二匹の魚
狭い水槽の中で
飼いならされた
魚は
海の広さを知りません
海の存在さえも
知らないのです
そんな事
知り得るはずがないのです
閉ざされた
狭い水槽の中で
自分以外の生きる魚を
全く知りもしないのです
でも
魚は幸せです
泳ぐ事に
不自由することなく
一匹
ただ呼吸をし
自由に尾びれを
動かし泳げるのだから
不自由する事なんて
何も
無いんだもの
だって
ここの場所
この水槽しか
知らないのですから
ここが
魚の唯一の場所で在り
ここが
魚の命の場所なのです
でも
ある日
新しい魚が一匹
水槽の中へと入れられました
新しい魚
ずっと
一匹だった魚は
居心地の悪さを覚えます
一匹で
あれだけ自由に
尾びれを動かせていたのですから
あれだけ
好きなように
この水槽の中を
独り占め出来ていたのですから
でも
月日を共にしている内に
前から居る魚と
新しい魚は
身を寄り添わす事が増えていきました
そして
二匹は
恋に落ちました
新しい魚は
前から居る魚に
そっと話をします
海のお話です
新しい魚が生まれた
場所は
海
そう呼ばれる場所です
そこは
果てしなく続く青の世界
そこは
制限のない自由
どこまでも
どこまでも
泳ぐ事が出来る
境界線の引かれていない
自由
硝子なんていう邪魔が
入りもしない
いくら
身体を動かしたって
大きく動かしたって
ぶつかりはしない
命は溢れ
死は間近に在る
そこでは
毎日
生まれる命があり
毎日
消えゆく命がある
命を知る事が出来る場所
命の在り方が見える場所
そこはね
新しい魚が続けて囁きます
全てを
抱きしめている
青の世界なんだよ
前から居る魚は想いを馳せます
海
そこは
一体
どんな青なんだろう
前から居る魚は
海の存在を知っても
この
住み慣れた水槽に留まる事を
選ぶでしょうか
二匹は
この閉ざされた狭い水槽の中に
居続けるでしょうか
本当の
本物の
海を見てみたい
前から居る魚は
そう思います
本当の
本物の
海を見せてあげたい
新しい魚は
そう願います
きっと
二匹は
この水槽を
飛び出す事でしょう
枠の無い
自由を求め
前から居る魚と新しい魚
二匹で
一緒に
飛び出すでしょう
制限のない海を求め
何があっても
乗り越えていく
二匹は
きっと
そうすると思います
行く手に
何が起きるかなんて
考えません
海に辿り着けるかどうか
なんて
不安も抱きません
可能性の有無なんて
計算しません
水を離れる恐怖は
見えません
ただ
二匹は
二匹の中に
既に在る
海の青
そこへと
向かって進むだけです
ただ
向かうだけ
もう
向かわずにはいられないのです
力の限り
在る力を信じて
二匹は向かうのです
二匹の魚が
ぴしゃんと
水しぶきを小さくあげて
見せたいと願う海へ
見たいと思う海へ
二匹が
夢見た
青の世界へ
飛び込む姿が見えるまで
本当に
後
少しかもしれません