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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第1章 世界の真実
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第1話 バケモノとの出会い

新作です! よろしくお願いします。元々書きたかったホラージャンルと、お姉さん×高校生の青春もありつつな作品です。

今日中に4話までアップして、毎朝1話更新でやって行きます。


※1話目からグロありです。

 その部屋は赤かった。

 赤い色が真っ白な新築の壁を染め上げている。より正確に言えば赤黒い血液であり、生き物の体内で流れる大切な生命を繋ぐ為のもの。

 生きている証であり、失い過ぎると死んでしまう重要な液体だ。それが大量に飛び散って、周囲に血の匂いと共にあちこちを染め上げていた。

 フローリングの床、破壊されて真っ2つになった木製のテーブル。倒れた椅子や窓に飾られた白い鉢植えまでも、満遍なく赤で染められている。

 血液が周辺に飛び散るこの現場で、一体何が起きているのか。


 血溜まりの中心に目を向ければ、大人らしき体格の男女と思われる体が倒れている。何故らしきという表現になるかと言えば、あまりにも損壊の激しい死体だからだ。

 辛うじて胸部の盛り上がりが確認でき、破れたエプロンを身に着けた遺体は、恐らく女性だろう。隣に倒れている、スーツ姿の遺体は男性と思われる。

 男女の判断が即座に出来ない理由は簡単で、ハラワタを引き摺り出されたバラバラの肉塊だからだ。頭部は粉砕され元々の顔は全く分からない。

 引き裂かれた肉体は上下に分かたれている。切り裂かれた四肢の数を思えば、2人分だろうと辛うじて判断が出来るぐらいか。

 そんな凄惨な遺体を前にして、躊躇いもなく肉塊を食らっている存在が居た。


「キヒヒッ」


 甲高い奇声を上げたのは1人の女性。服装と見た目だけなら、40代ぐらいだろうか。特に派手でもないありふれたTシャツにジーンズ、首元まである黒い髪。

 しかし明らかに普通ではない所がある。耳元まで裂けた大きな口と、人間の肉体を躊躇いなく口元に運ぶ動作。

 これが普通の人間の行う行動に見えるというなら、先ず常識と価値観を疑うしかないだろう。

 どう考えても普通ではない状況で、肉塊を喰らう彼女は何者なのか分からない。水気を帯びた音と、肉を咀嚼する悍ましい音だけがこの空間を支配している。


 この状況下で1人だけ、真っ当な反応をしている者がいる。高校生ぐらいの見た目をした、1人の少年だった。

 耳が隠れない程度に切り揃えた短い髪、それなりに整った顔立ちの線が細い男の子。

 状況を考えれば、恐らく肉塊となったのは両親で彼は息子なのだろう。あまりの非日常的な光景に、彼は思考能力を失っている。


「うわっ!?」


 ただただ死を恐れて、逃げようとして転倒してしまった。謎の存在に喰われているのが両親なのに、助けようともしない事を咎められる人が果たしてどれだけ居るだろう。

 生命の危機を感じた彼は、どうにか逃げようとした。しかしその動きは、人間の死体を喰らう存在からすれば、想定の範囲内に過ぎなかった。

 なぜなら彼女にとって、人間の恐怖心は美味しい食べ物でしかない。怖がって逃げて追い詰められて、絶望的な状況に追いやられた彼の恐怖心は、人間ではない彼女にとって最高のエッセンスである。

 恐怖に染まった表情で、後ろに下がろうとする彼をバケモノがニタニタと嗤っている。

 舌舐めずりをしながら、人外の存在が少年の方に少しずつ歩みを進める。


 近付いてくる異形を相手に、少年は全力で足蹴りにするも、ダメージを与えた様子はない。昔から剣道を習っていた関係で、それなりに鍛えられた少年の筋力は高い。

 相手が普通の女性であったならば、制圧するだけの力は持ち合わせている。だが彼の目の前にいる異形には、一切の痛痒を与えられなかった。

 まともな抵抗も出来ない彼の首元に、バケモノはゆっくりと手を伸ばす。部屋の隅に追いやられ、異形の女性に首を絞められた少年は、ただ死にたくないと願う。


「うっ……ぐっ……」


 首を掴み持ち上げられて苦しむ少年は、このまま死ぬしかないのかと思った。このまま両親の様に、良く分からい存在に喰われるのだと。

 剣道を習いそれなりに戦える身であろうとも、人間ではない何某かには通用しないと思い知らされた。

 大した抵抗も出来ず、生を諦めかけていた彼だったが、思わぬ形で九死に一生を得た。


「困るなぁ。私の許可なく、こんな風に食い散らかすのは」


 少年が今までに聞いた事のない様な、少し低めの美しい声が凄惨な現場に響き渡る。次の瞬間に少年は解放されて、地面を転がった。

 何が起きたのか分からないまま、少年は急いで這う様にその場を離れた。


「はぁはぁ……一体、何が……」


 少年が部屋の隅に目を向けると、腰まである黒髪のポニーテールと、パリッとした黒いパンツスーツ姿の女性が立っていた。

 その横顔はこの世の物とは思えない程に美しく、陶器の人形かと錯覚する程に全ての配置が完璧だった。慌てて逃げた少年の方に、彼女が顔を向けるその些細な動作すら美しい。

 横顔だけでも美しいのに、正面から見て醜い筈もない。やや吊り目ながらも気怠げな表情を浮かべた、大和撫子という言葉が相応しい整った顔立ち。


 日本人と思われる黒い瞳に、女性らしい丸みのある輪郭。形の良い唇は、綺麗な赤に染まっているが素なのだろうか。

 化粧をしているかの様に全てが美しく整っているのに、全く化粧っ気が感じられない。

 優れているのは顔だけではなく、スーツの上からでもスタイルの良さが良く分かる。

 およそ世の女性全員が羨むであろう完璧なボディラインと、程よくついた脂肪は素晴らしいバランスを保っている。


 おまけに身長も高いらしく、170cmは超えているだろう。そんな美の女神に選ばれたかの様な女性は何故か、右手にキセルを持っていた。

 電子タバコが当たり前の時代に、随分と古風なタバコの吸い方をする女性らしい。

 それにしてもこんな血の匂いが充満する殺人現場で、良くもまあタバコを吸うつもりになったものだ。

 キセルの先端からは、白い煙がモクモクと舞い上がっている。


 そして彼女の左手だが、バケモノの胸部を貫いていた。その事実に気付いた時、少年は意味が分からなかった。

 まだ高校生とは言え、それなりに鍛えた自分の蹴りでノーダメージだった筈なのに。

 しかし突然現れた美女は、発泡スチロールでも破壊するかの様に容易くバケモノを絶命させていた。

 胸部を貫かれたバケモノは、次の瞬間には灰となってサラサラと崩れてしまった。


「なっ、なんで……」


 少年には何もかもが理解出来ない事だらけだ。両親の死も、謎のバケモノも、目の前の女性も。


「ん〜? どうして君みたいな子が、こんな所に居るのかな?」


 困惑している少年をよそに、美女は自身の素朴な疑問を投げかけた。少年からすれば、何が起きているのかも分からないのだ。何故と聞かれても答えられない。

 しいて言えば、ここが最近引っ越して来たばかりの自宅だと言う事だけ。それ以外の回答をする事は出来ず、少年はしどろもどろに答えた。


「あ、えっと、その、ここ、俺の家……で」


「ああ、ならあれは君の親か。災難だったねぇ」


 血なまぐさい空間で、納得した様に美女はキセルを口にする。少年からすれば謎だらけなのに。

 言うことはそれだけかと、肩透かしを食らった気分にもなろう。

 混乱した頭の中では、助かったという安堵と状況を説明して欲しいという思いが混ざり合う。


「あ、あの、これはどういう、事なんです……か?」


「うん? 君は妖異(ようい)を初めて見たのかい? ()()()()()()()()()()()()()()


 少年の問いかけに対して、美女は少し驚いた様な表情を見せた。彼女の説明によれば、彼ほどに魂が純粋で美しい人間は妖異に好まれる。

 それ故に妖異と会った事ぐらいあるだろうと思っていたらしい。


「ふむ…………もしかして、君は昔からの風習を大切にする様な、辺鄙な田舎から来たのかな? 土地神を信仰している様な」


「え、えっと、そう……ですけど。何故、分かったんですか?」


「そういう土地には妖異が寄り付かないからね。可哀そうに、だから気付けなかったのか。君は街中を出歩いたら、あらゆる妖異に目を付けられるよ。きっと両親も、似たような魂を持っていたのだろうね」


 そんなのどうすれば良いのかと、少年は頭を抱えるしかない。どうやら自分は妖異などというバケモノ達から狙われているらしく、両親は既に食い散らかされた後だ。

 またあんなバケモノに襲われたら、誰が助けてくれるというのか。いやむしろ、普通の人間が対抗出来るのだろうか。

 明らかに普通じゃない存在と対峙した少年には、警察や自衛隊が妖異(バケモノ)に勝つビジョンが浮かばない。

 まるでホラー映画の様に、瞬く間に蹂躙される未来なら容易に想像が出来るのに。だから少年は、もう話は終わったと出て行こうとする美女に縋った。

 妖異などという謎の怪物を相手に、瞬殺で勝ったこの美女なら守ってくれるのではないかと。

 助けを求めてスラックスの裾を掴んだ瞬間、美女が少年の方を振り返る。その表情は、一瞬だけだがニヤリと笑っていた。

今までと違い、書き方を変えています。その関係で、1話辺りの文章量は少し上がっております。

基本1話辺り3000~4000文字でやっていく予定です。

2話が8時10分、3話が9時10分、4話が10時10分の設定で予約投稿してあります。

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