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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第4章 妖異達に囲まれて
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第125話 人の業

 森山隆司(もりやまたかし)は科学者だった。主にDNAに関する研究を行って来た。30代までは順調に歩んでいたが、40代に差し掛かり躓いてしまった。

 共同研究をしていた相手の裏切りにより、研究成果を全て横取りされてしまった。信じていた友人は、最初から彼を利用していた。

 長年かけて出した結果は、全て裏切った友人のものとして発表された。隆司の名前は、どこにも載っていなかった。

 上手く根回しをしていたのか、隆司が後から何を言っても認められなかった。成功者への妬みだと言われてしまう始末。

 隆司は学会を追われてしまい、行先を求めて彷徨っていた。研究から離れるという選択肢は無かった。

 

 友人の裏切りを証明する為、より発展的な研究成果で無実を証明したかった。まだ彼は、友人にも秘密だった研究があったからだ。

 その成果を持ってすれば、友人の発表が本当は誰のものだったか証明出来る。だから研究さえ続けられれば、どんな場所でも良かった。

 最早合法かどうかすらも、隆司にとってはどうでも良い。研究とその成果のみが全てであり、非合法な施設でも気にしない。

 隆司を拾ってくれたのは、表向きは海洋生物に関する平凡な研究所だ。あくまで表面だけは。実際にはタブーに触れる非合法な組織だ。

 名目上は海洋生物の保護と研究を謳いながら、やっている事は生物兵器の研究と開発だった。


 大平洋側に建てられた研究所は、白を基調とした綺麗な外見をしている。そちらでは、名目通りの研究が行われている。

 だが本命の研究は、地下施設にて行われていた。地下にある本命の施設は海と繋がっており、様々な海洋生物を運び入れる事が可能だ。

 人工のトンネルを通して、研究所へと連れて来られる生物は色々といる。ここ数年特に良く使用されているのは、オオメジロザメだ。

 淡水にも適応出来る凶暴な種で、人間が捕食される事件も確認されている。ニュージャージーの有名な襲撃事件も、ホホジロザメではなくこちらが犯人ではないかと言われている。

 そんな危険なサメも含めてを扱う研究所だが、隆司は何も気にしていない。今日も呑気に、コーヒーが入ったカップを手にラボへと向かう。


「あれぇ? 森山博士、今日こっちだったんですか?」


 部下であり助手の荻野順平(おぎのじゅんぺい)が、不思議そうに隆司を見ている。今日はスポンサーとの会合があると聞いていたからだ。


「良く分からないが、中止になったよ。ここを出る前に決まって良かった」


 隆司は自分のデスクに着席する。彼は中肉中背のどこにでも居そうな男性だ。年齢は45歳で、慎重は165センチ。

 研究一筋で生きて来たせいか、視力はあまり良くないので眼鏡をかけている。特徴と言えばそれぐらいで、良く居るオジサンという風貌だ。

 友人に裏切られる前までは人の良い人間だったが、それ以降は少し歪んでしまった。やや研究へと傾倒し過ぎる傾向がある。

 人付き合いは可もなく不可もなく。過去の経験から人を信用しなくなったが、コミュニケーションが取れない程歪んでもいない。

 ただ近い距離に人を置きたくなくなったのか、結婚していた女性とは離婚して独り身をやっている。


「へぇ。じゃあ今日も続きですか」


「ああそうだ。私はその方が気楽で良いよ」


 彼らのラボの床下には大きなプールがあり、海から連れて来た海洋生物をリフトで室内に入れる事が出来る。

 プールの直径は8メートルあり、中型のシャチぐらいまでなら入れる事が出来る。大型の海洋哺乳類は少し厳しいところだが。

 今は何も入れていないので、ただ海水が床下に貯まっているだけだ。海水はポンプで循環させており、常に新しい海水が送られて来る。

 他にも様々な設備が用意されているので、研究者である隆司にとっては最高の環境だった。ちょうど彼が行いたい内容に、海洋生物が必要だったからだ。


(ん? 何だこのメールは?)


 隆司は自分のデスクにあるパソコンを起動すると、メールソフトに新着メールが来ていた。メールチェックをしていた時、気になるメールがあった。

 何かのリンクが貼られているのでもなく、ただ添付ファイルが付いているだけ。送信主は、知らない名前の人間だった。

 だが彼はどこかでその名前を見たような気がしたのだ。論文だったか、学術書だったか、それとも何かの発表会か。

 一度気になってしまったそのメールから、何故か隆司は目を離す事が出来ない。どうやって紛れ込んだのか、不思議なメールだ。

 本来なら無関係な外部の人間から、地下研究所に連絡を入れる事は出来ない。である以上は、他の誰かと関係のある人物だろうかと隆司は考える。


「順平君、この名前、見た事ないかい?」


「え? どれですか?」


 隆司はノートパソコンの画面を順平の方へ向ける。席を立って近付いた順平が、画面に移されたメールを見る。

 アドレスに記載されている送り主の名前を見た順平は、これと言ってピンと来た様子はない。ただ彼もまた、聞き覚えがあると答えた。

 隆司と同じく、どこで知った名前か思い出せないらしい。奇妙なメールだと隆司は思ったが、どうしても惹かれている自分が居た。

 順平を席に戻らせた隆司は、コーヒーを飲みながら熟考している。間違いで送信されたメールなのか、そうでないのか。

 宛先や本文は書かれておらず、誰に送ったメールかも分からない。隆司と似たアドレスを使う職員は、この研究所に居ない。


(削除……いや、何だ? どうしてこうも気になる?)


 まるで魔法でも掛けられているかのように、隆司はこのメールが気になっている。どうしてなのかは、自分でも説明出来ない何か。

 もしこのメールがただの迷惑メールで、ウイルスにでも感染していたら。普通に考えれば、この添付ファイルを開くのはとても危険な行為だ。

 リスキーである事は隆司も良く理解している。ただこの研究所のセキュリティはかなり高度だ。イタズラメールならサーバーで弾かれる。

 だからこそ、このメールは安心だと考える事も出来なくはない。暫く悩んでいた隆司だったが、謎の吸引力に負けて添付ファイルを開いた。


(……まて……何だこれは? こんな……こんな、都合の良い話があるか?)


 添付ファイルに記載されていたのは、とある研究の成果と論文だった。それは隆司が目指す未来に欠けていたもの。

 自分の研究を進める上で、どうしてもボトルネックとなっていた箇所。クリア出来ずに半年行き詰っていた問題の解決策が載っている。

 だがこんな研究と論文は、今までに彼が見た事のないものだ。ヒントを求めて調べ尽くした隆司が、ずっと探し続けていたもの。

 おかしいと思って幾ら調べても、この論文が発表された形跡はない。何故こんなものが、自分のところへ届いたのか隆司には分からない。


(いや、しかし……これがあれば……)


 こんな偶然があるなんて、普通は考えられない。何より勝手に他人の成果を利用する事へ、罪悪感が隆司の中で揺れ動いている。

 使えば良いじゃないかという気持ちと、裏切り者と同じ事をするのかという悩みだ。使えば研究は一気に進むだろう。

 だがこの論文は、隆司が書いたものではない。この研究所が見つけた発見でもない。あくまで他人の研究成果でしかないのだ。

 しかし結局は、隆司の心を動かしたのは見返したいという気持ち。正攻法で無かったとしても、自分の汚名が晴らせるのなら。

 今ここで使ったとして、誰が自分を糾弾出来るだろうと隆司は考えた。勝手に送られて来た物を、ただ使っただけ。盗んだのではない。


(そうだ、これがあれば私は……)


 自分は何も悪くないと、隆司は利用する事を決める。たまたま似た研究をしていた事にすればいい。実際にそこで詰まっていたのだから。

 自らの欲望に負けた隆司は、悪魔に魂を売り払う事にした。かつての名誉を取り戻す為に。例えそれが、他者の研究成果の盗用だったとしても。

 隆司は助手の順平に手伝わせる形で、自分の研究を進める。別種の生命を掛け合わせるという禁忌の研究を。それは碓氷雅樹(うすいまさき)達が和歌山へと向かう、半年程前の出来事だった。

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