロングの大人しそうな女子。芦田遥という名前の彼女は、見た目通り控えめな性格をしている。
あまり化粧はしておらず、最低限に抑えている。しかしそれでも十分可愛らしい。
ボディラインの出る服を好まないので分かりにくいが、スタイルの良さは相当なもの。
特に胸の大きさは隠しきれておらず、ゆったりとした服装でも存在感がしっかりとある。
「あ〜もうはいはい! 先ずは準備からだ! 芦田はそこに下ろしてくれ」
西田が指示を出して、残る4人をどうにかまとめる。あまりバランスの取れた集団とは言えない。
それでもどうにかテントを用意し、夕食の準備へと移る。調理は若林と芦田の担当だ。
若林と芦田はこの5人組の中で、1番相性が良い組み合わせだ。仲も良好でトラブルは起きない。
若林は誰が相手でも上手く立ち回るが、芦田の方は相性の悪い相手がいる。
それは彼女が参加するまで、紅一点の立場にあった丸山だ。何もかもが正反対で、共通点が少ない。
芦田が丸山に共感が出来ないのではなく、丸山が芦田にコンプレックスを感じている。
芦田は何を理由に不快感を与えてしまっているのか分かっていない。
派手な格好をしなくても、可愛らしくてスタイルも良い。男性受けは確実に芦田の勝ちだ。
西田と浜野、丸山と芦田。何かが起きても不思議ではない爆弾を、この5人は常に抱えている。
仲を取り持てる若林が居なければ、崩壊しかねない危ういチームだ。
「食べながら聞いてくれ、実はこの村には暗い過去が他にもあるらしい」
西田がこれまで調べて来た内容について、夕食の場で披露していく。調べた資料を元に作ったデータを、グループチャットで共有する。
「どうやら昔から生贄を捧げる文化があったらしい。山の神様を鎮める為に」
「そんなの良くある昔話じゃないか」
西田の発言にいつも通り浜野が反発する。生贄を捧げていた伝承は、そう珍しい話ではない。
「まあ最後まで聞けって。実は最近まで、生贄を捧げていたらしいんだよ」
自慢気に西田は情報を開示する。この令和の世になっても、まだ生贄を神様に捧げていたのだと。
「本当ですか先輩? 今時生贄なんてそんな――」
「ガチだって! 田舎の信仰なんて、何があるか分からないものだぜ?」
若林の疑問を西田は否定する。宗教は時に有り得ない出来事を巻き起こす。
教祖を信奉している者達が、普通なら犯罪になる様な事を平然と行う。
新興宗教が警戒されるのは、過去にそう言った事例があったからだ。
それと同じで古い風習も似ている所はある。科学的に全く効果がないものを、病気に効くと信じられていた等。
探せば実例はいくらでも見つかる。その中に生贄を捧げるという行為が、含まれていたとしても不思議ではない。
「え〜怖〜い!」
「安心しろよ、村人はもう居ないんだ。別の何かは居るかも知れないがな」
品をつくる丸山に鼻の下を伸ばしながら、西田は幽霊の存在を示唆する。
「ダム建設に反対した人の霊か、生贄にされた人々の霊か、それとも山の神様か」
「か、神様ですか? 流石にそれは……」
オカルトが好きな芦田は、幽霊の話なら楽しめる。しかし神様となれば話は別だ。
壊してはいけない祠の話などは楽しめるが、神の実在までは信じていない。
「いやぁ分からないぞ? 神様として祀っている存在が、実は妖怪だって寺や神社は結構あるからな」
西田の言う様に、神様として祀っているのが妖怪だという神社仏閣は多い。
地域に残る伝承で出て来る妖怪を、鎮める為に作られたという歴史を持つ様な所だ。
「まあこの山の神様については、良く分からなかったけどな」
「何だよそれ、中途半端だな」
渡された資料を手元で確認しながら、浜野がツッコミを入れる。
辺りが暗くなり始めて来たが、電子データの確認はスマートフォンで行っているので問題ない。
全員が資料を確認するのを待ってから、西田は出発を宣言する。
「さあ! 例の村へ行くぞ! 10分も歩けば到着する筈だ」
部長に従い部員達は準備を進める。ヘッドライトや撮影機材などの必要な道具を取り出して、5人は山道を歩いて行く。




