ep8 実の力のみで3
数分後、さっきの廃ビルから少し離れたビルの屋上にロストはいた。案の定、情報屋から連絡が入っていたので、通話をかけた。
「お疲れ様です」
情報屋は、頭に響く低い男の声で、いつも通り律儀に挨拶からかけてきた。
「ネコか」
「その呼び方あんまり気に入ってないのですが」
「お前全部見てたんだろ」
「厄介でしたね。統制も取れていましたし。まあ、あなたの敵ではないですけど」
「女のほうが厄介だったよ」
「彼女はただのホステスでは?」
「いや、あいつもチーターだな」
「ほんとですか!」
低い声に似つかわしくないくらい取り乱したような反応だった。
「(チートの)内容は?」
「LPがわかる力」
「LPが見えるってことですか?」
「たぶんそう。あいつらがゴニョゴニョ話してた内容が、俺の体力数値だった」
「被弾をそれなりにしてるあなたの天敵ではありませんか。最初に頭数を減らしておかなければ、本当に危なかったですね。複数で取り囲まれたら、流石のあなたでもすぐにデッドですから」
「ブルって知ってるか?」
「誰ですか?」
「女がそいつからチートをもらったって吐いた。信用できるかは分からないが」
「聞いたことありませんね。でまかせを吐いたのでは?」
「その可能性は低いと思う。でも、命乞いで嘘がつける胆力があったら、殺さなかったかもな」
「ご冗談を。あなたは、チーターに慈悲などかけず、問答無用で排除するではないですか。あ、でも、今回は最後女に命乞いの時間を与えたのはなぜですか。もしかして、女をいたぶる趣味でも……?」
「弾切れだったんだよ、あのとき。リロードする前に飛び出してしまったから」
「空の銃を向けているにしては、なかなかの迫力でしたよ。演技力がおありなら、役者にでもなられてみたらいいかがですか?」
「すぐに殺さなかったから得られた情報もあったわけで、いつものように問答無用に殺すもの考え物だな。ちょっと反省しとくよ」
「結局殺すんですからそんなの誤差です」
「調査は進めておいてくれ」
「わかりました。回収した銃はいつも通り送ってください。備品代を差し引いて、振り込んでおきます。お疲れ様でした」
作戦後は情報屋と会話するのが慣例になっていた。戦闘中は誰とも連絡をとらないので、戦闘後は情報を得るためにも、連絡を交わすようにしていた。
「そういえば、よく2度もブラフグレネードが通じましたね。というか、片手で2方向にモノ投げるとか、プロ野球選手も脱帽案件ですよ」
「偽の閃光弾は柱の陰だったから、最初のは男たちからは死角で見えなかったはず。本当に偶々うまくいっただけさ」
「あなたの戦闘センスには感服です」
初見であの偽グレネードを見分けるのは難しい。しかも1度効いたらラッキー程度のお祈り要素の強い手段である。それでも、一瞬でも隙を見せたら負けの世界では、十分使い道があった。
「あまりにもガードを全滅できるような戦力じゃなかった。他に関わった奴らのほうが強いかもしれない。それも調べておいてくれ」
「了解しました。これからもご贔屓に」
ネコからビジネストークらしい締めの言葉を聞いてから通話を切ると、ロストは夜の闇に溶けていった。