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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第1章 世界の真実
25/69

第25話 昼間の廃工場にて

イブキの見た目上の年齢を書いていなかったので1話に追加しました。

外見だけなら20代後半です。

 妖異は基本的に昼間は活動しない。しかし何の痕跡も見つからないとは限らない。

 明るい内に下見をするべく、大江(おおえ)イブキと碓氷雅樹(うすいまさき)は例の廃工場を訪れていた。

 陽の光に照らされた廃工場は、夜の不気味さが薄れただ寂れた姿を晒している。

 かつては多数の従業員が働いていた、広い敷地の中にはまるで人の気配はない。


「ここみたいだね」


 いつもの黒いパンツスーツに、艷やかな腰まである黒髪のポニーテール。

 180cmという女性にしてはかなり高い身長。その上スタイルも抜群に良い。

 完璧な造形を誇る美しい顔立ちは、今日も素っぴんだが凄まじい美貌を誇る。

 そんなイブキは気怠げな表情で、目の前に広がる廃工場を見る。


「思ったより広いですね」


 付き従うのは彼女の助手で、整った顔立ちの高校生。175cmと十分に背は高いが、イブキと並ぶと少し小さく見える。

 良く鍛えられた肉体をしており、体格はガッシリとしている。

 あまりにイブキの完成度が高過ぎるだけで、決して雅樹が人として魅力が欠けているのではない。

 まだ少し幼さが残っているだけで、もう数年すれば立派な男性に育つだろう。


「ふむ……少し調べてみようか」


「はい」


 廃工場の敷地内へと足を踏み入れる2人。この行為もまた不法侵入だが、イブキが居るので話は変わる。

 妖異である彼女は、ある特権を持っている。それは妖異に関わる事件への捜査権だ。

 その権力は警察をも超えるもので、捜査情報などを知る事も出来、こうして捜査としてあらゆる土地に入る事を許されている。


 妖異が行き過ぎた非道を行わない様に、監視する役目を担うが故の与えられた権力だ。

 そもそも妖異であるイブキからすれば、人間が決めた法律など守る必要はない。

 ただ日本政府が国家権力として、何かしらの取り決めを行いたかっただけだ。


「先ずは外側から見て行こうか」


 ツカツカと革靴の乾いた足音を立てながら、イブキが歩き始める。


「分かりました」


 雅樹は後を追いかけて、イブキのやや後ろを歩いていく。

 彼はイブキの立場について、ある程度聞かされているので堂々と進んでいく。

 イブキはどうしても人間を守りたい訳では無い。ただ誰かが暴走して、今のバランスを崩されたくないだけ。

 妖異にとっての警察という立場ではなく、どちらかと言えばヤクザに近い。

 せっかく安定した情勢をグチャグチャにするのなら、容赦なく排除するというスタンスだ。


 それが結果的に見れば、人間を守る行為に一応繋がるだけ。人間を喰うなとは言っていない。

 ちゃんと管理された状態で、人間を喰うならお好きにどうぞ。それだけでしかない。

 そこは雅樹も複雑だが、人間も魚や植物、そして動物を食べる。妖異を糾弾したいのなら、生き物を食べずに生活しないと筋が通らない。

 しかし動物性タンパク質を摂らないなんて、土台無理な話だ。健康状態に問題が出る。


「薄っすらとだけど、血なまぐさいね」

 

「え? そうですか?」


 雅樹には分からないが、イブキは血の匂いを嗅ぎ取っていた。人間と鬼は肉体性能がまるで違う。


「人間の君には、分からないだろうね」


「匂いは分かりませんけど、この前の霊安室みたいな感じはします」


 妖異との接触が増えた雅樹は、少しずつ妖異が発する気配を感じ取れる様になって来ている。

 元々素質もあったのだろう。霊能探偵の助手として感覚が覚醒しつつある。


「……どうやら問題の何者かは、気配を隠しているね」


「分かるんですか?」


「支配圏じゃないから、正確な潜伏場所までは分からないけどね」


 妖異は縄張りとして支配圏を敷いた範囲内の、あらゆる妖異の位置を察知出来る。

 しかし支配圏から出てしまうと、細かい位置やどれだけ居るかは分からなくなる。

 支配地域を分配し、派閥を作って人間を管理している弊害と言える。


「小松さんに聞いたら分かるのでは?」


 ふと思いついたとばかりに、雅樹は提案してみる。しかしイブキはそれを否定する。


「アイツは商売にしか興味がない。メンツでも潰されない限り、こういう事には関与しないんだ」


 そもそも元は狸だからねとイブキは続ける。狸は雑食ではあるが、人間を食べる事はない。

 化け狸になる事で、人間を喰う様になりはする。彼らもまた妖異の一種には違いない。

 だが元が動物だと、妖異になる前の食性に引っ張られ易い。元から妖異である者ほど、人間を好みはしない。


「人間を喰うのはエネルギー補給が目的だからね。100人や200人死んだとしても、アイツらは気にしない。徳島(ここ)はね、そういう商売好きの妖異が集まっている」


「妖異なのに商売好きって……」


 雅樹は驚いているが、収集癖を持つ妖異はそれなりに居る。カラスが光り物を集める様に。

 地球上の生き物には、収集癖を持つ動物は人間が思うより多くいる。犬やネズミなどもそうだ。


「妖異なんてね、本当に様々だし身勝手さ。だってそれでも、私達は何とかなっちゃうから」


 地球上で1番の強者だからこそ、胡座をかいていられる。人間や動物達の様に、天敵となる者がいない。

 敢えて挙げるならば、同じ妖異こそが天敵になりうるだけだ。


「そもそも人間の管理なんて、杜撰な妖異も多いからね。放っておいても増えるからって、放置する奴とかね」


「適当だなぁ」


 しっかり管理されているわりに、アバウトな所もそれなりにある。

 人間社会もそうだから、そんなものかと雅樹は思う。正確に言えば妖異がこうだから、人間社会も似ているというべきか。


「今回はマサキの出番かもね。今夜は囮役を頼もうか」


「…………すぐに、助けて下さいよ?」


 以前ほどの恐怖は抱かないにしても、怖いものは怖い。一応引き受けるが、雅樹とて不安である。

 何よりイブキの手伝いをしたからと言って、喰われる人間が居なくなりはしない。

 それでも誰かは、救えるかも知れない。何もしないよりは、していた方がマシ。


 喰われる人間が居ると知っておきながら、こんな事をしているのは偽善でしかない。

 雅樹もそれは分かっている。体を張って助けた花山一正(はなやまかずまさ)も、恐らく妖異に喰われる。

 だけどそれでも、雅樹は妖異に抗う道を選ぶ。せめて自分が納得出来る生き方をしよう。

 世界の真実を知った雅樹の、悩んだ末に決めた事。生き方を定めた彼の歩む道。


「さあどうしようかなぁ? 君の恐怖心は結構美味しいからねぇ」


 プラスの感情を好むイブキでも、雅樹の葛藤や恐怖を有難がる。

 それだけ碓氷雅樹という存在は、妖異にとって特別な餌なのだろう。


「ちょ、頼みますよ本当に」


 妖異との対決よりも、雅樹の味を重視しようとするイブキ。死ぬ事はないとしても、怖い思いはするかも知れない。

 何とも微妙な反応を見せるイブキに、不安感を募らせる雅樹。


「安心しなよ、私は所有物を傷付けられるのは嫌いだからね」


「……物理的な傷は、って意味でしょそれ」


 ニコニコと楽しそうに笑っているイブキが、あまりにも胡散臭く見える雅樹。

 今夜は無事に過ごせるのだろうかと、悩みながらイブキの後を追う。

 そして問題の生産ラインがある、例の3階建ての建物に2人は辿り着く。


「……恐らくはここが、本拠地なのだろうね。今から私が入ると、余計に警戒されそうだ。今は入らないでおこう」


「良いんですか?」


 下調べはしないのかと、雅樹はイブキに問いかけた。


「こんな建物の1つぐらい、私ならすぐに踏破出来るからね」


 イブキが全力で移動すれば、探索なんて時間は掛からない。

 廃工場なのだから、壁や機械を破壊しながら進む事が出来る。障害など無いに等しい。


「それじゃあ雅樹、お昼でも食べに行こうか。せっかく徳島に来たのだから、徳島ラーメンでもどうかな?」


「イブキさんて、結構ラーメン好きですよね」


 これから妖異と対峙すると言うのに、観光客みたいな事を言うイブキ。

 本当に大丈夫なのかなぁと思いながらも、お腹がすいたので雅樹はイブキに従った。

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