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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第1章 世界の真実
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第27話 夜の廃工場②

 大江(おおえ)イブキの助手として、囮役を担う碓氷雅樹(うすいまさき)沢城里香(さわしろりか)を連れて廃工場内を移動している。

 配信をしていた若者達が消えた場所。3階建ての建物へと2人は辿り着いた。

 かつてメインとなる生産ラインが、稼働していた建築物。その中に今から入ろうとしている雅樹。


「イブキさん、例の建物に入ります」


 右手に鉄パイプ、左手に無線機を持った雅樹がイブキと連絡を取る。


『了解。気をつけるんだよ』


「はい。じゃあ沢城さん、行きますよ」


 すぐ後ろを着いて来た里香を呼び、建物のドアを開ける。両開きのドアは、何の抵抗もなく開いた。

 中が真っ暗な為、雅樹は再びヘッドライトのスイッチを入れる。

 里香はスマートフォンのライトを使い、雅樹の後ろを着いて行く。


「この感じ……あの時に似ている」


 雅樹は花山(はなやま)総合病院での出来事を思い出す。女性の幽霊に遭遇した時と、同じ嫌な予感がしている。


「あの時って?」


「化け物と出会った時ですよ。ここは凄く嫌な感じがする」


 才能があるとイブキから言われた通り、雅樹は妖異の存在を感知する能力が急激に成長している。

 世間で言うところの、霊感に近い第六感の様なもの。それが雅樹に警告を発している。


「さっきから化け物って、アナタは一体……」


 妙に慣れた感じで、状況に対応している雅樹を里香は不思議がる。


「一応これでも、霊能探偵の助手なんで。それより進みますよ」


 雅樹が感じている嫌な予感は、全方位から届いている。ジッと見られている様な、不気味な視線が突き刺さる。

 妖異を誘き出すには、もう少し行動する必要があるらしいと雅樹は判断した。

 先ずは順当に1階から探索を開始する。窓から差し込む月明かりと、僅かな光が頼りの移動。

 周囲を警戒する故に、雅樹の足取りは慎重だ。生き物として、正常な反応を示している。

 無警戒に室内を彷徨(うろつ)く事はない。それが早く姉の生死を知りたい里香には少しもどかしい。


「もう少し早く進まない?」


「これぐらいで良いですよ」


 まだ妖異を知らない里香には、そこまで警戒する理由が分からない。

 化け物が居ると言われても、実感がないのだ。一応気を付けた方が良いのは何となく分かったが。

 ただ里香もまた姉の真希(まき)と同様に、あまり怖がるタイプではない。不気味だなとは思っているが。

 あくまで雅樹のペースで進み、1階の探索を終了した。本命の妖異はまだ現れていない。


 真っ暗な廃工場の中は、夜の病院とはまた違った怖さがある。無人のロッカールームに、トイレの中。

 誰も居ない廊下は、暗闇がずっと続いている。奥から急に何かが飛び出して来ても、不思議ではない雰囲気がある。

 放置された作業服が、一瞬人影のように見える。しかしそこにあるのは、ホコリ塗れの古着だ。

 常に警戒を続ける雅樹には、何もかもが疑わしく見える。床に転がった黄色いヘルメットや、開きっぱなしのドアの裏。


「次は2階へ行きましょう」


 雅樹は螺旋階段を登り、2階へと移動する。里香もその後に続く。

 2階は1階よりも、沢山の機械が設置されていた。ロッカールームや食堂などが無いからだろう。

 その分広々とスペースが使われていた。透明なプラスチック板に囲われた、製造用の工業機械があちこちにある。

 物によっては2メートル近い高さの機械もあり、視界はあまり良いとは言えない。


「あれ? 今そこに人影が……」


 周囲を見回していた里香が、何かを見つけたらしい。雅樹は里香の指差す方向を見る。


「……誰も居ないな。一応あっちを見てみましょう」


 里香が人影を見たという方向へ、ゆっくりと雅樹は近付いていく。

 もしそれがお目当ての妖異なら、すぐにイブキが気付いてくれる。もう怖い思いをする事はない。

 だが油断は禁物だ。大して武器になりはしない、ごく普通の鉄パイプを持っているだけだ。


 本当に妖異だったとしたら、一撃でも凌げれば御の字。御守りのお陰で死にはしないとしても、怪我ぐらいはする可能性がある。

 実際に花山総合病院でも、打ち身程度だが負傷している。注意しておいて損はない。

 そろりと機械や棚の合間をぬいながら、雅樹は少しずつ前へ進む。


「やっぱり誰もいない……」


「私の見間違えかな?」


 心霊スポットに居るからと、気を張っている里香が幻覚を見た可能性はある。

 ただ念の為、雅樹は敢えて声を出す事にした。もしも噂を信じた誰かが先に入っていたのなら、それはそれで非常に不味い。


「誰か居るのか!」


 雅樹のそれなりに大きな声は、真っ暗な2階に響いていく。そして沈黙が訪れる。


「あ!? ほらまたあそこ!」


 里香が指差す方向を素早く見た雅樹にも、今度は人影らしきものが見えた。


「そこに居るのは誰だ!」


 再び雅樹が声をあげるが、更に奥へと向かって行ったらしい。戻って来る気配はない。

 2人は顔を見合わせて、お互いに頷いた。人影らしきものを追跡する事に決める。

 再び機械と棚の合間を進み、それなりに広い通路へ出た。曲がり角には窓があり、月の光が通路を照らしている。

 他に行ける所は無さそうで、そのまま曲がり角へと2人は向かう。

 雅樹のヘッドライトが照らした先に、赤い髪をした女性らしき誰かが立っていた。


「お姉ちゃん!? お姉ちゃんだよね!」


 里香が反応を示し、近付こうとした。しかし雅樹がそれを止める。


「待って! 様子が変だ」


 ゆらゆらと小刻みに揺れながら、赤い髪の女性は立っている。

 しかし冷静に考えれば、里香の姉が生きていたというにはおかしな状況だ。

 警察は何も見つけられず、3ヶ月も経過している。妖異が居ると思われる建物で。


 雅樹の様に飼われていたとしても、何故こんな所を彷徨いているのか。

 2人の存在に気付いたのか、ゆっくりと赤い髪の女性が振り返る。

 血走った目が、ギョロリと動き2人を見る。開いた口からは、黒い液体の様な何かが垂れている。


「あがksytsがgばqwwrw!!」


 奇声を上げながら、物凄い勢いで走り寄る女性。急いで雅樹は里香を自分の後ろにかばう。


「ちっ!」


 鉄パイプの上下を掴んで横向けにして、ガードするもお構い無しに女性が雅樹へと突っ込む。


「くっ! この!」


「やめてよお姉ちゃん! 私だよ! 里香だよ!」


 里香の声は真希には届かず、必死で雅樹へと噛みつこうとする。まるでゾンビ映画に出て来るゾンビの様に。

 しかし雅樹の力でも対抗出来ているので、妖異となった訳では無いようだ。


「今のうちに逃げて!」


「でもお姉ちゃんが!」


 せっかく見つかった姉が、どうやら生きていたらしい。里香はすぐには動けなかった。


「良いから早く! どう見ても普通じゃない!」


 雅樹に急かされて、渋々里香は来た道を戻り始めた。里香が移動を始めたのを確認し、雅樹も行動を開始する。

 上手く鉄パイプを利用して、揉み合っていた真希を受け流す。

 勢い良く通路の壁に真希は激突した。その隙を突いて雅樹も逃走を開始。

 急いで里香を追い掛ける。この状況で分断されてしまうのは危険だ。

 幾ら護符があるとは言え、里香が妖異と遭遇してもイブキに連絡は届かない。


「きゃーーーーー!?」


 奥から聞こえた里香の悲鳴。雅樹は全力で駆け抜けた。追いついた雅樹の視界には、若い男性らしき誰かが里香を壁に押しつけている姿が見えた。


「彼女を離せ!」


 肩からぶつかる様に、雅樹のタックルが炸裂する。男性は床を転がって、里香は解放された。

 その隙に雅樹は里香の手を引いて、螺旋階段の方へ向かう。すると今度は1階から、何者かが上がって来るのが見えた。


「3階へ! 早く!」


「え、ええ!」


 階段を駆け上がった2人は、手近なドアを開けて室内へと身を隠す。

 暫く息を殺す様にして、一切音を立てずにいた。10分ほどそうして居たが、どうやら様子のおかしな人々をやり過ごせたようだ。

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