第108話 妖異は野心に溢れている
2026年もよろしくお願いします!
あくまで予定ですが、Xにてネトコン運営さんにリツーイトといいねを押されたので、サメのパニックホラー小説をネトコン14期間内に出すつもりです。
あとギャグとして出すか真面目にホラーで出すか悩んでいる最中ですが、B級ホラーの世界に転生してしまった話もちょっと書きたいなと思っています。
「ちょっと酒吞、サボらないで頂戴」
碓氷雅樹と大江イブキが村人達について、語っていると那須草子が姿を現した。どうやら大体片付けた後のようだ。
草子が普段から使っている妖刀小鴉は、鞘に納刀された状態だ。闘志も感じられず、呆れた表情を浮かべていた。
彼女は雅樹の足元に、頭部が無事な状態の村人を見つける。人である事を辞めてしまった人間の、慣れの果てが倒れている。
幼虫の体が斬り裂かれていないという事は、イブキではなく雅樹が倒したのだと草子はすぐに気付いた。
だがその事を、彼女は褒めようとしない。何故なら彼女にとって、雅樹なら出来て当然の事だと思っているからだ。
この程度の存在に、遅れを取るような育て方はしていない。追い詰められていようものなら、むしろ叱責をせねばならない。
妖異とすら呼べないただの人を辞めただけの連中に、苦戦するとは何事かと。視力を持たないという、明確な欠点まであるのに。
雅樹が妖異に勝てないのは当然だ。しかし負けもしないように、草子は厳しく教えた。妖異未満の存在に、負けられては困るのだ。
「サボってはいないさ。少しマサキに教えていただけさ」
「ふぅん。ねぇまー君、知りたい事があるなら、私に聞きなさい」
雅樹の先生は自分だと、草子は主張したいらしい。雅樹が生まれてから16歳を迎えるまで、面倒を見て来たのは自分なのだからと。
餓鬼から助けてくれた事は、草子も感謝している。しかしそれとこれとは、また別の問題だった。雅樹に物を教えるのは自分だと、草子は思っている。
「嫉妬深い女だねぇ。それぐらい、マサキの自由にさせてあげなよ」
「……なんですって?」
草子の目が細められて、イブキとの睨み合いが始まる。また喧嘩が始まったと、雅樹は肩を落とす。もう見慣れた光景だ。
自分に対する独占欲、つまりは好意から来る結果だと雅樹は理解している。好意自体は嬉しいけれど、争うのは止めて欲しい。
初恋のお姉さんが、こんなにもヤキモチ焼きだとは彼も知らなかった。故郷で暮らしていた頃は、常に好意が草子へと向いていたからだ。
他の女子達は、雅樹が草子を好いていると知っていた。邪魔をしようと考える者はおらず、草子の独壇場だった。だが今はそうじゃない。
玉藻前として、激しくやり合った相手。西日本の代表、酒吞童子。一番仲が悪い相手に、雅樹は懐いてしまったのだ。
「あ、あの! それより、先に進まない?」
小言を言い合うイブキと草子へ、雅樹は一時休戦を提案する。この組み合わせで行動すると、大変だなと雅樹は内心で思う。
最近だと永野梓美と、一条愛宕が一緒に居る時も似たような状態になる。雅樹が板挟みになってしまう機会が、妙に増えてしまった。
イブキは良く分からないが、魅力的な女性達が自分へと好意を向けている。雅樹としては、正直困ってしまう。嬉しい事ではあるのだが。
何よりも、その女性達が全員妖異である。餌としての好意か、心からの愛情なのか。若い彼には判断がつかない。
そして自分の気持ちはどうなのかも、今はまだハッキリと分かっていない。思春期の高校生男子をやっている最中だ。
「それもそうだね。早く終わらせよう」
「まー君、私の近くに居なさいね」
小競り合いを辞めたイブキと草子が、林の奥へと向かって行く。妖異であるイブキと草子は、夜目が利くので本来明かりを必要としない。
しかし人間に過ぎない雅樹は、明かりが必要だった。気を利かせたイブキと草子が、それぞれ鬼火と狐火を浮かべて、周囲を照らしている。
昼間と間違えるほどではないが、十分な明るさを保っている。夜の獣道を歩くのも、そう難しくはなかった。そのまま雅樹達は、とある建物へ辿り着く。
林の中に建てられた、古びた祠。その隣には、洞窟の入り口があった。本来は閉じられているのか、隠すには十分なサイズの岩を移動させた跡がある。
「どう見てもここだろうね」
洞窟の中から感じる気配が、当たりだとイブキに感じさせる。目的の場所はあっさり見つかった。後は奥へと向かうだけ。
「どうやらそのようね。逃げる気は……いえ、逃げられないのかしらね」
草子は気配を探っているが、目的の妖異が動く様子は見られない。ずっと洞窟の奥で、待ち続けているらしい。
日暮島へ乗り込んだ時点で把握されている。酒吞童子と玉藻前が、支配圏へ侵入して来た事を。普通なら逃げ出してもおかしくない。
余程自信があるのか、もう諦めたのか。どちらかは不明だが、進んでいけば分かるだろう。イブキが先頭に立って進んでいく。
雅樹がその後に続き、殿は草子が務める。暗い洞窟には、不気味な雰囲気が漂っている。
しかし雅樹は、一切不安を感じていない。同行している妖異が、どちらも最高峰の力を持っているからだ。
それに蛇女アカギと対峙した事で、雅樹は更に度胸がついた。これまでの経験により、ただ怯えるだけの人間ではなくなった。
しかし怖くないのではない、恐怖心はちゃんと持っている。失ってはならないものだと、雅樹は良く理解している。
怖いと思うからこそ、危険を察知する事が出来るのだから。生物としての生存本能は、ちゃんと機能している。
「ここの妖異は、どんな奴なんですか?」
「……まー君?」
つい癖でイブキへと尋ねた雅樹へ、草子から指摘が飛ぶ。さっき言ったばかりじゃないかと。慌てて雅樹は、聞く相手を変える。
「ど、どういう妖異なの?」
「虫の妖異だったのは覚えているわ。ただねぇ、弱すぎてあんまり覚えていないのよね」
ここ日暮島は、西日本と東日本のちょうど中間ぐらいの位置にある。愛知沖と静岡沖の境目に浮かぶ、小さな島だ。つまりどちらの管轄でもない。
愛知と静岡の支配者も、興味が無いと気にも留めていない。所詮はその程度の存在でしかないのだ。大した妖異では無かった。
「分からないなら、無理をしなくても良いだろうに」
イブキが草子に指摘しつつ、視線を送る。じゃあお前はこんな雑魚を覚えているのかと、草子は鋭い視線を返した。
自分はある程度知っているからと、結局イブキが解説を始める。この島を支配している、ヒグラシが妖異と化した存在について。
始まりはそう大したドラマなんて無い。ただヒグラシが、妖異へと至っただけに過ぎない。それ故に、これと言って強い妖異ではない。
だからこそ、このような計画を練ったのだろう。島の人間達を配下とし、永遠に生きる餌として作り替えた。
民俗学研究会が調べていた、カナカナ様と不老不死の正体は、そんなオチだった。村人達は永遠に生きる人外となり、カナカナへと仕え続けた。
感情というエネルギーを喰らい続けて、力をつけるつもりだったのだろう。しかしそれも、こうしてバレてしまった。
「という感じの、いつもの結果だね。こんな事をしても、意味なんてないのに」
「人外に作り替える意味って、何かあるんです?」
雅樹の質問に、イブキが答えた。この島のように、人口が少ない孤島だと人間が増えない。だが死なないようにすれば、ジワジワと増える。
本土に支配圏を持てなかった、弱小妖異が取れる数少ない手段。しかしそれも、あまり良い手ではない。デメリットは存在している。
「まー君も見たでしょう? ああやって純粋な人間じゃなくなると、感情の質が落ちてしまうのよ」
草子が人間を辞めてしまうデメリットを伝える。彼女が若藻村の住人を、不老不死にしなかった理由がそこにある。
たしかに不老不死にすれば、人間がどんどん増えていく。しかしそれでは、十分なエネルギーを得られない。
最初から人間を有限の生命にしたのは、終わりがあるからこそ生まれる感情があるからだ。不老不死の人外に変えてしまうと、そう言った感情が摂取出来ない。
例えば死の恐怖や、恐ろしいと感じる負の感情。九死に一生を得た時の喜びや、限られた人生をパートナーと共有する愛情。
それら全てが失われてしまい、質の低い感情しか得られないのだ。つまりこの先に待つ相手も、大した力を得られていない。
「ま、弱者が無駄な足掻きをしたってだけさ」
イブキがそう締めくくり、今回の事件に関する詳細を解説した。これが成り上がろうとして、失敗してしまった妖異の末路だった。




