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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第1章 世界の真実
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第17話 雅樹の学園生活 前編

 碓氷雅樹(うすいまさき)は普通の高校1年生として、表向きは生活している。

 ただし転校の理由と身内の不幸について、大体の生徒に知られている。

 そのせいで、ある意味有名である。可哀想だとか、同情的な目で見られている。


 今も何処か腫れ物を扱うように、遠巻きに見られている面がある。

 しかしそれも、全ての生徒がそうなのではない。気にせず雅樹と接している者も居た。

 雅樹の席より1つ前の席に座った男子生徒が、雅樹へと質問を投げ掛けた。


「なあ碓氷! お前って噂の美女と暮らしてるってマジ!?」


 上京(かみぎょう)学園1年A組の教室で、雅樹はお昼を食べていた。その美女が作ってくれたお弁当を。

 彼と一緒にお昼を過ごしているのは、相葉涼太(あいばりょうた)という少しヤンチャな少年だ。

 派手な金髪とピアスがトレードマークの、体格に優れたノリの軽いやや軽薄な男子だ。


 イタズラ好きそうな顔立ちをした、所謂ヤンキー風味な格好をしている。

 あくまでそれっぽいだけで、本当にヤンキーをやっている訳では無い。

 彼は雅樹を腫れ物扱いしない友人の1人で、転校して間もない内からフレンドリーに接している。


「……何で知っているのさ?」


 雅樹は知り合いの家で暮らしているとは伝えた。しかしイブキの事までは教えていない。


「だってお前、あそこに住んでんだろ? 大江(おおえ)探偵事務所。あそこにすげぇ美女が居るのは有名だぜ?」


 なるほどそれでかと、雅樹は納得した。大江イブキは超のつく美人だ。そりゃあ地元で有名にもなろう。

 いつかはこうして、この友人に知られていたのかと雅樹は状況を理解した。


「羨ましいよなぁ! 何回か見掛けた事あるけど、あんな綺麗な人は見た事ないぜ!」


「まあ、それはそうだけど」


 だって人間じゃないし、と雅樹は言い掛けたが踏み留まる。余計な事をわざわざ言う必要はない。

 確かにイブキは人間から見ても相当に美しい。腰まである長い髪は絹の様に艶があり、太陽を浴びると輝いている。

 目鼻立ちはハッキリとしており、各パーツの配置も造り物の様に完璧だ。


 まるで大和撫子という言葉のイメージを、そのまま人形にしたのかと思うほどだ。

 毎日見ていても、雅樹はいつもそんな風に感じている。麗しい女性である事は間違いない。

 だがそれは彼女が鬼という妖異であり、人間ではないからこその美しさなのだ。


「こう、風呂を覗いたりとか」


「するわけないだろ!」


 確かに性的な意味で非常に魅力的なのは、雅樹とて感じている。しかし生き物として別の種族だ。

 幾ら異性として意識をしていても、その事実は何も変わらない。

 そもそも女性の入浴を覗こうなんて、雅樹は考える様な人間性をしていない。


「何かねーの? そういう美味しい話」


「…………無いよ別に」


 それは雅樹がついた嘘である。感情を喰われるという一大イベントがある。

 気分的には複雑だし、今も心が無になる瞬間が気持ち悪い。だけど刺激的である事は間違いない。

 今までの人生でそう何人も見たことが無い様な、とんでもない美人に唇を奪われる。


 思春期の男子高校生としては、あまりにもクリティカル過ぎる行為である。

 しかもその感情は、喰われた時点でイブキにバレる。わざとやっているのではと、最近雅樹は疑っている。

 遊ばれているのか、その方が美味しいからなのかは雅樹には分からないが。だからと言って、本人に聞くのは憚られる。


「え、どしたん? 何かあんの?」


 何かを感じ取った涼太が、雅樹の微妙なリアクションに反応した。しかしその追求は中断された。


「ちょっと涼太! 勝手に私の席を使うなっていつも言ってんでしょ!」


 ショートカットのスポーティな雰囲気を持つ、綺麗な黒髪をした女子生徒が涼太を咎めている。

 薄っすらとメイクをしており、顔立ちの整った健康的な美を感じさせる少女である。

 長い睫毛、形のいい眉、ぷっくりとした唇。美少女と呼んで差し支えない可愛らしさを持っている。

 女子生徒にしては身長が高く、その背丈を生かして女子バスケットボール部で活躍している。

 彼女の名前は井本深雪(いもとみゆき)。涼太の幼馴染であり、雅樹を腫れ物扱いしない友人でもある。


「ごめん井本さん、俺も言ったんだけどさ」


 雅樹が申し訳無さそうに伝える。いつもこうなるからと、伝えたのだが涼太は気にしなかった。


「碓氷君は気にしないで。この馬鹿が悪いんだから」


「別に良いじゃねぇか、お前が帰って来たらちゃんと返してるじゃん」


 昔からお互いを知っているからと、2人は気安いやり取りを交わしている。

 それが雅樹には、少し眩しく見える。雅樹にとっての幼馴染達は、故郷の村で元気に暮らしている。

 地元を離れて暮らしている雅樹は、こうしたやり取りの出来る相手がいない。


「碓氷君も付き合う相手は選んだ方が良いよ? こんなのと居たら馬鹿が伝染るから」


「雅樹、この女はゴリラだから注意しろよ――って痛てぇな! グーはなしだろ!」


 賑やかな2人のクラスメイトと、友人となった雅樹はそれなりに楽しい時間を過ごせていた。

 妖異に関するアレコレはあっても、彼らと共に生きる日々が雅樹にとって良い影響を与えているのは間違いない。

 昼休みの後も普通に授業を受けた雅樹、学校が終わったので帰る事にする。


「じゃあな相葉、また明日」


 いつも通り雅樹は友人に一声掛けてから、教室を出る様にしている。


「おう! またな!」


 見た目がチャラい涼太だが、実はこれでも美術部に所属している。

 全く無縁に見えそうだが、昔から絵を描くのが上手いのだ。意外な才能だなぁと雅樹は思った。

 そんな友人と別れて、雅樹は学校を出て行く。先日の病院での一件から、雅樹は外を出歩く余裕が出来た。

 怖くないわけじゃないが、怯えて逃げ隠れするほどもう怖がっていない。

 それに昼間は安全だから、最近少しだけ遠回りして帰ったり、寄り道をしたりしている。


 今日は何となく遠回りしてみようと、いつもと違う道を選んだ。

 暫く歩いていると、長めの茶髪にウェーブを掛けた派手そうな女子が居た。

 紺色のブレザーに茶色いスカート、雅樹と同じ学校の制服を着ている。

 妙にスカートが短いし、色々と着崩している様だ。どちらかと言えば、涼太と近い人種に見える。

 一言で表すのなら、尻が軽そうな派手なギャルだ。そんな女子が、2人組の男に絡まれていた。


「良いじゃんか〜俺らと遊ぼうよ」


 金髪でロン毛の男が、女子生徒に迫っていく。


「ちょっと、話してや! 触らんといて!」


 関西弁で話す彼女は、腕を掴まれて困っている。しかし絡んでいる男達がチンピラ風味で、周囲を通る人々は素知らぬフリをしていた。


「良い薬とか知ってんだよね、君みたいな子は好きだよねぇ?」


 坊主頭の厳つい男が、怪しい薬の話まで始めた。こんな往来で馬鹿なのかと、雅樹は正直に思った。

 しかしこうも誰1人助けに行かないものかと、雅樹はため息をついた。

 彼はハードな経験をしたから、価値基準がバグってしまっただけだ。

 普通ならこんなチンピラっぽい男達を相手に、声を掛けようとは思わない。

 せいぜい黙って通報をするぐらいで、直接何かを言いに行く事はしない。


「あの、困ってるみたいなんで、彼女を離して貰えますか?」


 別に雅樹は正義感から行動したのではない。ただここで見捨てるのは、何となく嫌だっただけ。


「ああ? 何だぁガキ」


 雅樹に介入された事で、不快感を示す男達。雅樹を睨み凄んで見せるが、雅樹には全く通用していない。


「離して貰えますか? セクハラですよ、それ」


 散々怖い思いをし、化け物達を知った雅樹には彼らが小物にしか見えない。

 恐らくは大人で、いい歳をした筈の2人が高校生をナンパしている。

 どう考えても小物だ。情けない大人の代表例だろう。しかしこの辺りは、かなり治安が良い地域の筈。

 イブキが管理する足下に、こんな連中がいるのは変だと雅樹は感じた。

 恐らくは旅行者だろうと雅樹は当たりをつけた。事実彼らは、明らかに関東圏のイントネーションで話している。


「何だテメェ? ヒーロー気取りかよ?」


「ヒーローが居たら助かりますよ本当に」


 ヒーローなんて存在が居れば、どれだけ有り難い話だろう。そんな事を雅樹は思った。


「そこの君達! 何をしている!」


 誰かが通報していたのか、自転車に乗った警察官が2人近付いて来た。

 2人のチンピラは捨てゼリフを吐いて逃走して行く。不審者を追い掛けて、片方の警察官が追跡を開始。

 残った警察官に事情を聞かれ、軽い事情聴取を雅樹と女子生徒は受けた。

 すぐに解放されたので、雅樹は帰ろうとする。しかし女子生徒は雅樹を呼び止めた。

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