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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第4章 妖異達に囲まれて
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第128話 傭兵達 前編

 月が輝く空の下、駐車場に停まっている1台のワゴン車から、2人の男性が降りて来た。ワゴン車には電気会社の名前が書かれている。

 しかしそれは仮の姿。彼らの目的地は、昼間にトラブルが起きた地下研究所だ。地上部分の研究所はただのダミーで、本命は地下の研究所である。

 ただしそんな事は、地上で働いている職員達は知らない。真実を何も知らないまま、普通に仕事をしているのだ。それは警備員達も同じだ。

 2人はあくまで電気工事で来たと装い入館し、彼らは秘密の入り口へと向かっていく。所長室へと入った彼らは、本棚に隠されたスイッチを押す。

 すると壁が動いて入り口が露出する。幾つか用意されている入り口の中でも、現状一番確実性の高い侵入経路がここだった。

 

 他は水没してしまっており、侵入するには手間が掛かってしまう。素早く事を済まさないといけない2人は、スムーズに地下施設へと向かう。

 入り口から少し進んだ先に、地下へと向かうエレベーターが存在している。だが現在はトラブルにより、最下層で止まっている。

 しかし2人にとって、そんな事は問題にならない。彼らは扉をこじ開けて、周囲に持って来た複数のカバンを降ろす。中には様々な道具が入っている。

 床に金属製の2本の杭を打ち込んだ2人は、続いてロープを取り出し杭にフックで固定する。それから先端を階下へと放り投げる。

 慣れた動作で彼らはロープを使って、エレベーターシャフトを降りて行く。動きは完全に消防士や警察、もしくは自衛隊のようなラペリング降下だ。


 瞬く間に研究所のある階まで降りた2人は、ハッチを使いエレベーターの中へと侵入。再び扉をこじ開けて、地下研究所へと侵入した。

 想定されている通りであれば、散布された毒ガスは換気システムで排出された後だ。しかし2人は念の為、ガスマスクを装着している。

 既に想定外の事故が起きた後だ。施設が本来の役割を果たせなかった可能性は、十分に考えられる。2人はつまらないミスをしない。

 電気はまだ来ているので、ライトは必要なさそうだ。背負っていたバックパックから、彼らはサブマシンガンを取り出した。

 軽く動作を確認してから、バックパックを背負い直す。当たり前のように取り出された小銃だが、随分と使い慣れている様子だ。


「先輩、ここの連中は何をしたんです?」


 若い声の男性が、もう1人の男性へと声を掛ける。彼はここで起きた事故の、主な原因までは知らされていない。


「知らんよ。実験体が全部逃げ出したんだとさ」


 渋い声の男性が、自分も原因は知らないと返す。彼も詳しくは知らされていないが、原因に興味は無さそうだった。

 ベテラン故か、もう何度もこのような現場を見て来たのだろう。今更そんな事は、どうでも良いという雰囲気だ。


「え~。気にならないんすか?」


「どう~でも良いさ。それよりサッサと終わらせるぞ」


 知りたがりな部下はまだ知りたそうだが、早く終わらせたいのは彼も同じだ。突然入って来た仕事のせいで、帰る時間が遅れている。

 帰ってラーメンでも食べたいと思っている。その為にはラストオーダーまでに、仕事を終わらせて退勤せねばならない。

 2人は一応警戒しながら進んで行く。色んな実験体が飼われていた研究所だ。万が一という可能性も考えられる。

 例えクジラ程の巨体を持つ生物ですら、即死するレベルの猛毒が散布されたとしても。普通の生物でない以上、絶対とは言えない。


 あちこちに人間の死体と、肉片が散らばっている。壁や床には真っ赤な血の跡が残されている。あまりの惨状だが、2人は気にしていない。

 普通の日本人なら見ただけで尻餅をつきそうな状況だが、全く動じた様子は見られ無い。この程度なら見慣れているからだ。

 元から彼らは、こう言った現場に送られるのが仕事だ。普通の職業ではなく、社会の裏で動く組織に所属している。

 特殊な訓練も受けており、少々体を弄られた動物ぐらい恐れる事もない。何故なら普段から相対するのは、本物の化物だからだ。


「ここだ」


 先頭を歩いていたベテラン風の男性が、サーバールームと書かれた部屋へと侵入する。室内には誰もおらず、生きている生物もいない。

 部下の男がバックパックからノートPCを取り出して、メインのサーバーへと接続する。予備電源で動くのは、後数時間だけ。

 それまでに彼らは、この研究所からデータを持ち帰らないといけない。彼らが受けた命令の一番重要な仕事はこれだった。


「……にしても、()()()()は何故こんな事を? 人間にこんな真似をさせる必要はないでしょ?」


 彼らが普段から相対する者、取引の相手は人間ではない。妖異と呼ばれている隠れた存在。全ての生命の頂点に立つ者達。

 

「深入りは止めておけ。余計な事を知ったせいで、消えて行くのがこの業界だ」


「え~、これぐらい良くないですか?」


 部下の男性は不満げだが、ベテランの男性はダメだと返答した。人間は立場的にかなり弱い。生かされている側なのだから。

 その事を良く分かっているベテランの男性は、自分が末端に過ぎないのだと弁えている。代用品なんて、妖異達は幾らでも用意出来るからだ。

 余計な事をして、雇い主の不興を買えば簡単に飛ぶ首。態度が気に入らないからと、殺されても文句は言えない。そんな世界に生きている。

 大江イブキや那須草子(一部の妖異)のような、人間寄りの妖異は全体で見れば少数派だ。そして彼らの雇い主は、多数派の方である。

 人間の事なんて、使い捨ての駒程度にしか思っていない。まだ駒扱いな分だけ、多少マシかも知れない。少なくとも仕事にはありつける。


「勝手に1人で自爆するなら好きにしろ。俺は巻き込むなよ」


「冷たいっすねぇ。ただの知識欲じゃないですか~」


 血生臭い空間で、そんな事を考える余裕を持てている。ある意味で部下の彼は、豪胆なのかも知れない。心臓に毛が生えていそうだ。

 そんなやり取りをしながら、雑談に興じている2人。周囲への警戒は怠っていないが、ただ待つだけなのも退屈だ。

 ポケットから電子機器を取り出したベテランの男性は、周囲の空気について調べ始めた。機器の示す限り、この室内に毒素はない。

 それが分かるなり、ガスマスクを脱いでタバコを吸い始める。渋い声の似合う、顎髭をたくわえた中年男性だ。恐らく40代ぐらいだろう。

 部下の若い男性も同様に、ガスマスクを外してタバコを吸う。こちらは軽薄そうな、左耳にピアスをした20代ぐらいの青年だった。


「あとどれぐらい掛かる?」


「データ量は結構多いんでねぇ。2時間ぐらいですかね」


 メインサーバーに残されていた研究データは、かなりの量を誇っている。最新のデータ転送技術でも、それなりの時間が掛かる。

 それならばと、ベテランの男性は今の内に別の仕事を進めようと考えた。彼らに任された仕事は、何もこれだけではない。


「ならば、今の内に爆弾をセットしに行くぞ」


「え~!? もう1本だけ! もう1本だけ吸いましょうよ!」


 もう少し休憩がしたいと、部下の男性が粘る。もう5分ぐらいタバコを吸っていても、大して結果は変わらないからと。

 確かにその通りだったので、ベテランの男性は渋々承諾した。5分後から始めても、結局時間は余るのが目に見えているからだ。

 敵が大量に待っているのなら、2時間は短い。だがこの研究所には、処理がされた後である。仮に何匹か生きていても、瀕死の状態だと思われる。

 相手が妖異ならすぐにでも終わらせて撤退すべきだが、ここに妖異は居ない。ならば多少のんびりしても、大幅なズレは出ない。


「もう良いだろう。2本目も吸い終わった。行くぞ」


「待って下さいよぉ~」


 バックパックを再び背負った彼らは、ガスマスクを再び装着する。これから爆薬を設置する為に、サーバールームを出て行った。

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