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第四話、聖騎士くんと女隊長。

 静まりかえった深夜。

「女王様とお呼びっ」

 ピシイッ

 黒皮のボンテージ。

 肩下の黒髪の女性が鞭を振るう。

「そして靴をお舐めっ」

 後ろ手に縛られ這いつくばった、ふんどし姿の男性に黒いブーツを出した。

「はいっ、女王さまっ」

 白いふんどしがまぶしい。

「ふふんっ、可愛い子豚ちゃんはブヒブヒ言ってればいいのよっ」

「ブヒイ、ブヒイ」

 ほんの少し扉が開いていたことに二人は気づかない。


 女隊長の家は厳しい騎士の家系だ。

 父は騎士団長。

 母は控えめで貞淑な妻。

 女隊長も厳しく育てられた。


 三人が朝食を囲む。

「……パパ」

「なんだ」

「……ママ」

「なあに、女隊長」

 いまにも泣きそうな表情の幼女が、

「どうしてママはパパをいじめるの?」

「どうしてパパは服をきていないの?」

「くつをなめたら汚いわ」

「パパは子豚ちゃんじゃない」

 拳を握りしめて聞いた。


「女隊長」

 父が小さく言いながら母を見た。

「……そう。 見ていたのね」

 母が頷く。

 二人が、席を立ち幼女の前にかがみ込んで目線を合わせた。

「我が家は武の名門だ」

「そうよ、そして母は蛇剣の使い手よ」

「へびけん?」

「そしてあれは蛇剣の修行よ」

「しゅぎょう?」

「そうだぞ」

「ママにいじめられてたのじゃないの?」

「ちがう」

「そうよ、父は泣いてよろこんでいたでしょう」

「うむ」

 重々しく頷く父。

 優しく微笑む母。

 二人が女隊長を抱きしめる。

 次代の蛇険の継承者は女隊長だ。

「女隊長」

「将来、蛇剣の修行に付き合ってくれる立派な男を探すのだぞ」

「そうよ、泣いてよろこんでくれる殿方を探すのですよ」

「はいっ」


 女隊長の両親は、毎夜繰り返される《《SMプレイ》》のおかげで大変仲が良かったのである。



「女隊長、この前の報告書を持って来ました」

 聖騎士くんが書類を渡す。

「うむ、ご苦労」

 重厚な机。

 椅子に座った女隊長が、書類を受け取りながらいう。

 黒髪のショートだ。

 もう幼い少女ではない。

 過去の追憶から目覚めた女隊長が生真面目な声で聞く。 

「聖騎士、貴様は()M()()()()に興味はあるか?」

「「えっ」」

「SMって何?」

 首を傾げる聖騎士くん。

 まだまだ汚れを知らぬ十六歳。

「(蛇剣の)修業に必要なのだが……」

「子豚ちゃんになってくれないか? んん?」

 ーー父は泣いて悦んでい()からな


「お、おおおお、女隊長ううう、何をおっしゃっているのですかっ」

「お、聖女もいたのか」

「い、行きますよっ、聖騎士くんっ」

 聖女さまが聖騎士くんを隊長室から腕を掴みひっぱりだした。

「前向きに考えてくれよお」

 背後から女隊長の声がした。


「じょ、冗談じゃないわあああああ」


 思わぬ伏兵に大声で叫ぶ聖女さまであった。




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