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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第4章 妖異達に囲まれて
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第104話 孤島にある村⑤

 民俗学研究会の6人は、行動を開始する前に少し揉めた。女子2人を港に置いていくべきではないかと。

 だが篠原愛花(しのはらあいか)高瀬未央奈(たかせみおな)は、2人で置いていかれても困ると主張。異形と化した村人達の行動範囲が、全く分からないからだ。

 もし2人しか居ない状況で、村人達がやって来たら困ってしまう。それならばまだ、全員で行動する方がマシだと主張。

 他にも長嶋健司(ながしまけんじ)が、代表して1人で行く事を主張した。だがそれではあまりにも、探索の効率が悪い。

 早く船の鍵を見つけて、島から脱出したいのだ。たった1人に任せて待つなんて、時間が掛かり過ぎてしまう。


「……じゃあお前達、気を付けてついて来てくれ」


 健司が先頭に立ち移動を開始する。異形の村人達は、目が見えていないらしい事が分かっている。健司は持っていた懐中電灯を点灯させる。

 5人の学生達も、懐中電灯やスマートフォンのライトを点灯させている。これで相手の目が見えていたら厄介だが、目が無いらしいのは救いか。

 足音に注意しながら、6人は夜の日暮島(ひぐらしとう)を移動していく。昼間とは全く違う世界となり、まるでホラーゲームの中に移動したかのよう。

 村では幼虫の下半身を生やした、異形の村人達が徘徊している。フラフラと歩きながら、何かを探している様子だ。


(何なんだよ、コイツら)


 普段は軽薄な山内春樹(やまうちはるき)だが、流石にこうも奇妙な事態に巻き込まれたら、いつものように軽口を叩けない。ただ気持ち悪い異形達を、気味悪そうに見ている。

 首から生えた幼虫の下半身は、ギチギチと音を鳴らしながら足を動かしている。その音で、彼らはコミュニケーションを取っているのだろうか。

 お互いにぶつかる事は無く、綺麗にすれ違い徘徊している。生態は全く分からないが、関わらない方が良いのは間違いない。

 明らかに普通の人間ではなく、化け物の類であるのは確実だ。頭部が弾け飛んでも尚、生きているのはもう人間と言えないだろう。


(知りませんよ、僕に聞かないで下さい)


 怯えながらも高村祐介(たかむらゆうすけ)は、先輩達に着いて行く。暗闇に包まれた薄明村は、異形の蔓延る別世界と化している。怖がるのも無理はない。

 祐介は僅かな音を立ててしまっただけで、ビクビクと周囲を見渡している。どの程度で察知されるのかも、まだ良く分かっていない。

 10メートルぐらいの距離があれば、小さな音では反応しない。石ころを投げて音を立てれば、村人達を移動させる事は出来る。

 健司が試した結果、それだけは分かっていた。恐らく5メートルぐらいの距離だと、石ころの落ちた音でも反応すると思われる。

 つまりなるべく5メートル以上は離れて、移動するのが安全だという事が現状の対策だ。それ以上は極力近付かない方針だ。


(よし、それでは予定通り3組に分かれるぞ)


 健司が学生達に指示を出す。未央奈は彼氏の倖田圭太(こうだけいた)と2人で組み、祐介と春樹は男子の2人組。そして残る健司と愛花の組合せだ。

 これから村の中を探索し、漁船の鍵を見つける事を最優先とする。それ自体は窃盗だが、今は異常な事態に巻き込まれている。

 とても法律を気にしていられる場合ではない。住居侵入も含めて、目を瞑って貰うしかないだろう。それが健司の判断だった。

 彼は大学の教授であり、自分の生徒達の生命を優先するのは当然だ。もし窃盗諸々の罪に問われるというのなら、自分が責任を取る覚悟だ。


(お前達、絶対に無理はするなよ)


 生徒達に危険な事をさせてしまう事が、健司としては非常に心苦しい。出来ればこんな事、やらせたくはない。

 そんな健司の気持ちを理解している圭太は、分かっていますと答える。隣にいる未央奈も、健司に向かって頷いている。


(スマートフォンは5分毎に確認するんだぞ)


 彼らはグループチャットで、5分毎に報告をし合うように決めている。全員の無事と、現在の状況を知らせ合う為だ。

 3組に分かれた彼らは、薄明村の探索を始める。健司と愛花は村の入り口、島の南側から北へと向かう。

 圭太と未央奈は村の東側、祐介と春樹は村の西側を探索する。それぞれが動き出し、慎重に進んで行く。村人の位置に注意をしながら。

 西側へと向かう祐介と春樹は、民家の影に隠れている。このまま先に進もうとすると、村人の集団が邪魔をしている。非常に危険だ。


(おい高村、回り道するぞ)


(は、はい)


 民家の影から影へと移動しながら、周囲を警戒する。先を行く春樹が、家の影からひょっこりと顔を出す。


(いっ!?)


 すぐ目の前で、幼虫の下半身がギチギチと足を動かしている。息の掛かりそうな程の距離で、接触する事になってしまった。

 どうにか悲鳴を上げるのを耐え、ゆっくりと家の影へと戻る。バクバクと鳴る心音が、聞こえてしまうのではと春樹は不安に思う。

 後ろに下がれた春樹は、呼吸すら止めて後方に居る祐介へと待ったを掛ける。彼の居る所まで戻り、止めていた息を吐いた。


(ふぅ~。あっぶねぇ……)


(だ、大丈夫ですか先輩?)


 猛烈な疲労感を感じた春樹は、へたり込むように地面へ座った。幾ら軽薄な彼だって、異形の怪物と至近距離で遭遇すれば驚く。

 今もまだドクドクと激しく鳴る胸を抑える。耳にこびりついた、ギチギチと鳴る幼虫の音。鼻で感じた、セミの抜け殻と似た匂い。

 暫く悪夢として見てしまいそうだと、春樹は見てしまった光景を思い出す。あまりにリアルで、気持ち悪い幼虫の裏側。


(大丈夫なわけないだろ! 別の道を行くぞ)


(えぇ……)


 少し八つ当たり気味に小突かれた祐介は、困惑しながら立ち上がった春樹の後ろをついて行く。気が付けばもう5分が経っていた。

 春樹が代表してグループチャットを確認し、2人共無事だという連絡を入れておく。当たり前だが、スマートフォンはサイレントだ。

 通知音やタップ音で気付かれてしまうような、バカげたミスは最初から潰している。全員の無事を確認した春樹は、また別の道を進んで行く。

 村人が近くに居ない民家を見つけて、玄関が空いているか確認をする。鍵は掛かっておらず、簡単に侵入する事が出来た。


(おい高村、一発目で当たりじゃね?)


 春樹は玄関に置かれていた、長靴を指差して祐介に伝える。潮の香りが漂う長靴は、恐らく漁業関係者ではないかと。


(や、やった!)


(まあ待て、探すべきは船の鍵だ)


 空き巣の経験なんてない彼らは、出来る限り慎重に家の探索を始める。もしここが当たりだったら、後は鍵を見つけるだけ。

 そうすれば漁船を使って、この日暮島から逃げ出す事が出来る。逸る気持ちを抑えながら、2人で家の中を探す。

 車を持っていない2人は、鍵のありそうな場所がイマイチ思い浮かばない。実家で両親が、どこへ鍵を置いていたか。

 過去を思い出しながら相談する。祐介の親は、寝室へ持って入っていた。春樹の親は、リビングのキーストッカーに掛けていた。


(1階だし、先にリビングから行くぞ)


 祐介は頷いて春樹に着いて行く。少なくとも玄関付近には、鍵の類は見つからなかった。これ以上先に進むなら、より注意しなければならない。

 家の中に村人が居た場合、音で気付かれる距離に居る可能性が高くなる。家の外とはわけが違う。慎重に前へと進む春樹は、ゆっくりとドアを開ける。

 リビングの中を窺おうとした時、横から腕が伸びて春樹の体を捕まえた。どうやらドアが住民に当たってしまったらしい。

 音では無く物理的に察知されてしまい、春樹は腕で抱き締められている。目の前で幼虫の足が音を立てて蠢いている。


「は、離せ化け物! この野郎!」


「せ、先輩!?」


 祐介が見ている目の前で、蠢く幼虫の下半身が春樹の顔面を捕える。鋭く尖った幼虫の足が、春樹の頭部を貫いていく。

 彼の抵抗はなんの効果も無かった。鮮血が舞い、明らかに刺さってはいけない位置まで、幼虫の足が食い込んでいる。

 幼虫が足を引き抜くと、頭部から血と脳漿を垂らした春樹の体が倒れ込んだ。祐介は悲鳴を上げながら、民家を飛び出して行った。

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