第二話、聖女さまと義妹ちゃん。
聖騎士くんには義理の妹がいる。
義妹ちゃんが前妻の子、聖騎士くんが後妻の連れ子だ。
聖女さまは聖騎士くんの実家の男爵家に来ている。
聖騎士くんをモノにする為、家族を攻略するのだ。
男爵家の庭の四阿でお茶をしていた。
◆
「お義兄さま、お義兄さま、お義兄さま、お義兄さま、お義兄さま、お義兄さま、お義兄さま、お義兄さま、そのお声を聞かせてえええ」
「「ふんっ」」
ガッ
茶色い目と茶髪の太い三つ編み。
160センチくらいの美少女??である聖女さまが、
黒い瞳に黒髪肩下のストレート。
170センチくらいのスレンダーな美少女、義妹ちゃんと両手をがっぷり四つに組んだ。
「ぐぬぬぬ」
押される義妹ちゃん。
押す聖女さま。
「義理とはいえ実の兄に想いをよせるとわあ」
「おかしいでしょうっ」
「ははんっ、私には前世の記憶があるのっ」
「前世ではお義兄様と許嫁だったのよっ」
「血がつながってないんだからいいじゃないっ」
ちなみに前世では血のつながった実の兄だった。
たしか、前世の名前はモヨコ。
「うぐぐぐ」
押す義妹ちゃん。
押される聖女さま。
「前世なんて言っているのに聖騎士くんは渡せないわっ」
「こっちこそっ、2ピー歳のロリBBAに愛しのお義兄さまは渡せないっ」
「なっ、厨二病のヤンデレのくせにっ」
「「くっ、お互いに言ってはいけないことおおっ」」
「「戦争だっ」」
バッ
白いテーブルクロス。
三段のティーテーブルにはマフィンや小さなケーキやサンドイッチ。
値ははらないものの趣味の良いお揃いのティーポッドやカップ。
それらを背景に二人は相対した。
『キャアットオオ ファイトオオ レディイ グゥオゥオゥ』
カアンッ
聖女さまは、両手をそろえてあごの下に、小さな体をさらに縮めた、ピーカブースタイル。
是が否にも聖騎士くんと寿退社?をするという岩のような意志を感じる。
義妹ちゃんは、背筋を伸ばし、左手をくの字に、右手はゆったりと下ろすフリッカースタイル。
聖騎士くんとの前世の記憶、絆を決してはなさないというような感じだ。
シュパパパパ
射程距離の長い義妹ちゃんのしなやかなフリッカージャブ。
それをそろえた両腕でガードしながら一歩ずつ前に進む聖女さま。
ジャブがかすった頬にみみずばれが出来た。
「くっ」
聖女さまの前進が止まらない。
義妹ちゃんはか弱い男爵令嬢に過ぎないのだ。
近づくにつれて聖女さまが上半身を左右に揺らし始めた。
最初は円を描くように、ついには八の字を書くように変わる。
八の字にパンチが加わった。
聖女さまのデンシリーロールである。
「くううう」
左手のアームブロックで必死に耐える義妹ちゃん。
だが、義妹ちゃんは前世で、あるボクシングカートゥ―ンを読んでいた。
「デンプシーロールには明確な弱点があるわっ」
――そうっ、正確な八の字の左右の動き、カウンターを取りやすいのよっ――
だが、繰り返すが義妹ちゃんはただの男爵令嬢。
魔物対策に戦闘訓練を受けている聖女さまとは違う。
「でもっ」
ドンッ、ドンッ、ドンッ
耐えるっ、耐えるっ、耐えるっ。
「くううううう」
ついに聖女さまが八の字から流れるように真下にかがんだ。
かがんだ姿勢から繰り出されるミドルのショートアッパー。
聖女さまのフィニッシュブロー。
ガゼルパンチだっ。
「ここよおお」
義妹ちゃんがそれに合わせて振りおろすようなしなやかなパンチ。
チョッピングライトだっ。
ドオオオオン
相打ちだ。
二人は仲良く天井に突き刺さったのである。
◆
「はあ、はあ、はあ」
「空が青いわねえ」
二人は、足を投げ出して背中合わせに座っている。
「で、教会でお義兄さまに言い寄る泥棒猫はいないの?」
「しっかり排除してるわ、で、男爵家で見合い話とかは?」
「全部断ってるわ」
「そう」
聖騎士くんはもてるのだ。
「むっ」
ピコン、と義妹ちゃんのアホ毛《お義兄様レーダー》が反応した。
「あっ、聖女さまと義妹ちゃんはこちらでしたか」
聖騎士くんが現れた。
「ええ、こんにちは、聖騎士くん」
「はい、お義兄さま」
サッ
二人は何事も無かったようにお茶を始めたのである。
「仲が好くていいなあ」
二人を見てほっこりする聖騎士くんである。