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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第4章 妖異達に囲まれて
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第123話 マッドサイエンティスト

 日本のとある人里離れた田舎の山に、金網フェンスで囲われた洞窟がある。フェンスには、高圧電流が流れている事が示唆されている。

 フェンスの中に入る為の入り口は、大きな南京錠で施錠されていた。更に洞窟の入り口付近には、崩落の危険性が書かれた看板もある。

 徹底して中へ入る事を拒むようにされている場所へ、1台の真っ白なワンボックスカーが近付いて来ている。

 フェンスの前で止まった車の後部座席から、白衣を着た30代ぐらいに見える眼鏡の男性が降りて来た。少し神経質そうな、やせ細った男だ。

 目の下にはクマがあり、健康的とは思えない。身長は170センチぐらいか。彼は見た目に気を遣う気がないのか、無精ひげが伸び放題になっている。


「ご苦労~帰って良いよ」


 車内へ向けて、低い声で男性が告げる。車のドアが閉められて、早々に走り去ってしまった。まるでここには居たくないとでも言うかのように。

 1人残された男性は、こんな山奥でどうするつもりなのか。キャンプに来たとは到底思えず、あまりにもこの場に不釣り合いだ。

 何かを調べに来たとするなら、何も荷物を持っていないのはおかしい。洞窟の調査であるなら、せめて懐中電灯ぐらいは持って来る。

 ただフェンスを見に来ただけならば、車に乗って帰れば良かった。では彼は何をしたいのかと言えば、フェンスの中に入る事が目的だった。

 南京錠を開け、フェンスの中へと入っていく。そのまま洞窟へと向かって行き、スマートフォンのライトをつけて彼は進んで行く。


「もうちょっと入り易い作りにさせるべきだったなぁ~」


 男性は1人ボヤキながら、洞窟の途中まで進むと壁を触り始めた。自然に出来た洞窟かと思いきや、壁にカードリーダーが隠されていた。

 突然大自然から、科学の香りが立ち込め始めた。男性がカードキーをスライドさせると、壁の一角が動いて通路が現れた。

 白で統一された通路は、まるで病院か研究所を思わせる。彼は何度も通っているのか、慣れた調子で通路を進んで行く。

 空気が漏れる音と共に、通路の入り口は再び閉鎖された。洞窟内にはもう、科学の要素は一切無くなっていた。

 眼鏡の男性は上機嫌な様子で、通路を進んでいる。まるで家に帰って来たかのようで、先程よりは晴れやかな表情を見せている。


「さあさあ、これでゆっくり出来るよね」


 男性が進んで行くと、エレベーターが見えて来た。彼はパネルを操作して、エレベーターの扉を開ける。

 中に入ると幾つかのボタンが、入り口の壁面についていた。だが普通のエレベーターではないのか、ボタンには何も書かれていない。

 しかし男性は迷う事なく、ボタンを順番に押して行く。するとドアが閉まって、エレベーターは下へと向かって降りて行く。

 知っている者しか動かせないように、対策がなされているのだろう。これでは初めて来た者では動かせない。


「面倒は嫌だね本当に。呼び出しなんてしてくれちゃってさぁ」


 彼のボヤキはまだあったらしい。誰も居ないのに、1人で愚痴を溢している。どうやら上司か誰かに呼び出されていたらしい。

 何があって何処へ行っていたのかは、全く分からない。ただ彼は延々と、抽象的な文句と不満を溢し続ける。

 少し粘着質な面があるのか、やたらとねちっこい内容ばかりだ。その間にも、エレベーターは進んで行く。

 エレベーターの中は平和だが、下降速度はかなり出ている。最新の技術で作られた、高速で移動するエレベーターらしい。

 かなりの距離を降りて行くが、地下施設でもあるのだろうか。1分ほど下降を続けたエレベーターは、ゆっくりと停止した。


「ああ素晴らしき我が家よ。煩いスポンサー共など忘れて、好きにやらせて貰おうねぇ」


 エレベーターから彼が出た先には、多くの部屋が並んでいた。窓ガラスの向こうには、何かの機械や設備が設置されている。

 何を行う施設なのか分からないが、少なくとも病院では無さそうだ。漂う雰囲気からは、何かの研究所のように見える。

 実験で使うような器具が多く見られ、試験管やビーカーが並んでいる。液体窒素のタンクや、何かの薬品が入った棚もあった。

 施設はかなり広いらしく、廊下はどこまでも続いているようだ。だというのに、人間の姿が全く見られない。

 ここは彼1人に任された、特別な施設だとでも言うのか。たった1人で歩く彼は、楽しそうに鼻歌まで歌い始めた。


「ふんふ~ん、ふ~ん」


 だらしない見た目の男性が、妙に明るい雰囲気で廊下を進む。エレベーターから離れていくにつれて、不穏な雰囲気が漂い始める。

 ガラス窓の向こうには、大きな水槽が見え始めた。その中に浮かんでいるのは、怪しげな生物ばかりだ。奇怪と言っても良い。

 犬と甲殻類を混ぜたような不気味な生物、異様に大きなネズミ、見た事もない謎の昆虫。まともな生物が全くいない。

 これらが彼の研究だというならば、気が狂っていると思われても文句は言えない。マッドサイエンティストという言葉が相応しい。

 常人が見れば気分を悪くしそうな空間を、彼は気にも留めず歩んでいく。彼にとっては、見慣れた風景なのだろう。


 暫く歩いていた彼だったが、目的の部屋へ着いたのか、ドアをカードキーで開けた。その中にはパソコンや何かの機械が並んでいる。

 何の目的で使うのか、分からない機械が多い。ただ1つだけ、明らかに不穏な物がある。血と思われる赤い液体が、広がっている大きな台。

 恐らくは解剖でもしていたのだろう。その血が何の血であるのか、判断出来る要素はない。人間の血でない事を祈るばかりだ。

 ここまで続いていた光景から、人間も対象になっていたとしても不思議ではない。それだけの異様さが、この施設にはあった。

 もはや狂人と言っても十分通る男性は、自身のパソコンを起動する。OSが立ち上がると、メールソフトの新着通知が来ていた。


「ハイハイ何ですか~?」


 彼がメールと起動すると、木谷廉也(きたにれんや)博士へという件名がついていた。それが彼の名前なのだろう。本文を読んだ彼は、メールソフトを閉じた。

 それから何かを取ろうとしたのか、室内の棚へと彼は近付いて行く。そんな時、彼は突然動きを止めた。棚の方を見て固まっている。


「おや? おやおやおや?」


 棚に置かれた木製のシンプルな人形(ヒトガタ)が、中心から折れてしまっている。周囲にある同様の人形は折れていないので、本来くっついているのだろう。

 彼は興味深そうに折れた人形の上半身をつまみ、しげしげと見つめている。現代的な施設と、どうにもマッチしない置物だ。

 先程までのグロテスクな光景と比べたら、あまりにも平和過ぎる木製の人形。その頭部には、番号が刻まれている。


「6番が倒されましたか。ま、あまり強い個体では無かったからねぇ」


 人形が折れている事と、6番という何かが倒された事の繋がりが見えない。ただもし彼の言う通りなのであれば、全部で10体の人形がある。

 全てに1から10番までの番号が確認出来る。何らかの方法で、彼の人形と何かがリンクしているなら。あと9体は何かが居る事になる。


「ボスに報告しないといけないなぁ。面倒だなぁ……」


 心底嫌そうな表情を浮かべた彼は、再びパソコンへ戻ってメールソフトを立ち上げた。暫く彼は本文を打ち込み続ける。

 どこの誰へと送ったのか、5分ほど掛けて彼はメールを送信した。それからは彼は、持って来たままの人形を見つめる。

 6番と頭部に書かれた上半身を見て、彼は何を考えているのだろうか。暫くそのままだった彼は、ぼそりと呟いた。


「頭足類同士で作り易かったのは良いですが、やはり防御力がねぇ。どちらかと言えば、失敗作寄りかな」


 彼は興味を失ったとばかりに、6番の人形を放り投げる。綺麗に弧を描いて飛翔した人形は、彼の背後にあったゴミ箱へと入って行った。

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