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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第4章 妖異達に囲まれて
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第109話 カナカナ様

 日暮島(ひぐらしとう)にあるとある洞窟。薄明(はくめい)村の住人達が神として崇めていた、とある妖異が住処としている場所。

 本来なら薄暗い筈の空間は、鬼火と狐火で明るく照らされている。日本が誇る最高峰の妖異が2柱と、1人の少年が進んで行く。

 大江(おおえ)イブキが先頭に立ち、碓氷雅樹(うすいまさき)那須草子(なすそうこ)がその後に続く。洞窟を進んで行くと、広い空間に出た。

 大きな空洞の奥には、巨大な昆虫が佇んでいる。カメムシ目セミ科に属する昆虫の一種、この島の名前と同じヒグラシの名を持つ者。

 カナカナ様と呼ばれて来た、神ではなくヒグラシが妖異へと進化した存在。この島の女王でもある支配者だ。


「ふぅん……体だけは随分と立派じゃないか」


 イブキがカナカナの姿を見て、少しだけ驚いている。思っていたよりも成長しており、以前見た時よりも力をつけていたからだ。


「そう言えば、こんな見た目だったわね」


 同じく昔の姿を知っている草子も、かつての姿を思い返している。両者が驚くぐらいには、随分と妖力を貯めていたらしい。

 その答えとも言うべき、証拠が洞窟に転がっている。カナカナに喰われたらしい、人間の頭骨があちこちにあった。


「コイツ、村人を喰ったのか?」


 自分の信者とでも言うべき、村の人達を喰らったのかと雅樹は疑っている。どこまでも村人達を、利用していたに過ぎないのだろうと。

 そんな雅樹の一言に対して、カナカナは鋭い視線を向ける。何も知らない人間が、好き勝手な事を考えるなとでも言うように。


『我が子を喰らう母が居るか。私が喰らったのは、余所者だけだ』


「っ!? なんだこれ!? テレパシーか?」


 突然知らない女性らしき声が、雅樹の脳に直接語り掛けられた。初めての経験に、雅樹は混乱している。耳を介さない会話など、初めてだったから。

 逆にイブキと草子の方は、慣れているのか全く気にしていなかった。カナカナの言葉で大体を察したのか、なるほどという表情を浮かべている。

 彼女達はカナカナが何をしたのか、すぐに理解した。村人達を配下とし、自分の因子を植え付けて子供のように扱っていた。

 だからこそあのような、歪な形で村人達は生きていた。人間の体は、飾りのような物だったのだろう。人間として中途半端で、妖異としても中途半端。

 歪な人外として、今日まで飼い続けて来た。村人達は人間のつもりだったのかも知れないが、どう考えても人外でしかない。


「我が子と来たか。あんなのは妖異ではない。お前の劣化コピーじゃないか」


「虫の考える事は、相変わらず理解出来ないわね」


 イブキと草子から見れば、村人達を子供と表現するには無理があった。ただ無理矢理に、妖異の因子を植え付けただけ。

 自分で産んだわけでもないのに、子供扱いなんて流石に通らない。ただカナカナは元が昆虫なだけに、考え方が違うというのもある。

 鬼や狐は母親が直接子供を産むが、昆虫が産むのは卵である。因子を植え付ける行為を、産卵と同様に捉えているのかも知れない。

 ただそうだとしても、妖異の因子は卵ではない。やはり子供とは、とても言えないだろう。カナカナは独特の価値観を持っているようだ。


『理解されずとも良い。貴様らと慣れ合うつもりなどない』


 5メートルはありそうな巨大なヒグラシが、羽を振るわせながら威嚇している。その大きな目で、侵入者を捉えている。


「一応聞いておこうか、何故侵略行為なんて計画した? この島だけで十分だろう」


 イブキから見て、カナカナが侵略行為をする理由が分からない。人を喰らって多少は力をつけているが、本土の支配者に勝てる程ではない。

 侵略を仕掛けたとしても、返り討ちになるのが目に見えている。この島へ籠っている間に、何か勘違いしてしまったのだろうか。

 どう足掻いても本土に支配圏を持つだけの、十分な実力があるとは到底イブキには思えない。それだけの妖力を保有出来ていない。

 

 支配圏を持つには、それ相応の妖力を必要とする。特に48都道府県の1か所を管理するには、高い妖力を持つ事が大前提だ。

 支配圏を示すラインを引くには、一度に多くの妖力を使わねばならない。日暮島のような小さな島ならともかく。

 ドーム状に妖力を展開し、自身の領域はここだと示す事で、初めて支配者になれる。だがカナカナには、とても出来そうにない。


『決まっているだろう。力をつけて強くなるには、多くの人間が必要だ。この島だけでは足りない』


「はぁ……相変わらずね木っ端妖異は。分不相応に力だけは求めるのね」


 草子はため息を吐きながら、カナカナの愚かさに呆れている。何も力だけが、支配圏を持つ資格ではないのにと。

 上手く人間を管理する能力もそうだし、周囲の支配者に出し抜かれない頭脳も必要だ。力も大事な要素だが、それは資質の一部に過ぎない。

 今でこそ西日本と東日本という、大きな括りで纏まってはいる。だが本来、別の支配圏を持つ妖異は、敵でもあるのだ。

 無駄な争いで自滅をしない為に、今の形で落ち着いているだけ。元々妖異は弱肉強食の世界を生きる存在なのだ。

 だから蛇女アカギはイブキと草子の排除を狙ったし、今後も似た様な真似をする支配者が、出て来る可能性は十分にある。


『貴様らのように、力で他者を抑えつけて来た連中には分かるまい。我らのような妖異の気持ちは!』


「別に弱いなら弱いなりにさ、生きれば良いじゃないか。実際人間を飼えていたのだし。リスクを背負って大逆転を狙おうなんて、バカのやる事だよ」


 カナカナの言う通り、弱い妖異は基本的に立場が弱い。何かを訴えたところで、要望を聞いてくれる妖異なんて殆どいないだろう。

 だがカナカナに関しては、十分恵まれた環境を持てていた。島の人間を上手く管理していれば、妖力が尽きて死ぬ事はない。

 人間の社会で例えるなら、マイホームと車を所有し、田舎で暮らすようなもの。金にも困らず、将来を不安に思う必要もない。

 だというのに、怪しい情報商材に手を出すに等しい行為だ。全く必要のない投資を始めて、大金持ちになろうとしている。


『そんなものは、持つ者の考えだ! 持たざる者の立場にない貴様が、偉そうに語るな!』


「無駄話はもう良いでしょう酒吞。早く終わらせましょう」


 身内でない者の対しては、非常に冷酷な面を持つ草子。彼女は最初から話し合いなどする気がない。サクッと殺して終わるつもりだ。

 雅樹の鍛錬相手に良いかと考えていたが、あまり参考にはなりそうに思えない。もう少し小さければ、良い勝負になったかも知れない。

 だがこの洞窟に5メートルというサイズは、あまり動き回れないだろう。外であれば、飛行型との戦闘訓練になるかも知れないが。

 そこまでして目の前の妖異に、時間と手間をかける価値があると、草子は感じなかった。同じ飛行型との鍛錬なら、知り合いの妖異に頼む方がマシだ。

 僻み根性と野心だけは立派な妖異など、雅樹の鍛錬相手にする必要はない。むしろ愚か過ぎて、草子は同じ妖異と思われたくないぐらいだ。


『我が子を殺された恨みも、忘れて貰っては困るぞ!』


 カナカナがイブキ達に向かって、突撃していく。妖力を抑えているイブキ達に、見た目だけなら勝てると思ったのだろう。

 自分が酒吞童子や玉藻前に、匹敵する力を得たと勘違いしたのか。野心に燃えるあまり、現実が見えていなかった。

 正に井の中の蛙、大海を知らず。日暮島という狭い視点に染まり、現在の情勢も良く知らないのだろう。ただ自分が強くなった気でいたのだ。


「あまりにも愚か過ぎるわ」


「考えを改めるなら、生かしておいてやったのにさ」


 草子が手にした妖刀と、イブキの長く鋭い爪がキラリと光を放つ。僅か一瞬の交錯で、カナカナの頭部と体が斬り裂かれた。

 湿った音を立てながら、カナカナだったモノは肉塊に変わる。頭を落とされても動くカナカナの目が、雅樹には不気味に映った。


「さあ、帰ろうかマサキ」

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