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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第4章 妖異達に囲まれて
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第122話 事後処理について

 化けダコを倒した大江(おおえ)イブキ達は、周辺海域の調査を続けていた。まだ他に何者かが、潜んでいないか確認する為だ。

 助手の碓氷雅樹(うすいまさき)と、同行者の那須草子(なすそうこ)も一緒に巡視船へ戻っている。冷泉翠(れいせんみどり)は海中を調べている最中だ。

 残念ながらタンカーの方は、トパーズ・プリンセス号と同じく生存者は無し。全員が喰われてしまった後だった。

 状況証拠として化けダコが犯人だと思われるが、見た事のない妖異が現れた以上、全てを疑って掛かる必要があった。

 巡視船の船首に集まった雅樹達は、海上を監視しながら話し合っている。イブキの長い黒髪が、海風で揺られていた。


「結局あれ、何だったんだろう?」


 雅樹は消滅した化けダコを思い出しつつ、その正体について考えていた。彼は海の生物に詳しいわけではない。だから余計と謎だった。


「……分からない。あんなのは初めて見たよ」


 イブキがこれまで生きて来た中で、見た事のない妖異だった。単なる化けダコではなく、タコとイカの中間とでも言うべき存在だ。

 

「突然変異、なのかしら?」


 草子も正体の特定に悩んでいる。身体機能と体はタコで、触腕はイカのもの。頭足類という意味では、タコとイカは同じである。

 どちらも視力が良く、高い知性を持つ生き物だ。だが近いとは言え、基本的には別の生き物だ。今回のような、両方の身体的特性を持つ事はない。

 生活スタイルも違っており、イカは群れを形成するがタコは単独行動だ。それもあって、他の個体が居ないか確認している。

 

 万が一イカと同じ特性を持って居るなら、群れを形成している可能性がある。その場合は、残りも始末せねばならない。

 もし草子が言うように、突然変異の結果であったのなら。何かしらの理由でイカと同じ触腕が必要となり、自らを変えたとすれば。

 その場合は、先程倒した個体のみと考えられる。ただ単にあの個体がそうだっただけで、新種の妖異が複数誕生したのではない。


「でも先生、そんな事ってあり得るの?」


「……結構あるわよ。貴方達人間だって、突然変異はしているから」


 草子に指摘されて、これまで学んだ事を思い出す雅樹。ただの半妖だった人間が、幽霊という形で妖異へと進化する。

 それ自体が元々設計されていた結果ではない。雅樹達人間からすれば長い時間、妖異からすれば僅かな時間で変化が起きている。


「それにねマサキ、新しい妖異が生まれる事だってある」


「そうだったんですか」


 雅樹はまだ16年しか生きていない人間だが、イブキ達は何万年も生きている。その長い歴史の中で、様々な新種を見て来た。

 都市伝説や怪談なんて存在も、彼女達からすれば最近の話でしかない。雅樹が知っている以上に、新種の発生は多いのだ。

 イブキがこれまでに見て来た、新種の発生について解説する。地球上の生命は、基本的に進化していく生き物である。

 必要に応じて、足りない部分を補って行く。即座に変化するのではなく、数百年、数千年と掛けて新たな形態を得る。

 

 最終的な進化先は妖異となるが、そこへ至るまでにも小さな進化を繰り返して来た。そしてそれは、人間も同じであった。

 作られた生命であっても、妖異の因子を持っている。自然に生まれた存在でなくとも、進化する事は分かっている。

 どんな生まれであろうと命ある者は、地球という星のルールから外れない。それが2000年程前に判明した事実。

 人間でも文明を築くまでの知性を得るのだから、他の生命だって独自の進化を遂げていく。もちろん海の生物だって同様だ。


「意思疎通が図れる新種なら良いけど、さっきみたいのはね」


 イブキが肩を竦めてみせる。知性はあっても、意思疎通が出来ない相手。恐らく他の妖異を喰らっていたのもそれが理由。

 生きるか死ぬか、喰うか喰われるか。その本能でだけ生きていたなら、妖異すらも喰らっていたのは不思議じゃない。

 ただ自分の生存圏を守り、捕食して力を蓄える。人間を襲っていたのは、味を占めたからだと考えれば違和感はない。

 

 最初は漁船でも襲い、高い妖力を得られる事に気付いた。そしてどんどん対象を拡大し、タンカーや豪華客船までターゲットにした。

 タコの寿命が長ければ、地球の支配者はタコだったかも知れない。そんな説があるぐらい、タコの知能は高い。

 大きな船を狙えば良いと、気付くまでは早かっただろう。だからこそ急速に、被害が拡大して行った。


「な、なるほど」


「下手に頭が良いと厄介でね。こういう事になってしまう」


 意思疎通が出来ないせいで、妖異の掟を教える事が出来ない。同族とも言える化けダコは襲わないにしても、人魚などは別の種族だ。

 捕食する対象と判断してもおかしくはない。新種の妖異が発生した時の問題は、こういう時に出てしまう。

 特に海は支配圏が複雑だ。陸上のように、支配者がすぐに発見出来ない場合がある。空白地帯で生まれれば、誰も気付く事はない。


「そのせいで、初動が遅れたのよ。海でたまに起きる事態ね。ここまで酷いのは、久しぶりに見たけど」


 草子は喰われた妖異達に同情した。最初は温厚で弱い妖異から、餌食になって行ったのだろうと。彼らを喰らい、化けダコは成長した。

 支配圏を持てない弱い妖異も、数が居れば集められる妖力は多くなる。縄張り争いに負けた妖異達を、片っ端から喰らって行った。

 周囲が気付く頃には遅く、他の海域へ脱出したか、喰われてしまったと思われる。掟が出来ても、妖異は弱肉強食の世界だ。

 全ての妖異が、掟に従うとは限らない。その結果、こうして和歌山沖の妖異が大勢喰われてしまった。元に戻るまで、暫くは掛かる。


「移住を募るしかないだろうね。厄介な事をしてくれたよ本当に。マサキには良い勉強になっただろうけど」


「ええまあ。海について良く知れました」


 イブキは複雑な表情で海を見ている。こうして海が荒れてしまうと、パワーバランスが崩れてしまう。

 支配圏の拡大を狙った周辺海域の妖異が、押し寄せて来る可能性がある。そうなると海が戦いの場となり、決着するまで大荒れする。

 そうなるとまた妖異に犠牲が出てしまうので、あまり有難い状態とは言えない。秩序を維持した状態で、元に戻る方が望ましい。

 私闘があちこちで起きてしまうと、収拾を付けるのが難しくなる。現状でも縄張り争いがあるのに、これ以上激しくなるのはリスクが大きい。

 

 妖異の数を極端に減らさないよう、掟と人間を造ったのだ。大昔に逆戻りでは、これまでの苦労が無駄になる。

 蛇女アカギや今回の化けダコのように、掟を破った者への処罰と本格的な(いくさ)は別物だ。海が許されるならと、陸上で考える妖異が出る危険もある。

 現状でも下剋上を考える妖異だって居るのだから、余計な争いの種は摘んでおく必要がある。イブキとしては、移住者を早く集めたい。

 新しいコロニーを一度作ってしまえば、大乱闘の発生は防ぐ事が出来る。小競り合いは、どの道発生するとしても。


「戻ったよ、別個体は居ないようだね」


 イブキが悩んでいる間に、翠が巡視船へと戻って来た。3時間ほど掛けて捜索して来た翠は、念入りに和歌山沖を確認した。

 彼女のようにイブキや草子とも渡り合える人魚だと、かなりの速度で海中を進める。3時間もあれば、十分な範囲をカバー出来る。


「……ねぇ翠、暫くこの辺りを管理してくれない?」


 帰って来たばかりの翠へ、イブキは更なる仕事の依頼を出す。現状で一番早い解決方法は、移住者が集まるまで翠をここに残す事だ。


「……無償なら断るよ。アタシだって自分の支配圏があるんだ」


 翠は視線で雅樹の方を示す。探索や戦いについては、同族を殺された怒り、そして仇討ちの意味もある。

 だがこの辺り一帯を、一時的でも管理するとなれば別だ。


「はぁ…………仕方ないね」


「待ちなさい酒吞! 勝手な事は許さないわ! 仕方ないとしても、感情までしか認めません!」


 性的な意味でなど、草子が絶対に許さない。雅樹の貞操は、いずれ自分で貰うつもりだったのだ。他者の介在など許容出来ない。

 草子が徹底的に反対した結果、雅樹の感情だけ喰わせる事が決まる。雅樹は何故自分なんだと、頭を抱えていた。

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