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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第4章 妖異達に囲まれて
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第106話 霊能探偵と雅樹の師匠

 日暮島(ひぐらしとう)へと訪れている碓氷雅樹(うすいまさき)は、これまでの流れを思い出していた。大きく動き始めたのは、大江(おおえ)イブキが帰って来てすぐの事。

 疲れを滲ませたイブキは、雅樹へと衝撃の事実を伝えた。なんと故郷で暮らしている筈の師、那須草子(なすそうこ)が京都に引っ越して来るという。

 初恋のお姉さんでもあり、雅樹としては喜ばしい事ではある。真実を知り一時的に微妙な関係となったが、今では蟠りは殆どない。

 強いて言うならば、自分以外の男性からも――感情を喰らっているという点か。だがそれも、イブキからこの話を聞くと印象が変わった。


「あの女狐、君が心配だから来るんだと。お陰で調整が大変だったよ全く」


 探偵事務所の執務机にドカッと座りながら、心底嫌そうな表情でイブキは不満を溢す。そのせいで暫く、事務所を離れていたらしい。

 東の妖異を代表する存在だけに、草子が京都へ来るのは非常にデリケートな問題だ。玉藻前を良く思っていない妖異は多い。

 妖異の時間的な感覚で言えば、つい最近まで揉めていた東側の総大将だ。今更どういうつもりだと、反発する妖異は当然出る。


「怒りそうな連中の支配圏を、1つずつ周るだけでも一苦労だ。勘弁して欲しいよね」


「だからずっと、留守だったんですね」


 そもそもイブキとしても、草子が京都に来るのは反対だ。本気で雅樹と結婚されてしまうと、冗談抜きで雅樹が死ぬまで一緒に居る未来が来る。

 雅樹の安全という点だけで見るならば、より効果的であるのは確かだ。蛇女アカギが行ったように、雅樹を人質に取られると不味い。

 前例が出来てしまっただけに、懸念材料は減らすべきだというのも分かる。雅樹の安全を守る存在が、酒吞童子と玉藻前になるのだから。

 ただそこまでしなくても、イブキは雅樹を守り切る自信がある。まさか草子ごと命を狙う愚かな者が、出るとは思わなかっただけで。


「だから梓美(あずみ)の正体を明かしてまで、君を守らせたんだよ? 私と梓美が居れば十分だというのに」


 実際その通りの反論をイブキは行ったが、雪女の小娘如きでは自分に及ばないと草子は返した。妖異としての強さなら、草子の言う通りである。

 殷王朝の時代で既に大妖怪だった妲己と、上位の妖異止まりの梓美では力関係が違う。妖異として生きて来た年数が、全く違うのだから。

 その事実を引き合いに出されると、イブキとしても反論の余地はない。草子と同等の妖異となると、そう多くは存在していない。

 なまじ草子はかつて妲己として生き、今では玉藻前として生きている。このレベルの妖異となると、日本国内では限られる。


「君の安全を思えば、確かに効果的ではあるよ? 剣術を今より鍛える事だって、アイツは出来るからさ」


「それはまあ、確かにそうですね」


 雅樹としても、今より強くなる意味が出来た。負けない戦いをもっと出来るようになれば、救える命が増えるかも知れない。

 自分の身だけではなく、誰か1人ぐらいなら。今から鍛えたとて、大勢を救う事は出来ない。それは雅樹も承知している。

 ただそこまで強くない妖異が相手なら、5分ぐらい耐えられるかも知れない。5分が10分まで、伸びる可能性も考えられる。

 とは言え、鍛錬をサボってしまっていた期間が3ヶ月近い。先ずはその時間を取り戻すところから、スタートする事になるだろう。

 問題は草子との鍛錬が再開となれば、鈍った体を叱責されるのは目に見えている事か。怒られるだろうなと、雅樹は冷や汗を掻いている。


「えっと、それで先生は何処に住むんですか?」


「ん」


 イブキは物凄く嫌そうな表情のまま、右手の親指で自分の背後を示す。そこにあるのは、商店街側の窓である。


「え、ええっと……」


 雅樹はここ最近、探偵事務の向かい側で、解体工事が行われていた事を思い出す。空き家と化していた、古い家屋はもう既に更地だ。

 つまりそこに、草子の暮らす家が建つという事だ。しかも自分を鍛えるという事は、道場も用意されるという事なのか。

 確かに数軒ほどのスペースが空いた以上、道場も併設するだけの範囲はある。不可能ではないだろうと、雅樹は脳内でイメージした。


「流石に今回ばかりは、付き合わされた人間達に同情したね。香澄(かすみ)なんて、固まっていたからね。国は今頃、大騒ぎじゃないかな」


 西日本の妖異を代表する存在、酒吞童子ですら大きな脅威である。怒りを買わないように、妖異対策課と国は細心の注意を払っている。

 そこへ更に玉藻前まで移住するともなれば、真実を知る大人達は胃に穴があく程の衝撃だ。事実として東坂香澄(とうさかかすみ)は、1円玉程の円形脱毛症を発症した。

 彼女は妖異対策課の京都支部室長として、今回ほど重圧を感じた事が無かった。雅樹は知らない事だが、玉藻前は冷酷な策略家として知られている。

 身内には非常に優しい妖異だが、敵対する相手には容赦がない。事実として命を狙った蛇女アカギは、容赦なく討伐されてしまっている。

 草子達妖異サイドからすれば、大した事ではない。だが人間サイドから見れば、とんでもない大事だった。


「それで、先生はいつからこっちに?」


「来週……8月の頭ぐらいには来るだろうね」


 急ピッチで進められた玉藻前の移住計画。人間達は恐ろしい程の短納期で、仕事を進める事となった。

 普通なら半年は掛かる建築工事を、1ヶ月でやるようにと命令されてしまった日本政府。完成まで草子は、ホテルで生活をする予定だ。

 いつまで待たせるつもりかしら? という重圧と、手抜き工事なんてまさかしないわよね? という重圧が、総理大臣の肩に圧し掛かる。

 そして待たせている間、香澄はご機嫌伺いを頻繫にせねばならない。雅樹の知らないところで、大人達がストレスとの戦いをしている。


「全く面倒な事になったよ。君の師匠は、少し過保護過ぎやしないかい?」


「ど、どうなんでしょうね?」


 そんな会話から始まり、雅樹の周囲はまたもや大きな変化が起きた。京都へとやって来た草子は、すぐに雅樹へ会いに来た。

 嫌そうにしているイブキを無視して、雅樹を可愛がる草子。ややこしい状況となった探偵事務へ、香澄から連絡が入る。

 齎された情報を元に、イブキは雅樹を連れて日暮島へとやって来た。イブキとしては、草子を連れて来たつもりは無い。


「どうでも良いけど、何故着いて来た?」


「決まっているでしょう? 酒吞がまー君に無茶をさせないよう、監視する為よ」


 黒髪の美女と、金髪の美女が睨み合っている。雅樹は両者の間を取り持ちながら、薄明村の中を歩いていく。

 雅樹以外は周囲の状況を全く気にしていない様子だ。平然と歩いて来るその姿を見て、倖田圭太(こうだけいた)達は困惑している。どうして和やかな空気で居られるのかと。


「き、危険です! 逃げて下さい!」


 高瀬未央奈(たかせみおな)がイブキ達の身を案じて、逃げるように伝える。民俗学研究会の部長、篠原愛花(しのはらあいか)も同様に注意を促した。

 しかし彼らは、全く逃げようとしない。それどころか、どんどん近付いて来ている。異形の村人達は、新たに登場した彼らを警戒している。

 村人達は一斉に、イブキ達へと殺到して行く。しかし次の瞬間には、村人達は異形の頭部を斬り裂かれて倒れていく。

 酒吞童子であるイブキの鋭利な爪と、玉藻前である草子が握る妖刀によって。近付けば斬られ、頭部が地面へと転がる。


「大丈夫ですか! もう安心して下さい!」


 困惑している圭太達3人の下へ、木刀を持った雅樹が助けに入る。3人に近寄りながら、村人を木刀で捌き、蹴り飛ばす雅樹を見て3人は驚く。

 この程度の存在など、怖がるまでもないという雰囲気だ。圭太達には意味が分からなかった。どう見ても自分達より年下の、高校生ぐらいの男の子なのに。

 どうやら助かったらしい事は理解出来た圭太達だが、この状況については全く理解が及ばない。3人を代表して、部長の愛花が雅樹へ尋ねる。


「あ、あの、君は一体……」


「俺は霊能探偵の助手っていうか、あの手の連中の専門家? みたいな。あ、碓氷雅樹って言います。よろしくお願いします」


 愛花達は明るい雰囲気で自己紹介をする雅樹を見て、ただポカンとする事しか出来なかった。

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