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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第4章 妖異達に囲まれて
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第110話 雅樹の保護者達

 碓氷雅樹(うすいまさき)はどうしようかと悩んでいた。大江(おおえ)イブキが所有する雑居ビルの、居住スペースで朝食を食べながら。

 日暮島(ひぐらしとう)の件を片付けて、京都へ帰って来た翌朝から揉め事が起きた。那須草子(なすそうこ)がリビング居る時点で、誰と誰の揉め事かは言うまでもない。


「ちょっと酒吞、まー君の食べ物にはもっと気を遣いなさい」


「なんだい急に? そう変なモノは用意していないけど?」


 朝からやって来た草子は、リビングに並んだ朝食を見るなり一口食べた。卵焼きをヒョイと手に取り、咀嚼すると眉を歪めた。

 それから雅樹に割りばしを要求し、全てを少しずつ口にした。草子もまた、人間の料理を作れる妖異だ。

 雅樹が若藻(わかも)村で暮らしていた頃から、ほぼ毎日のように彼の朝食を作っていた。朝の鍛錬を済ませた後は、共に食事をするのが習慣だった。

 その材料は山や畑で採れた野菜に、村の米農家が収穫した白米。養鶏場で朝採れたばかりの、産みたての卵。味噌汁もまた、村で作った味噌が使用される。

 何もかも全てが、健康を意識した新鮮な材料ばかりだ。都市部のスーパーで買えるような、鮮度の落ちた材料は使わない。


「こんな材料じゃ、まー君の成長に悪いでしょう」


「温室育ちの方が、抵抗力は低くなってしまうけどね」


 草子の主張は間違いではない。だがイブキの言い分も、十分説得力を持っている。良い物だけを摂取するだけが、健康的な成長ではない。

 ある程度のマイナスも含んでいた方が、頑丈な肉体を得る結果に繋がる。耐性や抗体は、なるべくあった方が良い。

 という言い合いを、既に5分程続けている草子とイブキ。雅樹は冷めてしまう前に、食べてしまう事にした。作って貰った身であるから。


 それと同時に、少し慣れて来たのもある。イブキと草子の小競り合いに。以前程に、慌てる事は無くなった。

 何だかんだ言いつつも、両者が共闘する姿を見たからだ。蛇女アカギと戦った時、そして昨日の日暮島での戦い。

 どちらの場合でも、中々のコンビネーションを見せていた。実力を認め合っているのか、戦闘で揉める事は殆どなかった。


「その辺にしたらどう? 先生も何か食べる?」


「……私は食べて来たから大丈夫よ」


 まだ少し何か言いたげな雰囲気を見せる草子だが、雅樹に言われた以上は黙って従う。イブキなりに、考えがあったと理解出来たのもある。

 草子としては、雅樹の現状を確認したかっただけだ。鬼のイブキが、雑な生活をさせているのではないかと疑って。

 イブキが九尾の狐に偏見があるのと同様に、草子もまた鬼に対する偏見があるのだ。実際多くの鬼は、適当で乱暴な者が多い。

 その片鱗はイブキも持っているので、全くの濡れ衣とは言い切れない。しかしイブキは、雅樹の生活に関しては結構丁寧だ。

 両親の仏壇を用意したり、毎日朝晩料理を作ったり。感情を喰らう事に関しては、結構強引なところがあるものの。


「とにかく今日は1日、酒吞が保護者として適格か、見させて貰うわ」


「……さっさと帰ってくれた方が、私は助かるんだけどね?」


 いつも以上に気だるげな表情で、イブキが草子を見ている。座布団に座って、少し冷めて来た朝食を食べながら。

 雅樹から見れば、タイプの違う美女が睨み合っている状態だ。片や黒髪をポニーテールにした、完璧な容姿を持つイブキ。

 そしてもう片方は雅樹にとっての初恋の女性。金髪のショートカットが良く似合う、剣道着を着た彼の師匠でもある草子。

 自身を取り巻く環境が、随分と様変わりしたものだと雅樹は思う。ここ最近は、やたらと魅力的な女性達が、彼の周囲に集まっている。

 どうしてこうなったのかと、雅樹はぼんやりと考えていた。思いもよらぬ現状に、どう対応すれば良いのだろうと。


「マサキ、今朝は昨日の件を報告書にして、妖異対策課に送っておいて欲しい」


「……えっ、あっ、はい」


 考え込んでいた雅樹は、いつの間にか仕事の話へ移行していた事に、全く気付いていなかった。慌てて返事をしながら、今日の予定を頭に入れる。

 先生に見られながらの仕事は、少しやり難いなと雅樹は思う。ただ同時に、成長した姿を見せられるかもと思う部分もある。

 立派に仕事をしているところを見せれば、褒めて貰えるかも知れない。淡い期待を胸に、雅樹は朝食を済ませて2階へ降りた。

 探偵事務所の鍵を開けて、先ずは朝の掃除から始める。丁寧に掃除を済ませる頃には、小言を言い合いながらイブキと草子が下りて来た。


「……ちょっと酒吞! 貴女、まー君に雑用をやらせているの?」


「あ、あ~その、先生違うんだ。これはちゃんと、給料を貰っている仕事でさ」


 イブキが自分を良いように使っているのではないと、雅樹は慌てて説明する。流石にそんな勘違いをして欲しくないからだ。

 自分の師が、命を助けてくれたイブキと仲が悪いのは知っている。小競り合いが起きてしまうのは、仕方がない事だとも。

 ただ出来れば、雅樹は両者に仲良くして欲しい。戦闘の時みたいに、上手くやる事は出来るのだから。今すぐは無理だったとしても。

 雅樹は草子に自分の仕事を説明し、不当な労働ではない事を示した。霊能探偵の助手も、自分でやりたいと思った事を説明した。


「全員は無理でも、出来るだけ人を助けたいから」


「……それはまー君らしい理由ね。良いでしょう、無茶さえしないのであれば」


 その一言については、曖昧な表情でしか返せない雅樹。たまに無茶はしているからだ。そう頻繫ではないけれど。

 もちろん雅樹を良く知る草子は、弟子の表情を見て眉を吊り上げる。まさか無茶をしているのかと、言及しようとした時だ。

 賑やかに会話をしながら、階段を上がって来る声が聞こえた。雅樹はその声を聞いて、嫌な予感しかしなかった。

 言い合いをしながらドアを開けて入って来たのは、雪女と鬼のコンビだった。最近雅樹との接触が、やたら多い妖異達だ。


「ちょっと雅樹君! 大丈夫なん!? 玉藻前が来てるって――」


「雅樹様!? ご無事ですか!?」


 永野梓美(ながのあずみ)一条愛宕(いちじょうあたご)が、勢い良く言葉を並べる。既にここへ、本人が来ているとも知らずに。草子と目があった梓美達は、容赦なく睨みつけている。

 西日本と東日本の妖異は、あまり仲が良くない。当然梓美と愛宕から見て、草子は敵対している相手でしかない。信用なんて出来る筈がない。

 雅樹に近付いてどうするつもりなのかと、疑いを持って見ている。梓美と愛宕は、雅樹と結婚しようとしている。故にどうしても気になるのだ。


「騒がしい()()()ね。まー君の教育に良くないわ」


「……なんやて?」


 梓美と愛宕が、露骨に不機嫌な様子を見せ始める。草子に煽られたのもあるが、何よりその呼び方が気に喰わなかった。

 とても親しげにあだ名で呼ぶその姿は、まるで雅樹は自分のモノだと言わんばかりだ。小娘扱いと合わせて、上から見下ろされた気分になる。

 実際草子から見れば、梓美と愛宕は単なる若い妖異でしかない。生きて来た年数も、溜め込んで来た妖力もまるで違う。

 梓美と愛宕が共闘したとしても、草子に勝つのは難しい。それだけの力の差が、彼女達の間には存在している。


「ま、まあまあ梓美先輩、愛宕さん、落ち着いて。先生もほら、そうやって決めつけるのは早いって」


 イブキと草子の小競り合いに、少し慣れて来たところにコレである。雅樹の悩みの種が、また1つ増えてしまった。

 睨み合う西の妖異と、東を代表する妖異。2匹の山猫が大きな虎と睨み合う幻覚が、間を取り持つ雅樹には見えた。

 仕事の出来るところを見せる予定は、どうやら始まりから波乱に包まれている。雅樹は少し――胃が痛むように感じた。


「あ、あのね先生、俺の友達の永野梓美先輩と、一条愛宕さん。で、こっちが俺の剣道の先生で、那須草子さん。な、仲良くして欲しいなぁって……」


 ヒリつく空気が漂う中で、雅樹は一応紹介した。多分こんな事、言わなくても知っているだろうと思いながら。

 どうにか笑顔を浮かべながら、雅樹は睨み合う妖異達へと願いを伝えた。そんな彼の姿を、呆れた表情でイブキは見ていた。

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