第五話、スライムどのと聖騎士くん。
青い月が美しい深夜。
聖騎士くんの寮の扉の前に液体状のものが現れた。
染みいるように扉の中へ入る。
それは透き通る女性の形を作った。
「ふふふ、聖騎士くん、今宵こそ、某とグチョグチョのドロドロに溶けあうでござるよ」
ス―ス―と気持ちよさそうに眠る聖騎士くん。
透明な手が聖騎士くんへ。
スパアアン
次の瞬間、まばゆい光と共に伸ばした手?が粉々に吹き飛んだ。
ベチョリ
と床に散らばる。
聖女さまの聖結界に触れたからだ。
「そこまでよっ」
バアンッ
聖騎士くんの部屋のクローゼットが音を立てて開いて、聖女さまが飛び出した。
足元には転移の魔法陣。
「今夜は聖女さまかあ」
まぶしそうに眼を細める、隣の部屋の住人の聖騎士
クローゼットの壁の向こうは、隣の部屋のベットになっている。
転移の魔法陣が隣のベットの下にもはみ出てまばゆく光り輝いていた。
当然、聖騎士くんに内緒で設置された転移陣だ。
「このままでは聖騎士くんが目を覚ますわっ」
「移動するわよっ、シェープシフター」
「…………はいはい」
慣れているのか毎度のことなのか素直についてくる透明の女性。
ぷよぷよと床に散らばった手?が本体にもどった。
ちなみにシェープシフターはスライムの最上位進化種。
高い知能を持ち他人の姿を真似ることが可能だ。
聖騎士寮の訓練場に移動した。
「はああ、某がまだか弱いスライムのころ、グチャグチャのドロドロの滅茶苦茶にしてくれた聖騎士くん……」
「この快感をぜひともお返ししなければ……」
頬に手をあてほんのり桜色に。
「くっ、この生殖と捕食の区別すらついてない口唇期止まりの原核生物がっ」
スライムの全身これ、口 ですな。
「二重の核膜に進化してから出直しなさいっ」
「? これ以上進化は出来ないでござるよ」
「まあ、いいでござる、聖騎士くんと一体化できれば良いだけでござる」
右肩を前に、右手を拳を作って左手にそえる。
まるで、居合抜きの構えだ。
「それをっ、捕食とっ、いうのよっ」
聖女さまが背中に背負った大楯を構えながら言う。
――くっ、昔にサムライマスターを喰ってるのよね
わいわい、がやがや
「今夜はどちらが勝つと思う?」
「いや、聖女さまでしょう」
「でも、スライムどのもあなどれませんぞ」
「今夜は義妹ちゃんじゃないんだ……」
光り輝く派手な転移の魔術陣に目が覚めた聖騎士たちが修練場に見物に来ている。
大体、明日が休暇のものが多いのだが。
結構な頻度で勝負している二人。
勝負は一瞬でついた。
「シイッッ」
スライムどのの居合抜きっ。
体の一部が強力なウォータージェットとなり、石造りの床をえぐりながら飛んだ。
「ふんっっ」
前後の斜めに構えた大楯で受ける聖女さま。
スパアアア
盾の上部が奇麗に切り飛ばされる。
「ここおっ」
そのまま低い姿勢でダッキング。
レバーを、タ:タンパツへ。
ズドオオン
神選武器である、盾裏の巨大杭打機の発射音。
ビチャアアア
スライムどのが杭の前方の床に、放射状に散らばった。
パリイ
パイルバンカーの杭が紫色に帯電する。
その後、ウゾウゾと欠片が集まり始めた。
「い いいやあああ」
「こ こんかいも」
「そ それがしの」
「ま」
「まけでごござるなあ」
「あ あ」
欠片がそれぞれにしゃべる。
「しゅぎょう して」
スライムどのの姿が元に戻る。
「出直すでござるよ。 それでは失礼」
床に隙間にしみ込むように姿を消した。
「に、二度と来るなあああ」
聖女さまが叫んだ。
「終わった、終わった」
解散する聖騎士たち。
ちなみに、クローゼットの転移陣を知らないのは聖騎士くんだけであった。
青い月が美しい夜である。